さよなら、GFハウス。
さよなら、大好きだった私達の家────
ガサッ
タンッ
大好きだった。
大好きなレスリー。大好きなハウス。大好きな────
あの歌があったから、私は強くいられた。
後悔などない。自分で選んだ道だもの。
世界は変わらない。私が死んで何になる?
ならば私にできることを。
誰より深い愛情を。一年でも長い命を。
何も知らないこの子達に。
今はもういない、レスリーの分まで。
生きたかったのよ。ずっと……誰よりも長く。
悔しかったのよ。たまらなく。彼が殺されていたなんて。
何もできない。変えられない。だからこそ。
せめて生き続けてやりたかった。食べられない人間として!
あの子達は外へ出た。
私は商品を守りきれなかった無能な飼育監。
頂点の地位も、築き上げた成果も、たった今全て失ったわ。
今更あの子達を追ったところで私は……もう────
もしクローネを排除しなかったら。
もしあの日ノーマンに塀の向こうを見せなかったら。
違う結果になったかしら。
いいえ。結果に「もしも」はない。
どの道あの子達の成長は見抜けなかった。
やっぱり私の負けなのよ。
あんなに小さかったのに……。
みんな あんなに 小さかったのに……。
ただ普通に愛せたらよかった。
ザッ… ザッ
追手はすぐにはかからない。
まさか崖から逃げるなど考えない。
痕跡は回収しておいた。
当分は農園も血眼で園内を探すでしょう。
私にできるのはここまでよ。がんばって逃げなさい。
あの日から3か月。
私は今、生きて「外」にいるんだ。
「外」には出荷なんてない。もうあんな思いしなくていい。
12歳にも明日が来る。
見殺しにすることも、されることもしなくていいんだ。
でもこれでゴールじゃない。
「外」に待つのは鬼の社会。
人間は食料。
「外」で生きるということは、敵だらけの中、常に「生存」を勝ち取っていなきゃならないってこと。
家もない。ごはんもない。生きていける社会さえも。
これからは全て。そういうの全て。
全部自分で手に入れていかなきゃならないんだ。
ああ。
自由ってなんて美しく、苛酷なんだろう。
それでも…どんなに厳しくても…
私は逃げる。みんなと生きる。
フィル達も必ず。必ず連れに戻る!!
今日が私達の第一歩
2046年 1月15日
グレイス=フィールド農園より
16名脱走












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!