恩田さんは、自分の顔を私に近づけた。
私は、やってしまったのだ。
この教室での掟。
風に、逆らう。
カザミドリのように、できなかった。
そんな子は…
そんな子は、生きていけないから。
この物語は、壊れきった世界を生きる…
壊れた私の物語だ。
放課後に近づくなり、ななかが私に謝りにきた。
本心を言っても、ななかはずっと謝っている。
ななかをこんな風に罪悪感に飲ませた私は、何を言うことも出来なかった。
恩田さんの後ろを歩く。
歩く距離はそれほどでもなく、すぐ近くのトイレに着いた。
そう言って、恩田さんはドリルを渡してきた。
その量は膨大で、正直すぐに終わるとは思わなかった。
私は、意を決してトイレの床に座りドリルに向かった。
でも、やっぱり問題は難しく、思うように進まない。
座り込んでいる私のお腹を、恩田さんは蹴り上げた。
それだけでは済まず、私の足を踏みつけた。
そう言って取り出したのは、赤色のトランプだった。
私が答えると、恩田さんはトランプの数枚を取った。
嬉しそうに、頬を緩める。
恩田さんの遊び。いや、軽いギャンブルのようなものに、私は巻き込まれた。
それだけではない。
なによ…それ…!
泣き出しそうになっていると、恩田さんが急かし始める。
半分私はパニックになりながら、目を瞑ってトランプを取った。
ゆっくり目を開けて番号を見ると…
もう、半分パニックどころではない。
こんなのは…こんなのって…
そのトランプの番号は…
どんなに目を擦っても変わらない数字に、殴りたくなる思いだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!