朝の教室。
いつもと違う静けさの中で、先生はひとり言のように小さくつぶやいた。
「……ケビンもマシューも今日は看護師で休み……邪魔者はいないわ」
その声には、冷たい笑みが混じっていた。
先生は静かに立ち上がり、教室の子どもたちを見渡す。
「みんな、今日は大切なお知らせがあります」
子どもたちが顔を上げた。
「実はね、シザーちゃん……里親が見つかったの。だから今日、この孤児院を出ることになったの」
「ええええ!?」「うそでしょ!?」「そんなの急すぎるよ!」
一斉にざわめくクラス。
一部の子たちは涙ぐみ、他の子は不満そうに顔をしかめた。
だが、先生は微笑みながら言った。
「もう、里親さんは到着していてね。残念だけど……お別れ会はできないの。
それに、私も里親さんとお話しないといけないから、ちょっと席を外すわ」
そして、最後に軽く微笑んだ。
「だから、お利口さんに静かに待っているのよ?」
その言葉を残して、先生は教室を出ていった。
向かう先は──病室。
⸻
シザー視点
「コン、コン……」
ノックの音に目を向けると、先生がドアを開けて立っていた。
白衣を着たその姿は、いつもと変わらない“優しい大人”だった。
「シザーちゃん。ちょっと来てほしいの」
小さな声で「うん」とうなずき、シザーはカメラを置いて立ち上がった。
いつものように、おとなしく。
信じていた──この人だけは、裏切らないと思っていたから。
長い廊下を歩く途中、先生は何も話さなかった。
シザーも、ただその背中についていくだけだった。
やがて、とある無人の部屋の前で足を止める。
「ここで、少しだけ待っててね」
そう言って、先生が一歩後ずさったとき──
──その瞬間だった。
シザーの目に、未来が見えた。
暗い部屋の中、自分が倒れていて、口から真っ赤な血を吐いている。
誰かが近づいてくる。
白衣に身を包み、手に注射を持った“誰か”。
怖くて、声も出せなかった。
──そして、未来は現実になった。
ごぼっ、と鈍い音とともに、口の中から熱いものがこみあげた。
「え……? な、んで……?」
理解が追いつかない。
目の前がぼやけて、視界が赤くにじむ。
がちゃり。
足音。
白衣。
そして、手には──未来で見た通りの注射器。
「ごめんね、シザーちゃん。これで、少し眠れるわ」
その声は、やさしく微笑む先生のものだった。
「──っ……!」
シザーは何かを叫ぼうとしたが、体が動かない。
喉が焼けるように痛くて、声が出せない。
逃げようとした足も、ふらついた瞬間に崩れ落ちた。
そして──
すうっ……
注射針が、首筋に刺さる。
──カメラのシャッター音が、どこかで鳴ったような気がした。
世界が、ゆっくりと暗くなる。
それでも最後まで、シザーの心に残ったのは──
「先生だけは信じてたのに」という、小さな痛みだった。
これから第二章を作っていきます
第二章は前作った「地下へ地下へどんどん…」の
やり直し版みたいな感じですね。はい。オリキャラは一切出てきません。
あと、スポットライト2つありがとうございございます!
星も5つありがとうございます!
ハートも156個ありがとうございます!
これからも頑張っていきます。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。