第26話

冷たい鉛
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2022/02/26 12:00
あなた「汐、スポーツ大会明後日だよね?大丈夫?」


汐「ほぉ〜ん……自分のミス棚に上げて俺の心配?」


あなた「…………。」






ぐうの音も出ない。


あれから汐には頭が上がらないし、次の追試は絶対に合格しなければ。






汐「心配せんでも、まだ誰にもバレてへんしそこそこで乗り切るつもりや。あなたよりはそういうん得意やから。」






分かりきっていることをスラスラ並べられて、同調も反論もせずに会話を切り上げた。






汐「そしたら、今日も頼むで。」


あなた「ん。」






今日もまた、私達は互いを偽って外に出た。









汐𝓈𝒾𝒹𝑒.°





愛美「あ"ぁ〜やっと解放される。2日に1回や言うてもこの真夏に運動はキッツいわ!なぁあなた。」


汐「そうだね、明後日が待ち遠しいよ。」


愛美「そーいえば、汐くんに話してくれた〜?合コンの件!」


汐「はは…………「誰があんなクソキモ双子に話しかけんねん有り得へんわ。見る目無さすぎやろソイツ。」だってさ。」


愛美「……でもあれだよね、あなたいっつも汐くんに告白する女の子たちの事そんな風に言ってるよね。なんだかんだ似てるのかな宮ツインズと。」


汐「あ"???_____ごほ、」







許さへんで……帰ったら覚えとけ。



……まあ別に、良く思われようとも考えてへんけど。




あの双子と一緒にされるんはイラつくわ。






校庭に出ると、いつも通り他学年も集まって談笑中。


改めて女子の大群ほど鳥肌もんは無いわな……。









「!!会長やっ。こんにちは〜!」


「西﨑先輩っ、シュートのコツ教えてほしいですぅ。」









……ほんで俺を見る目も大して変わらんわ。



俺とあなたの決定的に違うところはここやな。




アイツは男からも女からも好かれる。






_____いい意味でも悪い意味でも。







案の定、誰が西﨑あなたの1番近くに立つかで揉める女たち。



どこの高校生も同じやな。









愛美「まったく……スポーツ大会の練習始まってから余計あなたのファン増えた気するわ。」






まじか俺がやらかしたのか?



……知らへんわ。アイツのミスとどっこいどっこいやろ。







愛美「あなた、ちゃんと水分補給しいや?誰より動いとるんやし、この暑さ。」


汐「あー、うん。ありがと。」







あの双子に対しての興味をさておき、コイツはいい奴。



あなたがつるみそうな相手やな。




と、未だいがみ合う後輩女どもが校庭を駆け回る。


あなたの隣に立つ言い分を建前に戯れ合うのを楽しんどるみたいや。




キャッキャうふふすんなアホらしい。







校庭の端、おそらく本番用に組み立てるテント用具を積み上げている軽トラの近くで走り回り、その緩んだ顔を綻ばせる。




あなたもコイツ愛美も、ああいうタイプやないな。





案の定、俺の想定していた事故が起きかける。



まあ大した重さも無さそうやし、多少痛い目みんと分からんこともあるやろ。





彼女達の1人の背がその軽トラに勢いつけてぶつかり、積荷を下ろすために開けていた側面からテント用のパイプが揺らぐ音がする。













あー、落ちるな。










愛美𝓈𝒾𝒹𝑒.°






気が付いたら駆け出しとった。




多分……あなたならそうすると、思ったから。




そこに私の意志なんてなくて、ただ私が1番好きで、1番尊敬して止まないあなたが、そうすると思ったんや。







反動でぐらつくパイプと、背中をさすりながらしゃがみ込む女の子の間に入ってその背を押した。



多分、今の私50メートル6秒くらいやったわ。







そんなどうでもいい事を考える時間はあって、私がその場から逃げる時間は残されていなかった。










案の定落ちてきたパイプは、私の背に襲い掛かる。






鈍い痛みと共に、周囲からの悲鳴が聞こえて来る。



















当然、そうなるはずやった。






ただ降り掛かってきたのは、パイプでも、鈍い痛みでもなくて。
















「きゃああああああ!!!」



「誰か、先生!!早く呼んできて!!!」



西!!!」












私ではなく、あなたを呼ぶ、その悲鳴だけで。






瞑った目を開けて1番に見えたのは、地面に付いた両手。





そして見上げて、私はやっぱりこうはなれへんと思った。




ううん、多分どこかで。









あなたならなんとかしてくれる……って、思ってた。













"愛美、怪我はない?"










それでそう言って、まるで私に何も非が無いかのように振る舞う。





だからこうなりたいと、思うんだ。













それでも。
































愛美「あなた、ごめ_____、」


汐「っ、……アホか自分、」


愛美「……え、?」















歪めた表情で声に出したあなたの言葉は、その重みは、いつもと違っていて。





























汐「なんの策も無しに飛び込んでく奴がおるかこのド阿呆!!次こんな真似したらぶん殴るで……!」



























違う。







あなたじゃない。






何故かそう思って、それで。









その言葉は何故か、私の心にズシッと響いた。





重い鉛のように。

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