本家へ向かう列車の中。
木葉秋紀は、窓の外を眺めていた。
流れていく景色。
見慣れた街。
見慣れた学校。
そして、その先にある――見知らぬ世界。
隣には兄が座っている。
向かいには赤葦と木兎たち。
誰も、あまり喋らない。
そんな中。
木葉がぽつりと言った。
兄は少し黙った。
秋紀が振り返る。
兄は窓の外を見る。
列車が止まる。
そこから先は。
古い森だった。
秋紀たちは徒歩で進む。
やがて。
霧の向こうに巨大な屋敷が現れた。
木兎が呟く。
猿杙が周囲を見る。
鷲尾も頷く。
秋紀は。
その門を見つめた。
胸元が。
僅かに熱い。
兄が隣に立つ。
秋紀は深呼吸した。
扉が開いた。
黒い服のヴァンピールが頭を下げる。
秋紀が眉を寄せる。
秋紀が苦笑する。
しかし。
兄は笑わなかった。
兄が低く言う。
長い廊下。
壁には。
無数の肖像画が並んでいる。
秋紀は歩きながら眺めていた。
赤い瞳。
鋭い顔。
そして。
胸元に描かれた三つの紋章。
案内役が言う。
指差された肖像画。
秋紀は。
足を止めた。
そこに描かれていたのは。
まだ若い頃の父親だった。
そして。
その隣に。
小さな兄。
さらに。
その腕に抱かれている――
幼い秋紀。
秋紀が呟く。
兄は答えない。
扉が開く。
広い部屋。
中央に。
一人の男が座っていた。
銀色の髪。
赤い瞳。
静かな表情。
秋紀は。
一瞬だけ動けなくなった。
男は。
ゆっくり顔を上げた。
その声。
覚えている。
けれど。
どこか遠い。
秋紀は答える。
父は微笑む。
秋紀は。
少しだけ安心しかけた。
しかし。
次の言葉で。
その感情は消えた。
秋紀の表情が変わる。
父が言う。
秋紀たちは席につく。
兄だけは。
立ったままだった。
父が兄を見る。
兄は静かに答えた。
秋紀が眉を寄せる。
秋紀は父を見る。
父は淡々と話す。
秋紀が兄を見る。
父が続ける。
兄の手が。
僅かに震えた。
秋紀がそれを見る。
父は頷いた。
秋紀の声が低くなる。
部屋が静まり返る。
秋紀の拳が震える。
父は。
何でもないことのように答えた。
秋紀が兄を見る。
兄は。
何も言わない。
秋紀の声が震える。
兄は頷く。
秋紀は父を見る。
初めて。
その声に怒りが混じった。
父は眉一つ動かさない。
秋紀が立ち上がる。
木葉の胸元。
《禍名》が黒く揺れる。
兄が慌てて近づく。
秋紀は父を睨む。
声が震える。
父は。
静かに秋紀を見た。
父が立ち上がる。
秋紀の胸元の光が。
一瞬で消える。
父が歩いてくる。
秋紀は。
拳を握った。
父の目が細くなる。
秋紀は胸元を掴む。
静寂。
次の瞬間。
父が指を鳴らした。
**――パチン。**
床に。
巨大な紋章が浮かび上がる。
秋紀の身体が動かなくなる。
赤葦が立ち上がる。
兄が駆け寄る。
だが。
兄の足元にも紋章が現れる。
父の声。
父の瞳が赤く輝く。
秋紀が顔を上げる。
父の背後。
巨大な扉が開く。
その奥には。
無数の古い魔導具。
そして。
中央に置かれた――
**巨大な黒い樹。**
その幹には。
無数の名前が刻まれている。
秋紀は息を呑んだ。
父が答える。
父が秋紀を見る。
木葉父「お前の《永名》は、この樹の最上位に接続される」
秋紀の胸元が。
強く輝き始める。
兄が叫ぶ。
兄の顔は。
今まで見たことがないほど青ざめていた。
兄が震える。
父を睨む。
秋紀が父を見る。
父は。
初めて笑った。
秋紀の身体から。
光が引き出され始める。
兄が叫ぶ。
父の力が。
兄を壁へ押し付ける。
秋紀は必死に手を伸ばす。
しかし。
身体が動かない。
父が告げる。
木葉の胸元。
三つの名前が激しく輝く。
《Auctor Folia》
《Folia Cadentia》
《Folia Aeterna》
父が言う。
秋紀の目に。
怒りが宿る。
光が強くなる。
兄が叫ぶ。
秋紀の周囲に。
無数の緑の葉が舞う。
**――轟ッ!!**
《永名》が爆発する。
名樹の枝が。
一斉に揺れた。
そして。
刻まれていた無数の名前が。
次々と光り始める。
父が驚く。
秋紀の真名。
《Auctor Folia》。
その本来の力が。
初めて完全に目覚める。
秋紀の目が輝く。
名樹に刻まれていた名前が。
一本。
また一本。
黒い鎖から解放されていく。
父の表情が変わる。
秋紀が笑う。
兄へ手を伸ばす。
兄の《禍名》が輝く。
秋紀の《永名》と共鳴する。
二人の名前が。
重なる。
そして。
名樹の最上部。
まだ誰にも見えなかった場所に。
新しい名前が浮かび上がった。
父が息を呑む。
赤葦も。
木兎も。
その文字を見つめる。
秋紀は。
自分でも読めないその名前を見上げた。
そこに刻まれていたのは――
**《Folia Familia》**
秋紀が呟く。
兄の目から。
一筋の涙が落ちた。
父は。
初めて動揺した。
秋紀が振り返る。
父を見る。
父が目を見開く。
秋紀は笑った。
その瞬間。
本家全体が。
大きく揺れた。
遠くで。
無数の鐘が鳴り始める。
そして。
どこかから声が響いた。
『――継承者が、目覚めた』
『――《家族の名》が発現した』
『――禁忌が破られた』
秋紀の顔から。
笑みが消える。
兄が。
静かに呟いた。
木葉秋成:「俺たちは今――」
窓の外。
空いっぱいに。
巨大な紋章が浮かび上がる。
秋紀は。
その空を見上げた。
そして。
拳を握った。
その隣に。
兄が立つ。
秋紀は笑う。


















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。