あの頃の記憶は鮮明に覚えている。
恐らくこれから死ぬまで忘れることは無いだろう。
真一郎にあの蹴りは少しやりすぎたかもしれない。
けど佐野万次郎……いや、マイキーを俺は恨んでる。
だってシンイチロウはマイキーを選んだのだから。
俺だけのお兄ちゃんでも無く、イザナのお兄ちゃんでもなかった。
何処の馬の骨かもわからねぇ野郎に奪われた。
まぁ、血も繋がってないから奪われたもクソもないんだが。
反吐が出る。
やはり血縁関係が無いと意味が無い。
俺にはイザナと鶴蝶だけだ。鶴蝶は下僕だが。
そんな俺のマイキーへの心情もアイツは察してる筈だ。
それなのにあの名前を出した。やはり俺は悪くない。アイツが悪いな。
時刻を確認する。
朝4時。けれど10月下旬の事もあり辺りはまだ暗い。
そろそろ帰るか。
ベンチから立ち上がると
ふと近くから甘い声が聞こえた。
さっさとボコって帰ろうかと思ったが
散々調べ尽くした名前が聞こえ、その拳を止める。
灰谷竜胆。イザナの部下だ。
ということは隣のヤツは……
灰谷蘭。やはり当たりだ。
そうと決まれば一芝居打とうじゃないか。
少し咳をしてから話しかける。
…あぁ、路地裏を走り回っている時に絡んできた輩だろうか。
真一郎と喧嘩して腹立ってたこともあり、少しやりすぎたかもしれない。
勿論、知っている…が。
俺は面倒事が嫌いだ。ここは回避しておきたい。
それにここでイザナの部下に怪我をさせるなどお兄ちゃんの名が廃る。
しかも変に抗争でも起こしてみろ。
下手したら灰谷兄弟の部下を殺して少年院に入るかもしれない。そんなのは御免だ。
反応的に俺が良いとこのお坊ちゃんで
親に内緒で不良してるとでも勘違いしてるのだろう。
灰谷兄弟も昔はそのような家庭環境だったはずだ。
理解しているのだろう。都合よく勘違いしてくれて助かる。
まぁ、そのように勘違いしているのであれば代わりのモノは察せるであろう?
2人のことは調べ尽くしたので、そんなのは嘘だと分かっている。
………だが、こればかりは致し方ない。あいつらの要望を聞こう。
それなら来んなよ。と言いたいが貯めておく。俺はお兄ちゃんだから。
…確かポケットの中に300万ぐらいあったはずだ。
俺は服のポケットを探る。
そしてベンチの上に手当たり次第金をのせていった。
どうやら灰谷の弟の方にも来ていたようだ。
最近、変態が増えていて鶴蝶や弟が心配だ。やられるタマじゃないだろうが。
すると灰谷兄弟がこちらを向いてくる。
いつの間にかベンチの金はなくなってる。財布にでも入れたのだろう。
2人が去っていく後ろ姿を眺める。
…やはり兄弟というのは良い。2人のお陰でより実感できた。
だが、真一郎のせいで俺が六本木で暴れてしまったから
実質真一郎が悪い気がする。後で飯でも奢らせよう。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。