玲於side
あなたに言われた。
" 一緒に帰れない "
俺は、一瞬ドキッとした。
まさか、あのあなたの口からそんな事が出てくるとは
思ってもいなかったから。
俺も咄嗟に 俺も なんて言ったけど本当は一人。
玄関に行けば溢れかえる人集り。
大っ嫌い。
こういう人混み。
先輩、受験生だもんなぁ。
勉強してるんだろうな。
履き替えを待っていたら向こうから
あなたと涼太が一緒に歩いてくるのが見えた。
なんだよ、あいつ。
俺のこと好きじゃなかったのかよ…
なんて思ったら理不尽すぎる。
俺は降った立場なんだ。
あとからどうこう言えることじゃない。
だけど…なんで涼太なんだよ。
ルックス完璧。
頭も良い。
運動も出来る。
いわゆる、完璧。
何も勝ち目なんかない…
いや、何言ってんだ?
勝ち目?
なんの勝ち目だよ…
自問自答をしてたら目の前に上履きが飛んできた。
思わず吹き出してしまう。
もちろん、心の中で。
上履きの踵に 宮下 と書かれてある。
こんな人混みの中履き替えたら飛んでくに決まってる。
俺は、あなたを探し出して
そういうと ありがとう!!!! とニコニコした。
なんか、その笑顔が無性にムカついて
上履きを取ろうとしているあなたからピュッと上に上げた。
何やってんだろ…
自分でも思う。
別にあなたが誰と帰るなんて目に見えてるのに。
わざわざ聞くなんてどうかしてる。
そう聞いてやればオドオドしだして…ったく。
知ってるけど。
知ってるんだけど…
ヒーローのようにあなたが困った時に出てくる。
なんだよ…
まじで恋人みたいじゃんか。
付け足された感満載の言い方。
ま、どうでもいいけど…
あなたの上履きを下駄箱に入れて俺の靴を地面に落とす。
あの二人を振り返ることなく真っ直ぐ向いて外に出た。
それから、一人。
あ ~ 、つまんない。
いつもより足取りは遅くて
流石、夏。猛暑日。
あいつ、熱中症になってねぇかな。
いつもそれぐらいの熱出しかねないから。
涼太いるから…まぁ心配は要らないんだけど。
.
家に着くと隣のあなたの部屋の電気は付いてない。
まだ…帰ってきてないか…
ま、いいけど。
俺は次のテストに向けてそれなりの勉強をする。
いつも学年トップ入りだったから外す訳にはいかない。
チッチッチッチッ…
時計の針の音が部屋に響く。
いつの間にか2時間が経っていた。
6時。
伸びをして息を吐いた。
ちらっと横目であなたの部屋を見るが電気は付いてない。
もし居たとしたら来るはずだし…
気になりだしたら止まらないという俺の性格上
もやもやし出したらもやもやしっぱなし。
もう、6時なのに。
なんか親みたいじゃん。
高校生が6時過ぎるのって当たり前?
今までずっと一緒にいた。
だから、心配することなんてなかった。
玲於 ~ !!
玲於 ~ !!
って引っ付いてくるあなたがいたのに。
今は涼太…
むしゃくしゃしてベッドに倒れ込む。
てか、むしゃくしゃする意味がわかんない。
するとドタドタと聞き慣れた足音。
バッと起き上がってあなたの部屋を見ると
電気がついている。
ドキッとして…心がじんわりと温まった。
カーテンの向こうで慌てて動く姿が見える。
そんな姿を見てちょっと笑えた。
あなたらしいなって。
すると、ガラガラとベランダが開く音。
俺のベランダのドアを叩く音。
慌ててドアを開けた。
すると、あなたは
そんなに私が来るの楽しみだった?
なんて笑顔で言う。
俺も俺でなんで慌てたか分からない。
落ち込んだように俺の部屋に入ってきて床に座った。
床に散らばる俺の雑誌をペラペラめくって
こういう服が好きなの?
なんて上目遣いで聞いてくるからちょっと慌てた。
なんかあなたの顔を見る度、焦りを覚えるんだ。
ま、あなたのことだから大した事じゃないだろうな。
一緒に…行けない…?
また、涼太。
なんだよ、あいつ。
俺らの常識を奪ってきた。
涼太に言われたからもう朝は行かないってこと。
その瞬間、空気は一気に悪くなるのがわかる。
あなたも顔は変わって目を赤くしてる。
後ろを向いて手を顔に持ってきているのが分かる。
泣いているんだ。
慰めないと…なんて思ったけどどうすることも出来ず…
そう俺に伝えてきたあなた。
なんだよ、ありがとう って。
ベランダのドアを優しく開けて閉める。
今さっきまでいたこの部屋はシーンと静まり返る。
なんだよ…ムカつく。
俺の隣はずっとアイツだったのによ。
何も言えねぇのが悔しい。
好きじゃねぇけど…好きじゃねぇのに。
あいつだけは離したくないそう思うのだった。
理不尽だなって、思うよ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!