第89話

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2026/02/11 09:00 更新
泣き止んだあとも、ミョンホはしばらく顔を上げられずにいた

ATLASの練習室は、もう片づけが終わり、照明も落とされている
残っているのは、静かな空気と、二人分の気配だけだった
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
……座ろうか
あなたの下の名前がそう言って、床に腰を下ろす
ミョンホも少し遅れて、同じように座った

しばらく、沈黙

急かされない時間が、逆に胸を締めつける
ミョンホ
ミョンホ
……あの
小さな声

あなたの下の名前は、視線を向けるだけで、続きを促さない
ミョンホ
ミョンホ
今日……練習で……
ミョンホ
ミョンホ
怒られて……
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
うん
言葉が途切れる
ミョンホ
ミョンホ
怒られた、っていうか……
ミョンホ
ミョンホ
たぶん、ちゃんと教えてくれてたんです
ミョンホは、ぎゅっと手を握った
ミョンホ
ミョンホ
でも……韓国語が、分からなくて
ミョンホ
ミョンホ
何がダメなのか、どこを直せばいいのか……
喉が詰まる
ミョンホ
ミョンホ
分からないのに、分からないって言えなくて
ミョンホ
ミョンホ
できない人、みたいに見られてる気がして……
あなたの下の名前は、何も言わない

ただ、ミョンホの言葉が止まるたびに、軽く頷くだけ
ミョンホ
ミョンホ
……逃げたみたいで
ミョンホ
ミョンホ
練習室、出ちゃって……
自分を責めるように、声が低くなる
ミョンホ
ミョンホ
でも……あの歌
ミョンホ
ミョンホ
さっきの、ATLASの……
そこで、ようやくあなたの下の名前が口を開いた
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
……あの曲ね
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
次のアルバムの曲
ミョンホは、こくりと頷く
ミョンホ
ミョンホ
言葉が分からなくても……
ミョンホ
ミョンホ
...歌詞すごく良かった
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
ありがとう笑
ミョンホ
ミョンホ
気持ちが伝わりました
震える声
ミョンホ
ミョンホ
踊りも……嘘ついてなくて...
ぽろ、とまた涙が落ちる
ミョンホ
ミョンホ
それ見てたら……
ミョンホ
ミョンホ
自分が、何でここに来たのか……
ミョンホ
ミョンホ
思い出して
あなたの下の名前は、少しだけ距離を詰めた

肩が触れない、でも離れすぎない距離
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
……ミョンホ
名前を呼ぶ声は、静かで、優しい
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
言葉が分からないのは
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
弱さじゃない
ミョンホが、はっと顔を上げる
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
分からないまま、向き合おうとしてるのは
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
逃げてない証拠
少しだけ、笑った
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
私もね
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
昔、全然伝わらなくて、泣いたことある
ミョンホ
ミョンホ
……本当ですか
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
うん
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
山ほど
その一言で、ミョンホの肩から力が抜けた
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
……大丈夫
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
時間かかっても
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
踊りは、あなたの味方だから
ミョンホは、何度も頷いた
ミョンホ
ミョンホ
……もう一回
ミョンホ
ミョンホ
頑張ってみます
その言葉は、さっきより少しだけ強かった

あなたの下の名前は立ち上がり、ドアへ向かいながら振り返る
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
また迷ったら
桐谷(なまえ:下の名前)
桐谷あなたの下の名前
ここ、来ていいからね
それだけ言って、去っていく

ミョンホは、一人残された練習室で、ゆっくりと息を吸った
ミョンホ
ミョンホ
(……優しかったな)
怒られもしなかった
答えを押しつけられもしなかった

それなのに、不思議と前を向ける

床に落ちた涙の跡を見つめながら、ミョンホは小さく呟いた
ミョンホ
ミョンホ
……僕も
ミョンホ
ミョンホ
誰かを、こうやって支えられる人に……なりたい
その夜、
異国の練習室で、彼は初めて「ここにいていい」と思えた

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