【田中side】
あの日からあなたと連絡を取っていない。
何度も何度も電話をかけようとしたが、最後に見た怯えて震えるあなたの姿を思い出すと発信ボタンを押せずにいた。
そして俺はあの日、最大の過ちを犯してしまっていたから…
その事もうしろめたくて、連絡できないでいた。
ドラマが始まってしばらくした頃、あなたからメールが届いた。
めちゃくちゃ嬉しかった。
そこからまた会うようになった。
でもお互い、あの喧嘩のことには触れなかった。
ギクシャクはしていたが、俺はあなたのそばにいられるだけで幸せだった。
そんなある日、あなたの友達からメールが届いた。
《ごめん、あなたにあの事がバレちゃった。》
え?どういうこと?
俺はパニック状態。
思わず相手にすぐ電話をした。
「もしもし?どういうこと?」
電話をしたら後ろがザワザワしていた。
「あら。すごい。メールしても電話しても無視されてたのに、あの子の名前出したら即レスなんだね。」
「そんなこと、どうでもいい!バレたってどういうこと?」
「そんな慌てないでって。」
後ろからは《誰から?》《もしかして、年下のあの子?》みたいな声が聞こえる。
「今、まだ外だからメール送るね。」
そう言われ、電話を切られた。
なんなんだよ、どういうことだよ。
俺は何度もメールをセンターに問い合わせた。
なかなかこなくてじれったい。
しばらくするとアイツからメールが届いた。
それは俺の寝顔の写真と《これ、見られちゃった》という本文のみ。
ふざけんなよ、いつの間にこんな写真撮ってたんだよ。
俺も迂闊だった…
とにかくあなたの誤解をとかなきゃ。でもどうすりゃいいんだ?
どうすればいいのかわからない…
悩んでいると電話がかかってきた。
『あなたの名字 あなた』
俺は急いで電話に出た。
「もしもし、樹?今平気?」
あぁ。大好きなあなたの声だ。
こんな時なのに声が聞けて喜んでしまった。
「うん、平気。最近忙しくて会えてなかったけど元気だった?」
「うん…ねぇ、今から少し会えない?」
会いたい。でももう俺は家だし…
「ごめん、もう家なんだわ…。」
「実は近くまで来てるの。ちょっとだけ出てこれないかな。」
「行く。」
そう言って近くの公園で待ち合わせをした。
俺はとにかく急いで向かった。
あなたはバイクを飛ばしてわざわざ会いに来てくれていた。
会いたくて会いたくて仕方がなかったあなたが目の前にいる。
本当は今すぐ抱きしめたい。抱きしめ返してほしい。
でもぐっと堪えた。
「わざわざこんなところまでごめん。」
「ううん。私こそ突然ごめん…とりあえず座ろうか。」
そう言って近くのベンチに座った。
あなたと俺以外、公園には人がいなかった。
「「あの!!」」
2人同時に話し始めてしまった。
「ごめん。あなたからどうぞ。」
「うん…もう単刀直入に聞くね。私の友達と…浮気したの?」
そうだ…あなたに会えた事が嬉しすぎてバレたという事実をすっかり忘れてしまっていた。
何をどう説明しよう。悩んでいるとまたあなたが話し始めた。
「ジェシーが見たっていう腕を組んでたのもあの子なの?もうあの時からそういう関係だった?私との約束を断ってあの子と会ってたの?」
「違うっ!」
俺は思わず否定した。
「あの日は本当に仕事が長引いたの。帰る途中に偶然あの人に会って絡まれたの。ほんと、それだけ。」
本当にただそれだけだった。腕は組まれたけどすぐに離してもらった。
「じゃあいつから?その…そういう関係になったの?」
目に涙をいっぱいに溜めて、必死に泣くのを我慢していた。
「私…樹の寝顔の写真…見ちゃったの…。」
あぁ、最悪だ…
正直に言うしかない。きっと正直に言えばあなたは許してくれるはず。
「1度だけ。あなたと喧嘩したあの日。偶然またあの人に会ったの。で、話をしていたら…」
「流れでそうなったの?私が突き飛ばしたから、その腹いせに?」
「違うっ」
「じゃあ何?樹から誘ったんでしょ?腹いせじゃないなら、あの子に本気になったってこと?」
え?どういうこと?俺が誘った?
俺は何度も断った。でもあっちが…
「違う!俺が誘っ…」
「もういい。」
え。ちょっと待って。もういいってどういうこと?
「腹いせだろうが本気だろうが浮気だろうが…事実として、樹はあの子と…寝たってことよね。」
「あの子を抱いたのに、何もなかったようにこの数カ月間、私と過ごしてたの?」
あなたといるのが幸せすぎて、1回だけだし、バレなければいいやと思い始めていたのは事実だった。
「いや、でも…」
俺は必死に言い訳を考えていた。
「ごめん…別れよう。」
突然のあなたからの別れの言葉。
ちょっと待って。え。待ってよ、あなた。
「別れるって…ちょっと俺の話も聞いてよ。」
「聞きたくない。」
そう言って手をぎゅっと握りしめ、俯いたあなた。
ぽとぽとと涙がこぼれ落ちていた。
「あなた…」
そう言ってあなたの手を握ろうとしたその時。
「触らないで!!」
俺は全力で拒否され、手を引っ込めた。
「あの子に触れたその手で…私に…触れないで…」
ぽとぽとと流れ落ちる涙を俺は隣でただ見ることしかできなかった。
俺、なんであの時あんなことしちゃったんだろう。
俺は自分のしたことの重大さに今更気がついた。
こんなにあなたのこと、好きなのに…
どこか甘えてたんだろうな。あなたなら何しても許してくれるって…
最低なことしたのに…あなたの優しさに甘えてた。
そんなことを考えていたらあなたが立ち上がった。
「突然押しかけてごめん。でも話せてよかった。うちにある樹のものは実家に送るから。じゃあね。」
「ねぇ、待って。もう別れるしか選択肢はないの?」
あなたから返答がない。
もしかしたら、もう少し縋ればどうにかなるかも。
「ねぇ、あなた。」
そう呼びかけたがあなたの決意は固かった。
「ごめん…さようなら。」
そう言ってあなたはヘルメットをかぶり、バイクで去っていってしまった。
隠さず、すぐに話していれば何か変わっていたのかな。
いや、俺があの時あんなことをしてしまった時点でダメだったんだよな…
残された俺は『別れ』という事実を受け止めきれないでいた。
.










編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。