最初の壁は、思っていたよりずっと早く現れた
ホシの声が、練習室に響く
ミョンホは必死に耳を澄ませた
けれど、早口の韓国語は、意味になる前に流れていってしまう
視線が集まる
自分だけが、取り残されているような感覚
ホシが身振りで示す
必死に真似をする
それでも、止められる
「……はぁ」
誰かの、ほんの小さな溜息
その音が、胸に刺さった
分からないまま、責められる
頑張っているのに、伝わらない
絞り出した声は、練習室の音に掻き消えた
ホシの声と同時に、ミョンホは深く頭を下げた
そのまま、練習室を出る
廊下の冷たい空気が、急に現実を引き戻す
たまたま開いていた空き部屋に入る
ドアを閉めた瞬間、張りつめていたものが、少しだけ緩んだ
その時
隣の部屋から、低く重たい音が流れてきた
——ズン、と心臓を打つような低音
無意識に、ドアへ向かう
開いた先は、ATLASの練習室だった
あなたの下の名前とメンバーたちが、振付を確認している
ミョンホが立ち尽くしているのに気づき、あなたの下の名前が振り返った
中国語だった
その一言で、胸の奥が揺れた
そう言って、踵を返そうとした瞬間
あなたの下の名前 は短く、でもはっきり言った
それ以上、理由は言わない
曲が流れる
次の1stアルバムに収録される予定の楽曲
不思議と、ミョンホの耳にすっと入ってくる
——中国語
言葉が違っても
きっと通じ合える
向き合えば
何とかなる時もある
センターに立つ中国メンバー
一つひとつの動きに、感情が宿っている
言葉が分からなくても
説明されなくても
踊りは、ちゃんと“伝えて”くる
気づいた時には、視界が滲んでいた
涙が、一粒、床に落ちる
次々に、止まらなくなる
声を殺そうとしても、肩が震える
あなたの下の名前は、何も言わなかった
ただ、ミョンホの前に立ち、
練習を止めることも、見ないふりをすることもせず、
そこに“いる”
ミョンホは、堪えきれず、俯いたまま涙を落とした
その気持ちだけが、はっきりして
あなたの下の名前は、そっと言った
それだけ
その一言が、胸の奥に静かに沈んでいく
ミョンホは、何度も何度も涙を拭いながら、
その場に立ち尽くしていた
——言葉がなくても、
踊りは嘘をつかない
その意味を、初めて、身体で理解した夜だった
















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。