第12話

煙たい相手
25
2025/11/16 01:48 更新

仁氷無二アヒム
......

窓から見える景色は、学校で送るはずの青春が映されている。
そう感じるほど、楽しいものではなかった。

でも、嫌いだと思っていても、案外、思ってるほど辛くなかったりする。
目にわかるいじめをされているわけじゃないし、かと言って、嫌なことがないのかと言われたら首を横に振るけれど....
それでも、理解してくれない人が多いから、仕方ないと腹を括る。

鞄を掴んでさぁ教室を出ようとした時に、ふと軽やかな音楽が聞こえた。
後ろから、規則的な歩き方になにか重い物を持っているような感じ。
風を感じるたびに影が揺れる事実から、きっとクラスメイトだろう。
仁氷無二アヒム
......
そう思ったところで、関わりがないから話しかけることはない。
それは向こうも同じことだ。

振り返らずに鞄を勢いよく掴む。
横目で見るそのクラスメイトは、どことなく似ている雰囲気だ。
教師
おう、まだ残ってたのか。
教師
丁度いい。
教師
仁氷無。このプリント後で職員室に持ってきてくれ。
教師
結構量が多いから.....ああ、悪いんだけど、仁氷無と一緒に手伝ってくれる?
教師
蝶雨さん。

言葉を発する必要性を考えろ。
無論、勝手に頼まれただけ、反応することは無いだろう。

断る余地も与えず教室からさっさと出ていってしまう教師には、流石の僕も虫唾が走る。

っと....そんなことより、蝶雨さんは.....
蝶雨ユーヴァ
....

夢中になって本の整理をしている彼女。
たった今、なぜ彼女が学校内で裏人気投票第2位なのかよく分かった。

でも、僕も一応頭はいい。
彼女の欠点を一つ上げるのだとしたら、それはきっと"目的"という到達点を感じさせないもどかしさだ。
本を一冊一冊丁寧に整理しているさなかでも、違うことを考えているように思えてしまう。
彼女は、きっと我々と別の境地にいるのだろう。

そして、もしかしたら、その境地を目指して調べまくってるお友達が存在するんじゃないかな。
君のようなおかしな人は、絶対に何か抱えてる。
それを見つけてやろうと、必死になって探す者が......
仁氷無二アヒム
手伝うよ。
蝶雨ユーヴァ
......

少し目を見開いたのを見逃さなかった。

本の整理を一旦やめて、そしてこちらに顔を向ける。
目を合わせたくはなかったから、本に視線をやりながら、そっと近づく。
その過程で、鞄を投げた。
蝶雨ユーヴァ
.......んー。

そんな声で、思わずニヤついた。

僕は、本から視線を離して、初めて彼女の顔を見た。
瞳は綺麗だし、声も透き通ってるし、スラッとしてる。
蝶雨ユーヴァ
私の姿を見た瞬間、貴方、何を考えたんですか?

そんな問いの答えはすぐ出た。
"目的"を探させるような、性格の悪いやつ、僕は少なくともそう考えたんだ。
蝶雨ユーヴァ
.....
蝶雨ユーヴァ
私、貴方嫌いです。
仁氷無二アヒム
.....w
仁氷無二アヒム
同感だ。
思わず、本の整理している手を止めてしまった。


本の動作、映る歩幅の規則的な歩き方。
更には、私の手元。
物的証拠もないただの勘なんだろうけど、それを私に言わないことも、しまい込んで勝手に理解してしまう頭の良さも、今まで出会ってきた中で一番たちが悪いね。

あーあ。
目的を一緒に探ってくれるのならそれで良かったのに....

私はユーヴァ。
ただの普通の学生だ。
この時代の人間に、本来の"私"というものを見せる必要性は無い。
私としたことが.....やらかしたよ。
蝶雨ユーヴァ
....いけませんか?
蝶雨ユーヴァ
私という存在を、私自身が隠し込むのは.....
仁氷無二アヒム
悪いことじゃないと思うけど、
仁氷無二アヒム
僕は、その目的よりも何故隠しているのか、そっちの方が知りたいよ。
蝶雨ユーヴァ
何故だと思いますか?
仁氷無二アヒム
そうだな.....守る為とか。
蝶雨ユーヴァ
半分正解、半分不正解です。
仁氷無二アヒム
....それは残念。

初めてのことが多いこの世の中。

私の目的よりも、なぜそれを隠しているのか...
最初、自分でもよく分からなかった。
ユーヴァになって、蘭天を見つけて、さぁどうしようと考えたときに浮かんだ答えは、時代のままに。

ファンアという謎多き鬼の子は、この世界に現れなくてもいいんじゃないかなって思った。
蘭天と関わるのは、少し違うんじゃないかなって。
だけど、会いたくなってしまった。
いわば"会った目的"を言うと私の純粋な欲になってしまう。
それほどまでに、やり残したことが多すぎた。

後悔してるよ。物凄く。
人と深く関わることをしないで過ごしていたから、私は人との関係というのを忘れてしまった。
別れたあとは?残したものは?人生は?
そんな問題を、見捨てて私は死んでしまった。



蝶雨ユーヴァ
....
蝶雨ユーヴァ
私が目的を隠すのは、もう少しこの時間で生きていたいのと、その事実で悲しむことが無いように。
仁氷無二アヒム
.....これは、あくまで僕の予想だけど、
仁氷無二アヒム
この間の殺人は、君が殺したのか?
蝶雨ユーヴァ
.....w
蝶雨ユーヴァ
その通り。
仁氷無二アヒム
......
蝶雨ユーヴァ
.....

カーテンが揺れる音だけが聞こえる。
二人は、お互いに目を合わせていない。
同じクラスメイトなのに、ただの普通の友達なのに。
全く、見ようとなんてしなかった。

だけど、それでも不器用に、沈黙を打ち破ったのはユーヴァだった。
蝶雨ユーヴァ
何も言わないのですね。

手は、また本の整理に戻っていた。
蝶雨ユーヴァ
警察とか、教師とか、それから色々。
もう少し、私に興味を持ったらどうですか?
仁氷無二アヒム
持たないよ。
弄ばれるのが目に見えているんだから。
蝶雨ユーヴァ
.....
仁氷無二アヒム
珍しいな。
蝶雨ユーヴァ
....ん?
仁氷無二アヒム
もう少し、貴方は周りを信じるべきだ。
蝶雨ユーヴァ
......w
蝶雨ユーヴァ
信じてないとでも?
仁氷無二アヒム
信じてないだろう?
仁氷無二アヒム
僕は、貴方みたいな人間が嫌いだ。
全てを自分のせいにして、自分のことは何も話さないのに周りを手玉に取っている、
仁氷無二アヒム
そんな人間反吐が出る!
仁氷無二アヒム
自分がそんな偉いのか?
孤独に生きて、一人を好んで、貴方はこれから全ての人を避けていくのか?
仁氷無二アヒム
絶対に、後悔する。
絶対に......
蝶雨ユーヴァ
......あはは。
蝶雨ユーヴァ
......
蝶雨ユーヴァ
ほんと、貴方は似てますよね。
仁氷無二アヒム
似てる?誰に

意味ありげに、微笑した。
蝶雨ユーヴァ
嫌いです。一番。
蝶雨ユーヴァ
分かっているのにも関わらず、自分しか信用していないことも、この会話で何か掴もうとしていることも。
蝶雨ユーヴァ
自分の全てを理解している。
仁氷無二アヒム
ああ、そうだな。
蝶雨ユーヴァ
その限界を超えずとも、他よりも圧倒的に洞察力が高いこと......
蝶雨ユーヴァ
今までで、一番不愉快です。
視線が交差する。
とっくに本の整理は終わっていて、お互いに時間を余すだけだった。
教師からの頼まれ事すらやる気になくて、少しの時間、余韻に浸る。
仁氷無二アヒム
じゃあ、教えてくれる?
仁氷無二アヒム
似た者同士、貴方の秘密を聞かせてほしい。
そうしたら、僕のとっておきを話してあげる。
蝶雨ユーヴァ
.......




その時、廊下からとある足音が聞こえた。
鞄を持ってテストが終わった開放感から浮かれてゆっくりと歩いている者が。

そして、その教室の前を歩いたとき、ふと声が聞こえていた。
ファンア
名は"ファンア"
仁氷無二アヒム
ファンア.....ファンア.....まさか、!
黒髪から、群青髪に。
猫目から、透き通るような淡い瞳に。
幼い声に、白い肌。
優しく微笑み牙を向ける、自分の正体、数多くの小説に描かれてしまっているのだった。
ファンア
吸血鬼だよ。













鞄を強く握るどころか、落として口を開けていた。
その時、声にはならなくて、ただただ目を見開いていたのだ。

























楓菜ふうなゆん
.......え











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