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第2話

蜘蛛の糸
6
2026/05/09 10:37 更新
しばらく、あちこちへ曲がり、壁を登り、地下を通り、三、四百米(メートル)を走った。道中、寂れた建物や、血と植物の絡まり合ったアスファルトが、そこらじゅうに朽ちてあった。それはこの町の、かつての繁栄を物語っている。
必死に太宰さんの後ろを走っていると、太宰さんはとある建物の前で立ち止まった。屍(かばね)はもう、どこにもいなかった。
太宰治
ふぅ。さ、入るよ敦君。
中島敦
ふぇ?あ、はいっ!!
太宰さんは、その建物ではなく、その右ら辺の、大きな瓦礫が三つほどある場所へ足を運んだ。そして、"待ち人探し"と書かれてある看板が瓦礫の前に刺さってあり、太宰さんはその隙間に入っていった。僕も、太宰さんについていくと、瓦礫と瓦礫に囲まれた空間があり、その地面にあったマンホールを、太宰さんが開けた。それから、慣れた手つきで太宰さんがその中に入っていったので、僕も入る。すると、周りは無機物な白の壁と床に覆われていた。どうやらここは廊下らしく、細長い空間が左右に広がっており、違う部屋に行くための扉がちらほら見える。明らか人工的な空間に戸惑っていると、太宰さんは僕たちの入ってきたマンホールを閉め、歩き出した。僕も、それに続いて歩く。
太宰治
君は保護対象に当たるからね。この"待ち人探し"が君の身柄を預かろう。
中島敦
えっと…、あの、 "待ち人探し"っ……て?
太宰治
ん?嗚呼、そうか。ええとね。簡単に言えば対屍の力を持つ武装集団かな。
中島敦
はあ。
国木田
おい!太宰!
後ろから声が聞こえた。妙に怒り口調だ。僕は吃驚して、思わず後ろを振り返った。すると、先程屍を蹴散らしていた男性のようだった。銀杏色の、一つにまとめられた長い髪で、吊り目がちの、眼鏡をかけた高身長な男性だった。
国木田
貴様……そいつは誰だ!
彼は僕の方を指差した。
太宰治
保護対象の少年だよ。正真正銘の人間だよ?
国木田
っ💢………はぁぁぁあああ
……まぁいい。だが…、一つ聞くが、何故あんな所におったのだ坊主。見た所、特務課の人間でもなさそうだが?
中島敦
えっと……
彼は僕を怪しんでいるようだった。何を警戒しているのかわからないが、僕の身の上を話せばいいのだろうか。というか、"特務課"ってなんだ?
よくわからないが、僕はありのまま、今まであったことを全て話した。孤児院が屍によって襲撃されたこと。そこから命からがら逃げてきて、この横浜に行き着いたこと。ここ、横浜の方が屍が多くて、やはり逃げ回っていたこと。その道中で、太宰さんと彼に会ったこと。などなど、洗いざらい話した。
太宰治
ふむ…君、結構大変な道のりを歩んできていたんだね?
中島敦
は、はい。大変でしたね。
国木田
成程……。坊主、余程運が良いのだな。
彼はジトリと僕を見やった。………ちょっとコワイ。
中島敦
……と、いうと?
太宰治
あの地域はね、政府も認める、所謂屍の巣という場所だ。屍がウジャウジャいる場所。
中島敦
え"!?
吃驚仰天とはこのことだろうか。
国木田
運がいいのは良いことだ。今はもう、実力がどうとか言っている暇なんてないからな。
太宰治
"運が全て"。だよね。
二人は暗い顔をして言った。"運が全て"。それは、屍から逃げることに対してなのか、この世界で生き残ることに対してなのか。
太宰さんの発言の後、その場にいた全員が口を閉じた。数秒ほど、静寂が流れた。だが、その静寂は、太宰さんによって破られる。
太宰治
……ま、ここで話していても仕方がないし、さっさと本拠地に行こう。敦君も、そこで養うからね。
中島敦
あ、…は、はい!!
国木田
そうだな。
本拠地とやらに向かう道中、自己紹介をしあった。彼は国木田独歩と言うらしい。屍のいない世界を理想として、日々過ごしているようだった。ちなみに、太宰さんは恋人でもあり、相棒でもある大切な人を探しているらしい。
もしかしたら、"待ち人探し"と書かれた看板のあったこの地下施設は何か、目的のある人が集まっているのではないだろうか。僕は、そんなことをうっすらと考えながら、国木田さんと、太宰さんの後ろを歩いた。2人は軽口を叩き合っており、主に太宰さんが国木田さんを揶揄っているようだった。
_______なんだか、この世にいないみたいに、平和だった。

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