第13話

4話
1,257
2019/05/17 06:01
カフェの二階廊下。
シリウス
シリウス
はぁ? ‥‥うるさいな。アンタ、頭バグってんの?
シリウス
シリウス
俺は俺でうまいことやってるから、アンタはロックでも歌ってなよ。色ボケ野郎。
あなた

えっと‥‥ノア? 入るけど、いい?

ノックをしてからドアを開ければ、ノアがネット電話を切るところだった。
あなた

ごめんね、誰かと通話中だった?

シリウス
シリウス
‥‥頭の弱い知り合いからの連絡。ちょうど終わったから、別にいい。
あなた

そう? それならコレ、お昼のハムサンド。

シリウス
シリウス
どーも。
ベッドに座ったノアはハムサンド片手に、器用にキーボードを打ち始める。
私は邪魔しないよう、少し離れた場所に足を組んで座る。
あなた

見て、これ今朝のパリ新聞。

あなた

「怪盗リュンヌ、華麗にミレディの首飾りを盗み出す!」だって。

あなた

いつもありがとね、ノア。

シリウス
シリウス
だから言ってるでしょ。
あなた

アンタのためじゃない?

シリウス
シリウス
そういうこと。暇つぶしでやってるんだから、ハンバーガーがあれば十分。
あなた

ちなみに、今日のハムサンドのお味は?

シリウス
シリウス
‥‥まずくはない。
あなた

ふふ、ありがと。

シリウス
シリウス
はぁ? いや、別に褒めてないし。
あなた

普通だったらそうだけど、シリウスなら褒め言葉でしょ。

あなた

最初は口の悪さにビックリしたけど、これでも人を見る目はあるつもりなの。

シリウス
シリウス
‥‥アンタ、目が悪いんじゃない?
あなた

おかげさまで夜目もバッチリよ。ね、それより‥‥。

あなた

前から聞こうと思ってたんだけど、シリウスはどうして「DoT」に?

シリウス
シリウス
別に聞いても、おもしろい話じゃないけど。
あなた

おもしろさは求めてないからいいの。ね、聞かせて?

シリウス
シリウス
‥‥5年前くらい前だっけ。
シリウス
シリウス
大学生の時、暇つぶしで大企業にハッキングしたらスカウトされた。
あなた

あら、やんちゃね。でも5年前に大学生じゃ、年が合わなくない?

シリウス
シリウス
飛び級だから、俺。高校とか、よく知らないし。
あなた

じゃあ、本物の天才ってヤツね。

シリウス
シリウス
じゃなきゃ、自分で「天才」だなんて言わないし。
シリウス
シリウス
自慢でもなんでもなく、そういうカテゴリーなんだよ。
シリウスは私を見て笑いながらも、ずっとキーボードを打ってる。
シリウス
シリウス
で? アンタ、ここにいても暇だろ。店に行かなくていいワケ?
あなた

今日はカフェも怪盗もお休み。たまには羽をのばさないと。

あなた

それに‥‥ノアが何をしてるかは分からないけど、

あなた

こうやってキーボードを叩く音が、雨の音みたいで心地いいの。

笑いながら、私はノアの背中にもたれかかって目を閉じる。
一瞬キータッチの雨音が止まり――再び、響きはじめる。
シリウス
シリウス
‥‥‥‥ほんっと、変なやつ。
あなた

それで、大学を辞めて「DoT」に? 友だちと別れるの、寂しかったでしょ。

シリウス
シリウス
別に。友だちなんていないし、いらない。
シリウス
シリウス
俺みたいなギフテッド――先天的な天才は、少しズレた世界に生きてるからね。
シリウス
シリウス
一般人とは同じものを見ても同じ見方はできないし、考え方も違う。
あなた

少しズレた世界、か‥‥。

あなた

(‥‥確かにここまで天才だと、周りから浮いて孤独だったのかもしれないな)

シリウス
シリウス
「DoT」は天国だね。初めて対等に話せる相手が見つかったワケだし。
あなた

ノアは「DoT」が好きなのね。

シリウス
シリウス
‥‥ま、嫌いじゃないけど。
シリウス
シリウス
なに? アンタも「DoT」に興味でもあるワケ?
あなた

んー‥‥興味はあるけど、入りたいとは思わないかな。

あなた

大きな組織なんて肩が凝りそうだし‥‥ほら。

私はノアの肩に、後ろから乗りかかり――ふたたび、新聞を見せる。
あなた

昨日、私たちが盗んだ財宝が正しい持ち主に戻ったの。

あなた

持ち主はもちろん、ずっとそれを見たかった人たちも喜んでる。

あなた

こうやって自分の名前が出ると、少しくすぐったい気分だけど、

あなた

自分のためじゃなく、このために怪盗になったから‥‥私、今が幸せなの。

シリウス
シリウス
‥‥‥‥‥‥。
シリウス
シリウス
‥‥アンタはそれでいいのかもな、リュンヌ。
シリウス
シリウス
とは言え、まだまだ怪盗としては甘いけど。
あなた

あら、そう? 最近はそこそこ名も知れてきたのに。

あなた

これでも一応、色仕掛けにも定評があるし。

私はニヤリと笑うと、勢いよくノアをベッドに押し倒す。
あなた

これでもまだ甘い? それとも、むしろ甘やかしてあげようか?

シーツの上に倒れたノアは、まばたきをしてから――ぶわっと赤くなった。
シリウス
シリウス
はぁ!? アンタ、頭バグってるワケ!? 仲間に色仕掛けする怪盗がどこにいるんだよ、バカ!
あなた

バカとは心外‥‥だけど、仲間とは思ってくれてるの?

シリウス
シリウス
なんでもいいから、さっさとどいて! ったく、俺までバグったらどうするんだよ。
シリウス
シリウス
アンタ、本気で意味がわからないんだけど‥‥どういうつもり?
あなた

いい暇つぶしにはなったでしょ?

シリウス
シリウス
‥‥‥‥‥‥。
ニヤニヤ笑ったまま体を起こしても、ノアはベッドに倒れたまま私をにらんでいる。

見えている世界は少しズレているかもしれない。
それでもこうしてノアと笑っていられることが、今はなにより嬉しかった――。

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