第38話

# 34日目
107
2024/11/14 06:00 更新



 



陽葵 凛乃
ッ、は…ここは…?




どこ、だろう。声が掠れていて、身体にも力が入らない。

おぼつかない足取りで一面雪のように真っ白な景色を歩いていると、小さな影が見えた。

なんとなく不気味で一歩後ずさると、その影は小さく振り返った。


______ ″ やっと気がついたんだね ″



陽葵 凛乃
だ、だれ…!?

 ?
えっ?分からないの?



なぜか驚いた様な顔をする女の子。

聞いたことがないけど、まるで透き通った美しい水が流れる穏やかな川のような。優しくて、綺麗な声。


陽葵 凛乃
…初めまして、ですよね
 ?
うーん、どうだろうね?



奇妙にも取れるセリフを吐いた後、一歩こちらに近づく女の子。

長く美しい髪が揺れ、思わず息を呑んだ。

 ?
…なんとなく状況は分かったよ。
 ?
” 神楽 ” と ″ 夜宵 ”って名前に聞き覚えない?
陽葵 凛乃
わからない、です


聞き覚えはない。それなのに、なんとなく懐かしい気がして。

いわゆる “ 本能的 “ な何かなんだろうけど、それを伝えられても困るだろう。


 ?
そっか、それなら良かった
陽葵 凛乃
ま、待ってください!!
陽葵 凛乃
貴女は、一体…
 ?
私は…なんて言えば良いのかな。貴女だけど、でも、貴女じゃない
陽葵 凛乃
私だけど、私じゃない…


女の子の言葉を反芻するように自分でも口に出してみる。

ピンとこないし、言葉の意味だって分からない。

それでも真っ直ぐと私を見つめる女の子は、どこか凛としていて、でもなんとなく儚い。

夢に放ったらそのまま記憶の欠片になってしまう、ような。今この子を離してはいけない気がして。


 ?
この言葉の意味を知るときは永遠に来ないだろうね
 ?
貴女はここにいるべきじゃないよ。どうしてここにいるのかは分からないけど…
 ?
貴女には帰るべき場所がある。
陽葵 凛乃
ここはどこ、なんですか?私はどうやって帰れば…
 ?
ここはね、幻の世界って言えば良いのかな。本来貴女と交わることはなかったはずなんだけど
 ?
あそこの出口に入れば出られるよ。私もついていくから安心して


ファンタジー感満載の話だが、妙に信用できた。

淡々と説明を重ねていく。まるで前も同じ説明をしたかのように慣れた口ぶり。

会ったばかりのはずなのに信用してしまっている自分が怖くてそのことは言わなかった。

 ?
ほらほら、見えてきた
陽葵 凛乃
すごく綺麗な桜ですね
 ?
でしょ?私もこの桜、お気に入りなんだ
 ?
そういえば、凛乃ちゃんはどうしてここに?何かきっかけとか思い出せる?
陽葵 凛乃
すごく長い夢を見ていた気がするんです。今も夢、かもしれないですけど
陽葵 凛乃
その長い夢にも桜と…それから、なんとなく貴女に似た女の子がいたような気がします


小さく目を見開いた女の子。

初めてはっきりと彼女の目を見たが、青色の目がやけに美しかった。

青色、海……やっぱり、何か見覚えがある?


 ?
どうしたの?そんなに見つめて
陽葵 凛乃
な、なんだか見覚えがある気がして
 ?
そうなるのも無理はないかもね。
 ?
…あそこが出口だよ。怖いと思うけど、あの白く光っている部分に飛び降りれば元の世界に帰れるの


女の子が指差した先には、眩い光の出口があった。

ううん、出口と言っても穴と表現するのが正しいのかもしれない。

その場に留まって、風で靡いた髪を耳にかける女の子。

____ その癖は、私と同じだった。




陽葵 凛乃
…貴女は一緒に来ないんですか?
 ?
え、私?
 ?
私は行けないかな
陽葵 凛乃
じゃあ、ずっとこの世界にいるってことですか?
 ?
この世界が壊れるまではずっとね。
 ?
この世界が壊れれば、私は世界と共に朽ち果てる



そう語る女の子は何を背負っているのか、この世界の全ての闇を知っているかのように重苦しい雰囲気だった。

そして、片腕を下ろし、もう片方の手は下ろした腕の肘あたりに置く仕草。

……やっぱり、どこか見覚えがある。



陽葵 凛乃
あ、貴女を置いていくことなんてできません!
陽葵 凛乃
一緒に飛び込んでみたら、もしかしたら…!
 ?
凛乃ちゃんは優しいね
 ?
…じゃあ、私の知らない世界に飛び込んで、いつか会えたときにどんな世界だったか教えて?
陽葵 凛乃
え……?


それは ” またいつか会えたときは私が入れない世界について教えて ” という意味合いな気がした。

この子は、私たちの世界には入れない。


 ?
私は臆病だから…本来混じり合うはずのない私がその世界に入った先が怖いんだ


その手は震えていて、恐怖に満ちていて。

思わず彼女の背中に腕を回すと、数秒経った後女の子の手も私の背中の腕に回る。

思わず抱き締めてしまったが、今はこうして抱きしめ返してくれている。嫌なわけではなかったはず。

そっと背中を撫でると、肩が小さく震えた。

陽葵 凛乃
…また会いましょう、必ず
 ?
……じゃあね


私の左肩は、濡れていた。






































月坂 叶蓮
…あ!やっと起きた!
陽葵 凛乃
い、まの…夢?


さっき起きたときよりも、今の夢の方が鮮明に写っている…気がする。

ぼんやりとはしているものの、長い髪と青い瞳が脳裏に焼きついている。

そして、抱きしめたときの温もりも、今この手に……

月坂 叶蓮
夢?
陽葵 凛乃
…女の子とお話したの。会話の内容までは詳しく覚えてないけど
んー、女の子か
私もみんなと起きたとき、女の子の夢を見たような気もするんだよね
凛乃ちゃんに似ていたから、凛乃ちゃんと遊ぶ夢でも見ていたのかなって思ってたんだけど…
 
みんなで同じ夢を見ていた、なんてことあるのかな?
月坂 叶蓮
本来ならあり得ない話だけどね〜
月坂 叶蓮
非現実的なことばっかりだから、今ならあり得るかも



そもそも起きたら謎の場所、って時点でだいぶ謎だしなあ。

不可解なことの連続で頭も疲れていたのかもしれない。


九九 晃葉
あっ、そうだ凛乃ちゃん
九九 晃葉
今から ” カフェ ” に行こうと思ってたんだけど、どうかな?
陽葵 凛乃
カフェ…?


カフェ。なんだか引っかかる単語のような……


陽葵 凛乃
あれ!?そういえば、道案内してくれた人は…!
九九 晃葉
その道案内してくれた人の提案だよ。近くにカフェがあるらしいから、目が覚めたら行こうって
九九 晃葉
気持ちの整理にもなるだろうし…
九九 晃葉
道案内してくれた人たちは先に行ってるって。来るかどうかはお任せらしいけど
陽葵 凛乃
あ、うん!行きたいな
陽葵 凛乃
急に倒れちゃったりしてごめんね…あの人たちも、せっかく道案内までしてくださってたのに
九九 晃葉
大丈夫だって。急で頭が困惑してたんだと思うよ、気を失ってるだけだって梓音さんが教えてくれたの
陽葵 凛乃
そう、なんだ……


気を失った後、どうやら気を遣わせてしまったらしい。

起きたら大人数に囲まれている方が驚くだろうし、そういう面でも気遣ってくれたのかも。後でお礼、言わなくちゃな。

それにしても、カフェ……前にも行った、っけ。





陽葵 凛乃
ねぇねぇ、みんなで前カフェ行ったことある?
カフェ?カフェはないんじゃないかな?
 
飲食店に行ったことはあるけど、カフェなんておしゃれな場所はあんまり行かないかも
 
どうかしたの?夢でカフェが出てきたとか?
陽葵 凛乃
あ、ううん。なんでもない、なんとなく気になっただけだよ
陽葵 凛乃
それじゃあ、行こっか。心配かけちゃってごめんね
 
全然!凛乃ちゃんに何もなくて良かったよ
九九 晃葉
急に倒れたから、みんな大騒ぎで…それを宥めることのほうが大変だったよ
陽葵 凛乃
あははっ、みんならしいね笑



みんなと隣で歩いたとき、1人…足りないような気がした。










プリ小説オーディオドラマ