私が席に着くと,そう言って先生は教室から出ていった。
そして私はすぐに由姫ちゃんとたっくんの方へと体を向けた。
てことは……,もしかして部屋が隣なのって,由姫ちゃんってことかな?
聞きたいけど,そうしたらバレちゃうよね……。
まあ,後で聞けばいっか。
たっくんに言われ,私達は教室を後にした。
たっくんに連れてこられたのは,屋上だった。
促されるまま,屋上に設置されているベンチへと腰を下ろした。
やっぱり,私も聞かれるよね……。
変装を解いた私を見て,たっくんは顔を赤くした。
あれ,たっくんどうしたんだろう?
赤い顔を隠すように,口元を手で押さえたたっくん。
変なたっくん……。
由姫ちゃんも私と同じように,変装道具を外した。
久しぶりに見る由姫ちゃんはとても綺麗で,思わず見惚れてしまった。
ま,眩しい……。
由姫ちゃんは花があるから,こんな私なんかと仲良くしてくれるのが謎だ……。
こんな調子だと,私が引っ越した後は凄くモテたんだろうな……。
因みに私が引っ越したのは小学四年生の夏休みだった。
私と由姫ちゃんは家がお隣同士で,小さい頃からの幼馴染み。
でもたっくんは幼稚園の時から通っていた空手道場で出会った。
勿論由姫ちゃんも空手道場に入っていた。
ふふっ,よく帰りに公園に寄ったりアイスを食べたりしてたな……,ふふっ,懐かしい。
そうして私と由姫ちゃんは変装道具を着けて,三人で並んで階段を降りる。
この学校,階段も広いな……,あと二人は余裕で入りそうだっ。
てゆうかそれより,教室に戻るの少し怖いな……。
えっ………?
あ,聞こえてたのかなっ……。
でも,たっくんはかっこいいから,あんな風に騒がれるのは日常茶飯事なのかもしれない。
まあ,たっくんのはきっと良い意味のだろうけど……,あはは……。
たっくんの気持ちが素直に嬉しくて,満面の笑みを浮かべて感謝の気持ちを伝えた。
ほ,微笑ましい……?
何だか,お姉ちゃんが出来たみたい……。
そんなことを思いながら,教室までの道を歩いた。
教室のドアを開け,席に着く。
すると,何やら1ヵ所から視線を感じた。
な,何だろうこの視線……。
声が聞こえた方を見ると,優しそうな男の子の姿が。
私のことを見ながら,優しい微笑みを浮かべていた。
お,男の子……,だよね?
制服ズボンだし……。
と,とゆうか……,何で話し掛けられたんだろうっ……。
海くんって言うんだ……。
海みたいな青色の髪の毛に,綺麗な二重。
整った容姿の彼は,王道的なモテ男子と言うより,頼れるお兄さんっていう感じがした。
人当たりの良さそうな柔らかい雰囲気。
わ,私のことを悪く思っている感じはしないし……,逆に,興味があるって感じかな……?
な,何て返そうかな……。
何て返そうかと戸惑っていると,由姫ちゃんがそっと耳打ちしてきた。
由姫ちゃんが……,言うなら………。
後ろの席の人が優しそうで良かった……。
そう安心したのも束の間,後ろの方から聞こえた声。
同じ人が発言したのかと思う程にそっくりな声が二つ。
ビクビクしながらも,気になってゆっくりと振り返る。
双子……かな?
そ,それより,怖いっ……。
彼らに向かって,たっくんが起こった様子で二人を睨んでいた。
二人とも,たっくんに対して少し怖がりながらも,不機嫌そうにふんと鼻を鳴らしている。
すると,たっくんは突然立ち上がり,拳を振り上げている。
た,たっくんまさか,殴ろうとしてるんじゃ……。
私がそう言えば,たっくんは大人しく座ってくれた。
よ,良かった……。
海くんは代わりに謝るように,申し訳なさそうにしながらそう言ってくれた。
怖いけど,名前ぐらいは知っておかなきゃ……。
凄く良い響きだな……。
思ったままの感想を伝えると,何故か二人はびっくりしてるような顔で顔を赤くした。
あ,あれ……,失言しちゃったかなっ……。
や,やっぱり何か気に障ること言っちゃったんだ……。
そう凹んでいると,突然またたっくんが立ち上がった。
今にも殴り出しそうなたっくんを二人で何とか宥めて落ち着かせた。
な,何だかこれから色んな意味で賑やかになりそうだなっ………。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!