しばらく、あちこちへ曲がり、壁を登り、地下を通り、三、四百米を走った。道中、寂れた建物や、血と植物の絡まり合ったアスファルトが、そこらじゅうに朽ちてあった。それはこの町の、かつての繁栄を物語っている。
必死に太宰さんの後ろを走っていると、太宰さんはとある建物の前で立ち止まった。屍はもう、どこにもいなかった。
太宰さんは、その建物ではなく、その右ら辺の、大きな瓦礫が三つほどある場所へ足を運んだ。そして、"待ち人探し"と書かれてある看板が瓦礫の前に刺さってあり、太宰さんはその隙間に入っていった。僕も、太宰さんについていくと、瓦礫と瓦礫に囲まれた空間があり、その地面にあったマンホールを、太宰さんが開けた。それから、慣れた手つきで太宰さんがその中に入っていったので、僕も入る。すると、周りは無機物な白の壁と床に覆われていた。どうやらここは廊下らしく、細長い空間が左右に広がっており、違う部屋に行くための扉がちらほら見える。明らか人工的な空間に戸惑っていると、太宰さんは僕たちの入ってきたマンホールを閉め、歩き出した。僕も、それに続いて歩く。
後ろから声が聞こえた。妙に怒り口調だ。僕は吃驚して、思わず後ろを振り返った。すると、先程屍を蹴散らしていた男性のようだった。銀杏色の、一つにまとめられた長い髪で、吊り目がちの、眼鏡をかけた高身長な男性だった。
彼は僕の方を指差した。
彼は僕を怪しんでいるようだった。何を警戒しているのかわからないが、僕の身の上を話せばいいのだろうか。というか、"特務課"ってなんだ?
よくわからないが、僕はありのまま、今まであったことを全て話した。孤児院が屍によって襲撃されたこと。そこから命からがら逃げてきて、この横浜に行き着いたこと。ここ、横浜の方が屍が多くて、やはり逃げ回っていたこと。その道中で、太宰さんと彼に会ったこと。などなど、洗いざらい話した。
彼はジトリと僕を見やった。………ちょっとコワイ。
吃驚仰天とはこのことだろうか。
二人は暗い顔をして言った。"運が全て"。それは、屍から逃げることに対してなのか、この世界で生き残ることに対してなのか。
太宰さんの発言の後、その場にいた全員が口を閉じた。数秒ほど、静寂が流れた。だが、その静寂は、太宰さんによって破られる。
本拠地とやらに向かう道中、自己紹介をしあった。彼は国木田独歩と言うらしい。屍のいない世界を理想として、日々過ごしているようだった。ちなみに、太宰さんは恋人でもあり、相棒でもある大切な人を探しているらしい。
もしかしたら、"待ち人探し"と書かれた看板のあったこの地下施設は何か、目的のある人が集まっているのではないだろうか。僕は、そんなことをうっすらと考えながら、国木田さんと、太宰さんの後ろを歩いた。2人は軽口を叩き合っており、主に太宰さんが国木田さんを揶揄っているようだった。
_______なんだか、この世にいないみたいに、平和だった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。