俺はすぐに、ナムジュンさんから動画のデータをUSBメモリに移してもらった。





そして、できたUSBメモリを渡してくれたジョングクさんの手が、若干震えている。

目には涙も浮かべている。





自分のためにこんなにも心配してくれる仲間がいることに、俺は嬉しくなった。

これは本当にただの勘だが、どこかでそれを確信している自分がいる。





彼らを助けられようが、助けられまいが、自分は殺される、と。






俺のその言葉に、ジョングクさんはとうとう涙を流した。





やや後ろにいるナムジュンさんも、顔色を悪くしている。




彼らも、きっと、俺の末路に薄々勘づいているのだろう。

彼等がそう言ってくれることは分かっていたが、直接その言葉を聞いて、安心した。

これは、随分前から決めていた。




もし、あの子たちを助けることが出来たら、まずは美味しいご飯を腹いっぱい食べさせてやろうって。






それが、俺の1番の夢だった。





もし、それを自分で叶えられないのなら。





この夢を託せるのは、この人達しかいない。

そうやって後ろを向いて歩き出そうとした瞬間、






ジョングクさんが、俺にハグをした。






思わぬ出来事に、心臓がキュッと縮んだ気がした。

ジョングクさんが俺から離れると、ナムジュンさんが俺に手を差し出した。

そう、言ってくれた。




そんなナムジュンさんの有難い言葉に、俺はナムジュンさんの手を握り、握手をして、言った。

ナムジュンさんとの固い握手を終えると、いよいよ自分の車へと乗り込んだ。








ジョングクさんは最後の最後まで俺の事を心配してくれた。





ナムジュンさんは凛々しく俺を送り出してくれた。


あの佇まいを見ると、彼には安心して任せられるという気持ちになる。





無事に事務所を後にした。




車の助手席には、しっかりとUSBメモリが置いてある。




いよいよ、俺と社長、そして店主との直接対決だ。




俺はもう、何があろうと揺るがない。



死を覚悟した人間にはなんでも出来る。





俺は今、ちゃんと覚悟を決めた人間の目をしているだろうか。



あの時に見た、監視さんのように、ジョングクさんのように、ナムジュンさんのように、「強い意志をもった目」をしているだろうか。




きっと、していると思う。




だって俺は今、自分にできる最大限の覚悟を持って、死を覚悟して、挑んでいるのだから。







だから、待ってて欲しい。




ジミンくん、テヒョンア。




今から行くよ。

テヒョンside







階段を、一段一段登っている。




本当に無意識に。




勝手に足が動いている。




少し前に、大きくて怖い影に引っ張られて現実世界へと連れて行かれたけど、気がついたらまた、この階段へ戻ってきていた。





きっと現実世界の俺がまた、昏睡状態になったのだろう。







本当は足を止めないといけないのに、登ることで死へ近づいていると分かっているのに、まぁいっか、なんて気持ちになって、どんどん先へと進んでしまう。





きっと、そうなってしまうほど、俺はもう限界なんだろう。






一段……また一段……。




先へ先へと進んで来た。





どれくらい登ったのだろう。





もうとっくに最初の一段目は見えなくなっている。





ここまで本当に長かった。




本当に。








さぁ、最後の一段だ。






目の前には綺麗な花と大地が広がっている。





驚く程に綺麗だ。こんな綺麗な場所を見たのは初めてだ。





なんて空気が美味しいんだろう。




少し先には大きな川が見える。




あの川も綺麗だ。




きっと……あの川を渡ってしまうと、俺はいよいよ死ぬんだろう。





もう、現実世界へは戻れないんだろう。




そう分かっていても、どうしても、あの川の方へ行きたいと思ってしまう。



ダメだと分かっているのに。




現実世界には大切な父さんもジミナもいるのに。






でも早く川の方へ行きたい。




綺麗なあの川の方へ。





早く……早く行きたい。






やっぱり俺はもう、限界みたいだ。









______俺は最後の一段を、登った。