第3話

ヴァンビール編1話# ――木葉秋紀・禍名発症
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2026/08/29 23:49 更新
# 『ヴァニタスの手記』×ハイキュー!!
体育館には、まだ試合の熱が残っていた。

歓声も、シューズが床を擦る音も、もう聞こえない。

試合は終わった。

勝った。

それなのに。

木葉秋紀は、ひとり体育館の隅に立っていた。
猿杙大和
猿杙大和
……木葉?
呼ばれて、顔を上げる。
木葉秋紀
木葉秋紀
ん?
いつもの顔。

いつもの、少し気の抜けた笑い方。
猿杙大和
猿杙大和
どうした?
木葉秋紀
木葉秋紀
いや……
木葉は肩を竦めた。
木葉秋紀
木葉秋紀
ちょっと疲れただけ
そう言って笑う。

それだけだった。

少なくとも、周囲から見れば。
木兎光太郎
木兎光太郎
今日の木葉、すげー助かった!
木兎が笑っていた。
木兎光太郎
木兎光太郎
最後のあれ! あれ木葉じゃなかったら取れてなかっただろ!
木葉秋紀
木葉秋紀
はいはい。分かった分かった
木兎光太郎
木兎光太郎
マジで!
木葉秋紀
木葉秋紀
うるせーな
木葉は笑った。

赤葦も静かに頷く。
赤葦京治
赤葦京治
木葉さんの判断、かなり大きかったと思います
木葉秋紀
木葉秋紀
……そ?
赤葦京治
赤葦京治
はい
木葉秋紀
木葉秋紀
そっか
また笑う。

けれど。

その笑顔の奥で。

ひとつだけ、引っかかっていた。
**『木葉じゃなかったら』**

その言葉。

本来なら、嬉しい。

自分を認めてもらえた言葉。

なのに。

どうしてだろう。

胸の奥に、別の声が響いた。
――木葉じゃなくてもよかったんじゃないか。
木葉秋紀
木葉秋紀
……
木葉の笑顔が、一瞬だけ止まる。
木兎光太郎
木兎光太郎
木葉?
木葉秋紀
木葉秋紀
ん?
赤葦がこちらを見る。
赤葦京治
赤葦京治
大丈夫ですか?
木葉秋紀
木葉秋紀
大丈夫大丈夫
笑う。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺、そんなヤワじゃねーって
いつも通り。

軽口。

冗談。

何でもないふり。

それで終わるはずだった。
その夜。

木葉は体育館を出た。

ひとりだった。

廊下を歩く。

窓の外は、もう暗い。
木葉秋紀
木葉秋紀
……
足音だけが響く。

一歩。

また一歩。

そのたびに、胸の奥が妙にざわつく。
木葉秋紀
木葉秋紀
……なんだよ
誰もいない廊下で、木葉が呟く。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺、ちゃんとやっただろ
返事はない。
木葉秋紀
木葉秋紀
……勝ったじゃん
静寂。
木葉秋紀
木葉秋紀
ちゃんと役に立っただろ
それでも。

何も返ってこない。

木葉は立ち止まった。
木葉秋紀
木葉秋紀
……だったら
ぽつり。
木葉秋紀
木葉秋紀
なんで、こんなに……
喉が詰まる。

言葉が続かない。
その瞬間。

胸の奥で、

**何かが軋んだ。**
木葉秋紀
木葉秋紀
……っ
木葉が胸元を押さえる。

どくん。

心臓が、大きく鳴った。

どくん。

もう一度。
木葉秋紀
木葉秋紀
な、んだ……?
視界が揺れる。

壁に手をつく。

その指先から。

**黒い葉が一枚、ひらりと落ちた。**
木葉秋紀
木葉秋紀
……葉?
拾おうとする。

しかし。

触れた瞬間。

黒い葉は灰のように崩れた。
木葉秋紀
木葉秋紀
……
木葉は黙り込む。

その黒い灰の中から。

声がした。
『――お前は、誰だ?』
木葉秋紀
木葉秋紀
……は?
『お前は、何のためにいる?』
木葉秋紀
木葉秋紀
……
『誰かの代わりだろう?』
木葉秋紀
木葉秋紀
違う
『ならば証明しろ』
木葉秋紀
木葉秋紀
……何を
『お前でなければならない理由を』

木葉は答えられなかった。
木葉秋紀
木葉秋紀
…………
答えが。

出てこない。

木兎なら。

赤葦なら。

猿杙なら。

鷲尾なら。

もっと簡単に答えられるのかもしれない。

だけど。

自分は。
木葉秋紀
木葉秋紀
……俺じゃなくても
声が震えた。
木葉秋紀
木葉秋紀
……いいだろ
その瞬間だった。
**パキッ。**

何かが割れる音。

木葉の瞳が見開かれる。

胸の奥。

そこに刻まれていたはずの名前が、

ゆっくりと黒く染まっていく。
《Auctor Folia》
木葉秋紀
木葉秋紀
……アウクトル……
木葉の唇から、真名が漏れる。

けれど。

その文字は。

一文字ずつ崩れていった。

**Auctor**

が消える。

残ったのは。

**Folia。**

そして。

その言葉すらも。

黒く反転する。
木葉秋紀
木葉秋紀
……やめろ
木葉が呟く。
木葉秋紀
木葉秋紀
それ以上……
しかし止まらない。

黒い葉が舞い始める。

一枚。

二枚。

十枚。

百枚。

廊下いっぱいに。

まるで秋の嵐のように。
木葉秋紀
木葉秋紀
……俺は
木葉は俯く。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺は……別に
声が震える。
木葉秋紀
木葉秋紀
特別じゃねぇ
黒い葉が、足元に積もっていく。
木葉秋紀
木葉秋紀
エースでもない
さらに。
木葉秋紀
木葉秋紀
天才でもない
さらに。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺がいなくても……
木葉の瞳から光が消えていく。
木葉秋紀
木葉秋紀
……たぶん、誰も困らない
その言葉を最後に。
**真名が、完全に反転した。**
黒い文字が浮かび上がる。

木葉の背後。

まるで夜空に刻まれるように。
《Folia Cadentia》

――禍名・発症
木葉秋紀
木葉秋紀
……フォリア……
木葉が呟く。
木葉秋紀
木葉秋紀
……カデンティア……
その瞬間。

黒い葉が一斉に舞い上がった。

空気が震える。

廊下の照明が、ひとつ。

またひとつ。

消えていく。

木葉の瞳が、赤く染まる。

首筋には、葉脈のような黒い紋様が浮かび上がった。
木葉秋紀
木葉秋紀
……はは
木葉は笑った。

けれど。

その笑い方は。

いつもの木葉秋紀のものではなかった。
木葉秋紀
木葉秋紀
そうか
木葉が顔を上げる。
木葉秋紀
木葉秋紀
落ちればいいんだ
黒い葉が彼の周囲を旋回する。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺なんか
一歩。

前へ。
木葉秋紀
木葉秋紀
最初から――
黒い葉が床を覆う。
木葉秋紀
木葉秋紀
いなかったことにすればいい
その瞬間。

遠くから声が響いた。
猿杙大和
猿杙大和
木葉!!
木葉の肩が、わずかに揺れる。

聞き慣れた声。

けれど。

振り返らない。
赤葦京治
赤葦京治
木葉さん!
赤葦の声も続く。
赤葦京治
赤葦京治
そこから動かないでください!
木葉秋紀
木葉秋紀
……来んな
木葉が低く呟いた。
木葉秋紀
木葉秋紀
……俺に近づくな
黒い葉が二人の前を遮る。

まるで、

**「誰も自分に触れさせない」**

と言うように。

木葉は俯いた。

そして。

小さく笑う。
木葉秋紀
木葉秋紀
だってさ
赤い瞳が、二人を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺、もう――
言葉が途切れる。

その奥で。

ほんの一瞬。

いつもの木葉の瞳が戻った。

助けを求めるような目。

けれど、それはすぐに消える。
木葉秋紀
木葉秋紀
……誰にも必要ないだろ?
黒い葉が、

一斉に舞い上がった。

そして体育館へ向かって、

まるで嵐のように広がっていく。
**木葉秋紀。**

その真名、

《アウクトル・フォリア》

は、この夜。

《フォリア・カデンティア》

という禍名へと堕ちた。

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