慣れない足取りで廊下を歩く
両手で抱えている花瓶は、幼くとも高いものだとはわかる
落としたらただではすまないだろう
足元と花瓶を交互に見ながらせっせと運び出す
「ね、見てあそこの子」
「なに?」
「まだ子供じゃない?それなのに雑用だなんて
なにか悪事でも働いたのかしら」
「そういうのじゃないよ、あの子は_」
さっきすれ違った使用人と思われる女二人が耳元で話している
ひそひそ話のつもりなのかもしれないが、こちらには聞こえている
自分はあまり人と話さないし、話す相手もいないので周りの声を聞きとるのは上手くなった
それはこの境遇のせいもあるだろう
「…っと」
最後の花瓶を運び終わった
一応全ての花瓶を確認したが、どれも傷ひとつなく運び出せていて安心した
普通の人ならやっと終わったと喜ぶものかもしれないが、自分はそうでもない
何せ終わったとしてもすることが無い
遊び相手も遊ぶものもないので
縁側でまた日に当たるか、庭で虫でも見るかしよう
ーーーーー
庭に足を運んでみたが
やはり自分以外に人はいないようだ。
大人は仕事だろうし、同年代の子供もいないので当たり前ではあるが
自分はいつも心のどこかで誰かいるのではないかと、さみしさから期待しているのかもしれない。
先程見つけたアリの行列を辿っていくと、丁度よさそうな草陰があったので、その裏に座り込む
暇つぶしにはよく虫の観察をしていた。
今日の暇つぶしも虫の観察になりそうだ。
「…」
「…」
アリにとっては大きなであろう蝶を、5、6匹でせっせっと運んでいた
それにもかかわらず、さっきから何もしてないアリがいる。
働きアリの中にも働かないアリがいる事は本で読んで知った。
この働くアリ達はこの働かないアリを
どう思うのだろう。
この働かないアリは働くアリ達を
どう思うのだろう。
いや、
働かないのでは無くて「働けない」のかもしれない。
力が弱くて物を運べない、目が見えなくて餌を見つけられない。
本当はまわりに貢献したくても出来ないだけなのかもしれない。
そんな「働けないアリ」は、どう思うのだろう
自分の、居場所を…
「…」
「…たかがアリに自分を重ね合わせるなんて
馬鹿みたいだ」
ここまで感情移入するなんて、
そんなことを思っていた矢先
「…おい、聞いてんのか?」
声が聞こえた
声の主の方向に振り向くと
黒い、澄んだ色をした髪の2人がこちらを見ていた












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!