透と麗綺がゴミに気がついたあと、愛奈は自然に教室に入ってきた。そのまま透に媚びるように近づいていった。麗綺の存在はないように。そして昨日の悪魔の顔も思わせないくらいに。
透は愛奈にどれだけ迫られても嫌がった。前は外面を気にしてそんなことしなかったのに。透の心の中でも何かが変わり始めていたのかもしれない。
透の前に教室に来たのは麗綺だ。でも、ゴミなど詰めていない。詰める暇もなかったし、教室に入って一通り準備を終えた後すぐに透はやってきた。
愛奈はむくれた顔をした。それはそうだろう。透も昔、といってもまだ最近だがスクールカーストで人を判断するような性格だった。だからこそ、不審に思われる。愛奈と同じ思考を持っていたのにいつの間にか全く違うことを考えているのだから。それが誰の仕業が気になるもの。
愛奈はそう言って透から離れた。その時、麗綺が感じた敵意のような目線はきっと気の所為ではないだろう。
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続々と人が教室に集まり、教室も騒がしくなってきた。そしてやってきたのは上のカーストを手に入れた女、成宮美華。他人の書いたミュージカルでどこまで浮かれていられるのか。よく分からない。
朝学活始まりの5分前、一堂が教室にやってきた。
「いちどーせんせ、」
「昨日のやつ、返してよ」
「えー、じゃあ美華ー!」
その女子生徒は今朝、一堂が
バカみたい。自分の文章でもない、盗みを働いた人間のくせにそんなことをするなんて。普通の人ならそう思うだろう。しかし麗綺は、少し違った。
人間、特に上辺カーストは自分の価値を下げぬように努力を重ねる。しかし、それは道を逸れることがある。人は常に上を求めるが、求めるものが高くなるほど危険になってしまう。今回の成宮はそのケースなのだろう。
「ロリコン一堂じゃね?」
「それな」
「あいつが相当ロリコンだってとこ抑えてこいよ」
透の目的はただ1つ。麗綺が隠していることを知りたい。昨日から感づいていたが聞けなかったのが少し悔いだったのだ。
一方麗綺は面倒くさいと思っていた。愛奈からのいじめも美華にパクられたことも言ってないのにそれを悟ったような顔。
母親の交際相手がよくしていた顔だった。似ている。あいつにも、あいつにも。家に沢山来たあいつにも。
麗綺は透と一緒にいたら、必ずおかしなことになると考え始めてしまった。この先、何が起こるか分からない。でも透に抱いた信頼度は麗綺の中で大きく下がってしまったのだ。
愛奈は不満げだった。昨日、麗綺をいじめると決めたのに邪魔が入ってくる。自分の思い通りにいかないからムシャクシャして仕方がないのだ。このままだと透を麗綺に……いやありえない。麗綺よりは…。なんてことを考えているのだ。
一堂はそう言って朝の会を締めた。
今日の放課後、なぜ呼び出されるのかは分かりきっているのに少し怯えている麗綺がいた。
それはなにか悪いことが起きるような気がしていたからだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。