ㅤまぁそんな風に、千春の言動に違和感を感じたり、感じなかったりしながら千春と接し、千春と成長していった小中9年間だった。
ㅤそして今、目の前には「△△高校 代xx回入学式」と書かれた看板が立ってある。胸元に咲いた淡いピンクの造花、すれ違う人らはみなピシッとした正装をしていて、だけどそれぞれが顔に貼り付ける表情は、希望に満ちた明るいものから不安げなもの、眠たそうなものまで様々。
ㅤ早いもので、今日から私も高校生の仲間入りとなった。
ㅤ少々心細いものの、父と母とはそこで解散。室内シューズに靴を履き替えたらなんとか人混みの中をくぐりぬけ、掲示板に貼ってあるクラスの割り振りが書かれた表から自分の名前を探す。
ㅤ1組の表から順に、上から下へと複数の見知らぬ名前を目で追っていき、ようやく2組の紙に「三橋 梨央」を見つけた時。ちょいちょいと肩に何か触れたような気がして、振り向く。
ㅤ良かった……優しい子もいるみたいだな。なんて胸を撫で下ろしつつ、まだ少しドキドキしたまま2人で見慣れない廊下を進む。ちらっと横目でその子の名札を見ると、「深栖 純(ふかす あや)」と書いてあった。
・・・
ㅤ少し遡って、2月頃のことを思い出してみる。あの日は朝からとにかく緊張していて。コンビニで買って、会場に向かう車の中で食べた朝ご飯も、全く味がしなかったのを覚えている。
ㅤ送ってくれた両親と別れて、会場に入って。私は不安で仕方なかったけど、周りの子は何故か余裕そうに見えて。何を思ってか、それを周りに悟られないようにと私も少し虚勢を張ったりして。
ㅤけど、うわべだけのそれもすぐ崩れることになる。いやにしんとしている教室の中、まだ寒い2月だというのに、私は冷や汗をかきながらペンケースを漁っていた。
ㅤ消しゴムが見当たらなかったのだ。これだけ見れば大したことないように思えるが、受験となれば話は別。
ㅤ準備はしてきたはずなのに……と思いながらほぼ半泣きで中身をひっくり返していば、その私の姿は余程必死に見えたのだろう。隣の席の子に声をかけられた。
ㅤその時はお礼を言うだけで精一杯で、消しゴムを借りた時も、試験が終わったあとも、しっかりその子の顔を見る余裕はなかったけど……今思えば、あの時声をかけてくれたのも純ちゃんだった。
・・・
ㅤあの時はありがとね〜!なんて、少しずつ力が抜けていくのを感じながらまた歩き始める。……でもふと、廊下の窓に反射した後ろ姿が気になって昇降口の方を見た。
ㅤ腰の近くまで伸びた、長い長い黒髪。人混みの中でも一際目立って見えた後ろ姿が、どうも気になって。でも、そんなわけないか。根拠のない考えでその疑問も解けて、何より純ちゃんの声ですぐ現実に引き戻された。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!