私と由姫ちゃんで何とかたっくんを静めさせた数分後に,担任の先生では無い誰かが入ってきた。
数学だから……,数学の先生かな?
あれ……,由姫ちゃんどうしたんだろう?
何故かは分からないけれど,由姫ちゃんはバツが悪そうに歪な笑顔を浮かべていた。
理由を聞こうとした時,楠木先生が口を開いた為聞けなかった。
てゆうか,またまた男の人だっ……!
何だか嫌な感じだな………。
楠木先生の視線が,何だか舐め回すような感じがして気分が悪くなる。
今気付いたけれど,何だか空気がピリ付いている。
あ,あれ,皆どうしたんだろう……。
私がそんなことを思っている間に,黒板に問題を書いていく先生。
……ん?
これ……,この問題の解き方……,教科書に書いてない……?
先生,間違えてまだ習ってないのを書いちゃってるのかな……。
でも指摘するのもな……。
そう悩んでいると,先生は見定めるように全体を見渡すと,私の方を見てきた。
ニヤリと,不適な笑みを浮かべながら私を指定した。
途端,教室内は先程までのピリ付いた空気は何処へやら,安堵と笑いに包まれた。
特に女の子達から,くすくすと笑い声が聞こえてくる。
な,何で皆笑ってるんだろう……?
もしかして,先生がわざと私にあんな問題出してるって勘違いしちゃってるのかな……?
だったら少し可哀想だし,ちゃんと答えないと。
私は先生へ向けられた誤解を解くためにも,当てられた問題を回答した。
私が答えた瞬間,シンと静まる教室内。
あ,あれ,もしかして間違えちゃったのかなっ……!?
間違えたのかと思いあたふたしていると,楠木先生はそう一言だけ発言した。
ど,どうしたんだろう……。
あっ,もしかして途中の式書かないと駄目なのかな?
恐る恐るそう聞くと,先生はハッとして何故か視線を下へと向け,「せ,正解だ……。座りなさい。」と言った。
あれ……,大丈夫,だったのかな……?
不思議に思いながらも,座りなさいと言われたので大人しく座った。
そうすると,弥生くんと華生くんが声を揃えて驚いたようにそう言った。
よく耳を澄ませてみれば,教室内はザワザワとしている。
な,何をそんなに驚いているの……?
何で驚いているのか分からなかったけれど,その後は何事も無く進み,残りの時間もちゃんと話を聞いて終わった。
休み時間になり,急に由姫ちゃんに褒められ,びっくりして固まった。
な,何が凄かったの……?
あの問題,そんなに難しかったのっ……!
だからみんな驚いてたってこと……?
いや,それは違うよね。
この学園にそんな先生居るの……!?
海くんに言われた言葉が衝撃的で,つい声をあげて驚いてしまった。
ちゃんと答えただけにショックだ……。
私が一人そう落ち込んでいると,急に皆が笑い出した。
何でみんな笑ってるの……?
私は不思議に思っていたけど,皆が楽しそうだから気にしないようにした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!