ばぁうの叫びと同時に、らいとの雷光が森を駆け抜けた。
男の足元へと迫った電撃を、男は身をひねってかわす。
直後、ぷりっつが伸ばした植物が地面から飛び出し、男の腕を狙った。
ちぐさの声が飛ぶ。
その声を聞いたばぁうは、男が次に動く方向を予測して血の刃を放った。
刃は男の頬をかすめ、背後の木に突き刺さる。
男が初めて舌打ちした。
らいとが一気に距離を詰める。
男は後方へ飛び退いた。
だが、着地した場所にはすでにぷりっつの植物が広がっている。
植物が男の足首へ絡みついた。
ちぐさが風を操り、男の身体を押さえ込むように強い風を吹かせた。
動きが鈍った男へ、ばぁうが再び血の刃を向ける。
4人の連携は速かった。
誰かが動けば、別の誰かがその隙を埋める。
相手の動きを見てから考えるのではなく、仲間が何をしようとしているのかを読み、次の一手を重ねていく。
しかし。
男が小さくつぶやいた。
次の瞬間、男を捕らえていた植物が不自然に震えた。
ぷりっつの眉が動く。
植物が、ぷつりと枯れたわけではない。
切断されたわけでもない。
ただ、ぷりっつの意志が届かなくなったかのように、動きを止めたのだ。
男は拘束から抜け出し、間合いを取った。
同時に、らいとが再び雷を放つ。
だが、男は雷を避けながら、視線だけを莉犬とらぴすへ向けた。
その瞬間、2人の身体が倒れる。
莉犬の膝が折れかける。
らぴすは片手で頭を押さえ、歯を食いしばった。
ちぐさが叫ぶ。
2人の耳には、男の声が直接響いていた。
『仲間を攻撃しろ』
頭の奥へと、命令がねじ込まれてくる。
『目の前の4人を倒せ』
違う。
そんなことをするはずがない。
莉犬は震える手を握りしめた。
自分の炎が、仲間へ向かおうとしている。
そう気づいた瞬間、背筋が冷たくなった。
ばぁうの声が聞こえる。
答えたい。
大丈夫だと伝えたい。
けれど、口を開くことさえ難しかった。
『従え』
莉犬の足元で炎が弾けた。
その炎は男へ向かうことなく、地面を焦がして消える。
莉犬はまだ抵抗していた。
一方、らぴすも必死に意識を保っていた。
普段なら、攻撃を受けた瞬間に相手の能力を見極め、対応を考えられる。
けれど、今は違った。
何を考えようとしても、男の声が思考に割り込んでくる。
『お前は強い』
男の声が、頭の中でささやく。
『ならば、仲間など必要ないだろう』
らぴすの指先が震えた。
らいとが振り返る。
らぴすは男を睨みつけていた。
その言葉とともに、水が大きくうねった。
男の表情がわずかに変わる。
2人は、まだ折れていない。
しかし、抵抗を続けるだけでは限界がある。
ばぁうが状況を見抜いた。
ぷりっつが地面へ手をかざす。
今度は、男の足元だけではない。
周囲の木々から伸びた枝が、四方から男へ迫った。
男は後ろへ跳んだ。
しかし、ちぐさが風を巻き起こし、その動きを阻む。
らいとの身体がバチバチ、と雷光に包まれる。
正面から突っ込むと見せかけ、瞬時に進路を変えた。
男が攻撃を避けようとした先には、ばぁうの血の刃が待ち構えている。
男は腕を交差させ、間一髪で身を守った。
その隙を、らいとは見逃さなかった。
雷が男の足元で弾けた。
男の身体がぐらりと傾く。
そこへ、ぷりっつの植物が再び伸びた。
今度は完全には拘束できなかったものの、男の動きを一瞬だけ止めることに成功した。
ちぐさの風が、ばぁうの放った血の刃を押し出す。
刃は男の肩をかすめ、男が集中を取り戻すより先に、らいとの追撃が迫った。
男が初めて苦痛に顔を歪めた。
その瞬間だった。
莉犬の炎が、ぱっと消えた。
らぴすの周囲で揺れていた水も、静かに地面へ落ちる。
莉犬が額を押さえた。
頭の中を覆っていた声が、急に遠ざかっていく。
らぴすも息を吐き、膝に手をついた。
洗脳の力が弱まったのだ。
男は傷ついた肩を押さえ、忌々しそうに4人を睨んだ。
ばぁうが冷たく言い放つ。
男は答えなかった。
代わりに、莉犬とらぴすへ向けていた手をゆっくり下ろした。
2人への干渉は、完全に途切れている。
莉犬は何度か深呼吸をしてから、顔を上げた。
らいとが男から目を離さずに言った。
らぴすが立ち上がる。
いつもの落ち着いた表情に戻りつつあったが、その額には汗が浮かんでいた。
らぴすは自分の手を一度握り、開いた。
身体は動く。
意識もはっきりしている。
それでも、さっきの感覚が消えたわけではなかった。
自分の考えとは関係なく、命令が頭の中へ入り込んでくる。
あれが、敵の能力。
"洗脳"
ちぐさが警戒を解かずに尋ねる。
ぷりっつが答えた。
そして、自分の手のひらを見つめる。
ばぁうが冷静に整理する。
莉犬は男を見据えた。
男は肩を押さえたまま、ゆっくりと笑った。
莉犬の声には、もう迷いがなかった。
男は6人を見回した。
さっきまで余裕を見せていた表情には、わずかな警戒が浮かんでいる。
らいとが踏み込む。
しかし、男は地面を蹴って森の奥へ走り出した。
ばぁうが血の刃を放つ。
男は身をひねってかわし、木々の間を駆け抜けた。
ちぐさが風で追跡しようとしたが、男はすぐに視界から消えてしまう。
らいとが舌打ちする。
ちぐさが莉犬を見る。
莉犬は一瞬だけ考え、首を横に振った。
らぴすがうなずく。
男を逃がしたことは悔しい。
けれど、正体も分からない相手を、何の準備もなく追いかけるのは危険だった。
6人は周囲を警戒しながら、いったん森の開けた場所へ戻った。
ちぐさが心配そうに顔をのぞき込む。
莉犬は笑おうとした。
しかし、さっきのことを思い出すと、表情が曇る。
自分の意志とは関係なく、炎が仲間へ向かいかけた。
もし、4人が男に攻撃してくれなかったら。
もし、らぴすが抵抗しきれなかったら。
考えたくもなかった。
らぴすはそう答えたが、いつもより口数が少なかった。
ばぁうが2人を見比べる。
莉犬は真剣な顔でうなずいた。
そのとき、ぷりっつが倒した魔獣のほうを振り返った。
全員の視線が集まる。
ちぐさが言葉を引き継ぐ。
ばぁうが答えた。
らいとは腕を組み、森の奥を睨んだ。
莉犬は任務資料を取り出した。
今回の任務は、あくまで魔獣3体の討伐だった。
人間の敵が現れるという情報は、一切なかった。
それなのに、あの男は第七部隊のことを知っていた。
そして、2人を洗脳しようとした。
偶然、という言葉では片づけられない。
莉犬が決断した。
ぷりっつが立ち上がる。
らぴすが言った。
4人がうなずいた。
6人は知らなかった。
今回の遭遇が、ただの偶然ではなかったことを。
そして、男もまた、6人の抵抗と連携を見て、考えを変え始めていた。
第七部隊は、思っていた以上に厄介な相手だった。
次に会うときは、今日のようにはいかない。
男は森の奥で立ち止まり、傷ついた肩を押さえながら、静かに笑った。
その視線の先には、アーク本部のある街があった。
《予備資料》
莉犬、本名:苺野莉犬
莉犬は昔、母親の不注意により軽い火事になった台所の火を操り、消し去ったことで両親に能力の存在がバレました。
莉犬は能力が気味悪がられる対象だと分かっていたため、隠し通すつもりだったものの、渋々両親に全てを打ち明けます。
しかし、息子が能力者だと知ると、両親は罵詈雑言を莉犬に与え、当時小学3年生だった莉犬は鬱病を発症しています。
莉犬の鬱状態を感じ取った長男、ななもり(当時18歳)は、その鬱の原因が両親だと知ると、翌日には弟5人を連れて家を飛び出しています。
その時ななもりは莉犬に、鬱になった理由や原因などを一切聞かず、ただ「大丈夫だよ」と頭を撫でてやりました。
その長男の支えや、陰ながらサポートしてくれる次男さとみの協力があり、莉犬の鬱はわずか1年で完治しています。
それと同時にアークへの入隊を決めました。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。