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第1話

絶望
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2022/07/23 21:19
小学生まで匠翔は母親と2人暮らしをしていた。

母親はいつも優しくて明るくて匠翔の事を1番に考え

てくれた。父親がいなくても全く寂しくなかった。

大好きな母親がいたから。しかし小学生になった

ある日、

「ごめんね、匠翔」

母親はその言葉を残して匠翔を置いて

家を出て行った。大好きな母親に捨てられた。

裏切られた。この傷は深く深く匠翔の心にできて

今も治ることはない。匠翔はその日から人を信用

することも人に心を開くこともできなくなった。

人を信用してもまた裏切られる。それならもう

人を信用するのも人に期待するのも無駄だ。

やめてしまおう。幼いながらにそう思った。

その後匠翔は、親戚の家に預けられた。

母親の弟の家、つまり匠翔の叔父の家だ。

叔父は奥さんと二人暮らしをしていた。

叔父も奥さんもすごく優しくしてくれた。

だが心を開くことはどうしてもできなかった。

叔父はよく

「姉貴がごめんなあ、本当にごめんなあ」

と俺に謝ってきた。その度に

「叔父さんが謝ることじゃないよ」

と言った。だって本当にそうだから。

これから先も俺は絶望して生きるんだろうな。

どれだけ歳を重ねてもきっと俺の心の傷が

治ることはない。そうずっと思っていた。

もちろん匠翔は友達にも心を開けなくなった。

立川力也
あーーー進路ダルいなあー匠翔はもう決めてんの?
もうすぐ中3になる俺らは進路を決めていかなければ

行けない時期になった。
佐原匠翔
んー、まだ何も決めてないかな、
立川力也
だよなーーー、お前高校でもサッカーやるの?
中学では匠翔はサッカー部に所属していた。

匠翔を置いていった母親は匠翔に野球をやらせたい

とよく言っていた。

「ママね、匠翔に野球してほしいの!絶対匠翔はいい選手になるよー!ママわかる!大活躍する匠翔が今から目に浮かぶ!!!」
今でもそう言って笑う母親を思い出す。

だからあえてサッカーを選んだ。そんな理由で選ん

だ部活だったが匠翔は次第にサッカーが好きになっ

ていった。

佐原匠翔
うん、そのつもりでいる。
立川力也
そっかー!俺今はさー野球部じゃん?野球は好きだし楽しいんだけどさーこのまま続けるか高校で新しいこと挑戦するか迷うんだよなーーー匠翔どう思う?!
知らないよ、自分で考えろよと思ったが

佐原匠翔
どっちもいいと思う。まだ時間あるしゆっくり考えてみたら?
当たり障りのない答えを口にした。力也は納得した

ように二カッと笑って

立川力也
だよなーーー!そうするわ!!!あっやっべ俺急いで帰らないけねーわ!お母にさー買い物頼まれてさーやべーやべー!じゃあ!また明日な!
といい力也は全速力で走って行った。力也は小学生

からの付き合いで何かと一緒にいる。悪いやつでは

ない。たださっきみたいに悪気なく普通の日常を

俺に見せてくる。母親に置いてかれた俺にとって

たまにしんどいときがある。力也は力也なりに気を

使わないでいてくれてるんだと思う。

ただ俺は捻くれてるからどうしても力也に

心を開けない。信じることができない。友達が

ほとんどいない俺にもこうして声掛けて一緒にいて

くれる力也にまで心を開けない自分が嫌になる。

俺はこの先いつか誰かに心を開けることは出来る

のだろうか。いやきっと無理だろうなと自問自答

しながら田舎道をまっすぐ歩いていく。

今更考えたとこでもう一人にもなれた。

心を開けない自分も信用できない自分も

これから変えることなんてできない。もうそういう

人生を歩むって決めたんだからいいじゃないか。

今日もまた1日が終わった。

家に帰ると叔父さんが丁度仕事から帰宅したとこ

だった。

「おーおかえり、先風呂入るか?」

叔父が言った。

俺は頷いてお風呂に向かった。叔父も叔父の奥さん

も気を使ってくれているのがすごく伝わる。

俺はそれを感じる度に心苦しくなった。早くこの家

を出て一人で生きていかなければ。匠翔は強く

決心した。


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