カフェの二階廊下。
はぁ? ‥‥うるさいな。アンタ、頭バグってんの?
俺は俺でうまいことやってるから、アンタはロックでも歌ってなよ。色ボケ野郎。
えっと‥‥ノア? 入るけど、いい?
ノックをしてからドアを開ければ、ノアがネット電話を切るところだった。
ごめんね、誰かと通話中だった?
‥‥頭の弱い知り合いからの連絡。ちょうど終わったから、別にいい。
そう? それならコレ、お昼のハムサンド。
どーも。
ベッドに座ったノアはハムサンド片手に、器用にキーボードを打ち始める。
私は邪魔しないよう、少し離れた場所に足を組んで座る。
見て、これ今朝のパリ新聞。
「怪盗リュンヌ、華麗にミレディの首飾りを盗み出す!」だって。
いつもありがとね、ノア。
だから言ってるでしょ。
アンタのためじゃない?
そういうこと。暇つぶしでやってるんだから、ハンバーガーがあれば十分。
ちなみに、今日のハムサンドのお味は?
‥‥まずくはない。
ふふ、ありがと。
はぁ? いや、別に褒めてないし。
普通だったらそうだけど、シリウスなら褒め言葉でしょ。
最初は口の悪さにビックリしたけど、これでも人を見る目はあるつもりなの。
‥‥アンタ、目が悪いんじゃない?
おかげさまで夜目もバッチリよ。ね、それより‥‥。
前から聞こうと思ってたんだけど、シリウスはどうして「DoT」に?
別に聞いても、おもしろい話じゃないけど。
おもしろさは求めてないからいいの。ね、聞かせて?
‥‥5年前くらい前だっけ。
大学生の時、暇つぶしで大企業にハッキングしたらスカウトされた。
あら、やんちゃね。でも5年前に大学生じゃ、年が合わなくない?
飛び級だから、俺。高校とか、よく知らないし。
じゃあ、本物の天才ってヤツね。
じゃなきゃ、自分で「天才」だなんて言わないし。
自慢でもなんでもなく、そういうカテゴリーなんだよ。
シリウスは私を見て笑いながらも、ずっとキーボードを打ってる。
で? アンタ、ここにいても暇だろ。店に行かなくていいワケ?
今日はカフェも怪盗もお休み。たまには羽をのばさないと。
それに‥‥ノアが何をしてるかは分からないけど、
こうやってキーボードを叩く音が、雨の音みたいで心地いいの。
笑いながら、私はノアの背中にもたれかかって目を閉じる。
一瞬キータッチの雨音が止まり――再び、響きはじめる。
‥‥‥‥ほんっと、変なやつ。
それで、大学を辞めて「DoT」に? 友だちと別れるの、寂しかったでしょ。
別に。友だちなんていないし、いらない。
俺みたいなギフテッド――先天的な天才は、少しズレた世界に生きてるからね。
一般人とは同じものを見ても同じ見方はできないし、考え方も違う。
少しズレた世界、か‥‥。
(‥‥確かにここまで天才だと、周りから浮いて孤独だったのかもしれないな)
「DoT」は天国だね。初めて対等に話せる相手が見つかったワケだし。
ノアは「DoT」が好きなのね。
‥‥ま、嫌いじゃないけど。
なに? アンタも「DoT」に興味でもあるワケ?
んー‥‥興味はあるけど、入りたいとは思わないかな。
大きな組織なんて肩が凝りそうだし‥‥ほら。
私はノアの肩に、後ろから乗りかかり――ふたたび、新聞を見せる。
昨日、私たちが盗んだ財宝が正しい持ち主に戻ったの。
持ち主はもちろん、ずっとそれを見たかった人たちも喜んでる。
こうやって自分の名前が出ると、少しくすぐったい気分だけど、
自分のためじゃなく、このために怪盗になったから‥‥私、今が幸せなの。
‥‥‥‥‥‥。
‥‥アンタはそれでいいのかもな、リュンヌ。
とは言え、まだまだ怪盗としては甘いけど。
あら、そう? 最近はそこそこ名も知れてきたのに。
これでも一応、色仕掛けにも定評があるし。
私はニヤリと笑うと、勢いよくノアをベッドに押し倒す。
これでもまだ甘い? それとも、むしろ甘やかしてあげようか?
シーツの上に倒れたノアは、まばたきをしてから――ぶわっと赤くなった。
はぁ!? アンタ、頭バグってるワケ!? 仲間に色仕掛けする怪盗がどこにいるんだよ、バカ!
バカとは心外‥‥だけど、仲間とは思ってくれてるの?
なんでもいいから、さっさとどいて! ったく、俺までバグったらどうするんだよ。
アンタ、本気で意味がわからないんだけど‥‥どういうつもり?
いい暇つぶしにはなったでしょ?
‥‥‥‥‥‥。
ニヤニヤ笑ったまま体を起こしても、ノアはベッドに倒れたまま私をにらんでいる。
見えている世界は少しズレているかもしれない。
それでもこうしてノアと笑っていられることが、今はなにより嬉しかった――。
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