引越してから3日。
初めのうちこそ片目しか見えない弊害で距離感がつかめず、度々壁やら家具やらにぶつかっていたものの、だんだん慣れてきた。
生活環境が変わっても、体調を崩すこともなかったので、今日は少し遠出することになった。
名古屋まで車で1時間。
義眼院までお出かけだ。
いよいよ義眼を作ってもらえる。
瞳の大きさや色は当然人によって違う。
そこで、眼科医の診察結果をもとに1つ1つ手づくりで義眼を作っていく。
それが義眼師さんの仕事だ。
だが、義眼の表面は滑らかな状態に磨きあげないと、まぶたの裏に触れたときに摩擦が起き、炎症の原因になってしまう。
人が着けられる義眼を作ることができるようになるまでは、何年もかかるらしい。
簡単な仕事では無いのだ。
目の形やサイズを細かく測られ、最後の質問。
荼毘さんに頷こうとして、何かが私を踏みとどまらせた。
違う、そうではなくて………私が、本当に欲しいのは……
息が詰まって声を上手く出せない。
喉がカラカラに乾くのを感じた。
自分の望みを思うまま口にするのは、なんだか怖かった。
なかなか口を開かない私に義眼師さんが少し困ったように微笑みかける。
不意に買い物に行ったときの荼毘さんの言葉が蘇った。
初めて自分からお願い事をした私に、荼毘さんが目を見張った。
その吸い込まれるような碧い瞳に目を奪われるのは、果たして何度目だろう。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。