あなたの下の名前side
急に差し出された手を
じっと見つめたまま固まる私を見て
面白そうに笑いながら
田中「俺、田中樹。好きなように呼んで」
目の前にあるもう1人の手を雑にどけて
彼もまた手を差し出す。
髙地「お前さぁ(笑)」
手の行き場を失った彼は
指をパキパキと鳴らしながら
仲間にメンチを切る。
田中「こいつの事はほっといていいよ」
そう言って手をグイッとさらに前に差し出す。
まるで、敵じゃないよと語りかけるように。
あなたの下の名前「....何がしたいんですか」
田中「握手だよ、握手」
ほら、と手を揺らす。
髙地「おい樹、人間には順序ってものがあるだろ」
そう言いながら頭をペシッと叩いた。
そしてこっちに体を向き直す。
髙地「あなたの下の名前ちゃんさぁ、俺らの仲間にならない?」
あなたの下の名前「は、?」
何を言ってるんだか。
元とは言えど敵組織の人間を仲間にする殺し屋が
今までいただろうか?
腹部の痛みなんて忘れてしまう程に
動揺していた。
田中「てか、もう俺らの仲間だから」
本能が警鐘を鳴らす。
これは罠だ、と。
そう、これは罠。確実に。
あなたの下の名前「black doveに狙われてる人間を仲間にしてもいい事ありませんよ」
そう言い、足早に2人の横を通り過ぎ
倉庫の扉に向かって歩き出す。
ドアノブに手をかけ、開けようとした瞬間
反対側から勢い良く扉が開き
体に当たる。
疲労に怪我が積み重なった身体では
到底抗えず
そのまま引き寄せられるように
地面へと倒れそうになる。
目をぎゅっと瞑り
背中への衝撃に備えた時
「っと、危ねー」
扉を開けたであろう人物の片手で
ヒョイッと支えられる。
逃げなきゃ、そう分かっているのに
歩くので精一杯だった身体は
1度力を抜いてしまえば簡単には動かない。
「慎太郎?どうした?」
ぼんやりとする視界には
後ろから顔を出し心配そうに見つめる3人の顔。
髙地「慎太郎!その子車まで運んで」
森本「お、おう」
走ってきたんだろう
息が上がっているさっきの2人。
田中「俺らが死なせねぇから、大丈夫」
髙地「もう少しの辛抱だからね」
そう言いながら抱き抱えられてる私の顔を覗き込む。
不覚にもこれが本当の仲間なのか、なんて
出会って数分の人達をそう思ってしまった。
逃げなきゃ
意識を保たなきゃ
そう理性が呼びかけるのに
お腹から流れる血は止まることを知らず
無情にも意識を朦朧とさせていった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。