風に押されるような形で、ひなちゃんが転びかける。
その風は自由に気ままで、今度は静かになった。
相変わらずの会話に呆れつつ、辺りを見渡す。
やはり見覚えのない場所だ。ここでぐずぐずしていても仕方がない。
風に押されるがままに着いた場所は、桜の木が生えた草むらだった。
目が覚めてすぐ目の前にあった、大きな桜の木とよく似ている。
凛としていて、真っ直ぐ空へ向かっていた。
そう言いかけた時、後ろから複数人の足音が聞こえる。
おばけ…?と声も出せずに振り返ると、そこには高校生から大学生くらいの男女が立っていた。
手繰り寄せられた一種の運命かのよう。
だがそれ以上に、大きな違和感があった。
名前は?と言われれば答えられないし、実際接点なんて一つもないはず。
それなのにどこか胸騒ぎがするような、変な感覚。
その場にいる者たちはみな、それが違和感の理由だとは誰も思っていなかった。
「なんとなく、そんな気がする。」
その言葉でしか収めることはできないけど、それだけではないような気がするのだ。
梓音さんも私たちの困惑を察してくれたのか、何も言わずに手を引いてくれた。
今は何も考えず、風ではなくこの人の行先に身を委ねよう。
やっぱり何かあるよな、と2人の会話を聞きふと考えていると、後ろから小さな足音がした。
なんとなく振り返ってみると、どこか見覚えのある女の子と目が合った。
絡まった視線。何となく互いと似ている瞳。
頭に靄がかかったかのように思い出せない。
少しおどおどしつつもそう話してくれる女の子。
この子もやっぱり、見覚えがある…ような。
お二人によしよーし、と頭を撫でられ困惑している女の子。
この風景、どこかで見たことがある…ような。
見つめられていたのに気づかず、思わず上擦った声を上げる。
すると女の子はふふ、と小さく笑った。
無意識のうちに親しげな口調で話していたことに自分でも驚く。
この子は忘れちゃいけない気がする。
きっとこの子は、私の大切な______ 。
_____________ 次の瞬間、視界が真っ暗になった。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。