第14話

第12話「父――継承者の器」 ――お前は、息子ではない
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2026/09/16 03:47 更新
本家へ向かう列車の中。

木葉秋紀は、窓の外を眺めていた。

流れていく景色。

見慣れた街。

見慣れた学校。

そして、その先にある――見知らぬ世界。
木葉秋紀
木葉秋紀
……
隣には兄が座っている。

向かいには赤葦と木兎たち。

誰も、あまり喋らない。

そんな中。

木葉がぽつりと言った。
木葉秋紀
木葉秋紀
なぁ、兄ちゃん
木葉秋成
木葉秋成
何だ?
木葉秋紀
木葉秋紀
父さんって……昔からああだった?
兄は少し黙った。
木葉秋成
木葉秋成
……昔は違った
木葉秋紀
木葉秋紀
へぇ
木葉秋成
木葉秋成
少なくとも、お前が生まれるまでは
秋紀が振り返る。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺が生まれてから変わった?
木葉秋成
木葉秋成
ああ
木葉秋紀
木葉秋紀
何で?
兄は窓の外を見る。
木葉秋成
木葉秋成
……お前が《永名》を持って生まれたからだ
列車が止まる。

そこから先は。

古い森だった。

秋紀たちは徒歩で進む。

やがて。

霧の向こうに巨大な屋敷が現れた。
木兎光太郎
木兎光太郎
……デカ
木兎が呟く。
木兎光太郎
木兎光太郎
これ、家?
木葉秋紀
木葉秋紀
家っていうより城だろ
猿杙が周囲を見る。
猿杙大和
猿杙大和
嫌な感じするな
鷲尾も頷く。
鷲尾
……ああ
秋紀は。

その門を見つめた。

胸元が。

僅かに熱い。
木葉秋紀
木葉秋紀
……ここに
兄が隣に立つ。
木葉秋成
木葉秋成
ああ
木葉秋紀
木葉秋紀
父さんがいる
木葉秋成
木葉秋成
……そうだ
秋紀は深呼吸した。
木葉秋紀
木葉秋紀
行くか
扉が開いた。
ヴァンピール
お待ちしておりました
黒い服のヴァンピールが頭を下げる。
ヴァンピール
《永名》の継承者――木葉秋紀様
木葉秋紀
木葉秋紀
……様?
秋紀が眉を寄せる。
木葉秋紀
木葉秋紀
やめてくれ
ヴァンピール
規則です
木葉秋紀
木葉秋紀
堅苦しいな……
秋紀が苦笑する。

しかし。

兄は笑わなかった。
木葉秋成
木葉秋成
秋紀
木葉秋紀
木葉秋紀
ん?
木葉秋成
木葉秋成
気をつけろ
木葉秋紀
木葉秋紀
……何に?
木葉秋成
木葉秋成
ここでは
兄が低く言う。
木葉秋成
木葉秋成
お前の『普通』が通じない
長い廊下。

壁には。

無数の肖像画が並んでいる。

秋紀は歩きながら眺めていた。
木葉秋紀
木葉秋紀
……みんな同じ目してんな
赤い瞳。

鋭い顔。

そして。

胸元に描かれた三つの紋章。
ヴァンピール
一族の歴代当主です
案内役が言う。
ヴァンピール
その中央が――
指差された肖像画。
ヴァンピール
現当主です
秋紀は。

足を止めた。
木葉秋紀
木葉秋紀
……
そこに描かれていたのは。

まだ若い頃の父親だった。

そして。

その隣に。

小さな兄。

さらに。

その腕に抱かれている――

幼い秋紀。
木葉秋紀
木葉秋紀
……俺
秋紀が呟く。
木葉秋紀
木葉秋紀
こんな写真……あったんだ
兄は答えない。
木葉秋紀
木葉秋紀
兄ちゃん?
木葉秋成
木葉秋成
……知らなかった
ヴァンピール
こちらへ
扉が開く。

広い部屋。

中央に。

一人の男が座っていた。

銀色の髪。

赤い瞳。

静かな表情。

秋紀は。

一瞬だけ動けなくなった。
木葉秋紀
木葉秋紀
……父さん
男は。

ゆっくり顔を上げた。
木葉父
久しぶりだな、秋紀
その声。

覚えている。

けれど。

どこか遠い。
木葉秋紀
木葉秋紀
……久しぶり
秋紀は答える。
木葉父
大きくなったな
木葉秋紀
木葉秋紀
……
木葉父
最後に会ったのは、お前が幼い頃だったか
木葉秋紀
木葉秋紀
そうだな
父は微笑む。
木葉父
立派になった
秋紀は。

少しだけ安心しかけた。

しかし。

次の言葉で。

その感情は消えた。
木葉父
――《永名》の器として
木葉秋紀
木葉秋紀
……
秋紀の表情が変わる。
木葉父
座れ
父が言う。

秋紀たちは席につく。

兄だけは。

立ったままだった。
木葉父
お前は座らなくていい
父が兄を見る。
木葉秋成
木葉秋成
……はい
兄は静かに答えた。

秋紀が眉を寄せる。
木葉秋紀
木葉秋紀
何で兄ちゃんだけ?
木葉父
彼は継承者ではない
木葉秋紀
木葉秋紀
だから?
木葉父
だから、お前とは立場が違う
秋紀は父を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
……兄ちゃんは俺の兄貴だろ
木葉父
それと継承資格は別だ
木葉秋紀
木葉秋紀
……
父は淡々と話す。
木葉父
お前は《第一継承者》として生まれた
木葉秋紀
木葉秋紀
兄は?
木葉父
第二候補
秋紀が兄を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
……
木葉父
だが
父が続ける。
木葉父
適性がなかった
兄の手が。

僅かに震えた。

秋紀がそれを見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
……適性がなかったから
木葉父
そうだ
木葉秋紀
木葉秋紀
だから《禍名》を?
父は頷いた。
木葉父
その通りだ
木葉秋紀
木葉秋紀
……
秋紀の声が低くなる。
木葉秋紀
木葉秋紀
誰がやった?
木葉父
私だ
部屋が静まり返る。
木葉秋紀
木葉秋紀
……父さんが?
木葉父
ああ
木葉秋紀
木葉秋紀
兄ちゃんに?
木葉父
ああ
秋紀の拳が震える。
木葉秋紀
木葉秋紀
何で
父は。

何でもないことのように答えた。
木葉父
必要だったからだ
木葉秋紀
木葉秋紀
必要……?
木葉父
《永名》を継ぐ者を守るためには、《禍名》を扱える盾が必要だった
木葉秋紀
木葉秋紀
……
木葉父
彼はその役割を担った
秋紀が兄を見る。

兄は。

何も言わない。
木葉秋紀
木葉秋紀
……お前
秋紀の声が震える。
木葉秋紀
木葉秋紀
ずっと知ってたのか
兄は頷く。
木葉秋成
木葉秋成
……ああ
木葉秋紀
木葉秋紀
父さんがお前に禍名を与えたこと
木葉秋成
木葉秋成
知ってた
木葉秋紀
木葉秋紀
それで俺を守ってた?
木葉秋成
木葉秋成
……そうだ
秋紀は父を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
ふざけんなよ
初めて。

その声に怒りが混じった。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺のために兄ちゃんを壊したのか?
父は眉一つ動かさない。
木葉父
壊してはいない
木葉秋紀
木葉秋紀
じゃあ何だよ!
木葉父
役割を与えただけだ
木葉秋紀
木葉秋紀
……!
秋紀が立ち上がる。
木葉秋紀
木葉秋紀
役割?
木葉父
そうだ
木葉秋紀
木葉秋紀
兄ちゃんは人間だぞ!
木葉父
ヴァンピールだ
木葉秋紀
木葉秋紀
そういう話じゃねぇ!
木葉の胸元。

《禍名》が黒く揺れる。

兄が慌てて近づく。
木葉秋成
木葉秋成
秋紀、落ち着け!
木葉秋紀
木葉秋紀
落ち着いてられるか!
秋紀は父を睨む。
木葉秋紀
木葉秋紀
兄ちゃんは!
声が震える。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺を守るために十年も一人だったんだぞ!
父は。

静かに秋紀を見た。
木葉父
……それがお前の弱さだ
木葉秋紀
木葉秋紀
……何?
木葉父
他人の痛みに引きずられる
父が立ち上がる。
木葉父
それでは《永名》は扱えない
秋紀の胸元の光が。

一瞬で消える。
木葉秋紀
木葉秋紀
……!
木葉父
《永名》とは
父が歩いてくる。
木葉父
一族の記憶を受け継ぎ、血を繋ぎ、世界を変える力だ
木葉秋紀
木葉秋紀
……
木葉父
そこに個人的な感情を持ち込むな
秋紀は。

拳を握った。
木葉秋紀
木葉秋紀
……嫌だ
木葉父
何?
木葉秋紀
木葉秋紀
俺はそんな《永名》いらねぇ
父の目が細くなる。
木葉父
……
木葉秋紀
木葉秋紀
兄ちゃんを犠牲にしてまで継ぐくらいなら
秋紀は胸元を掴む。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺は、こんな力いらねぇ!
静寂。

次の瞬間。

父が指を鳴らした。

**――パチン。**

床に。

巨大な紋章が浮かび上がる。
木葉秋紀
木葉秋紀
……っ!
秋紀の身体が動かなくなる。
赤葦京治
赤葦京治
木葉さん!
赤葦が立ち上がる。
赤葦京治
赤葦京治
下がってください!
木葉秋成
木葉秋成
秋紀!
兄が駆け寄る。

だが。

兄の足元にも紋章が現れる。
木葉秋成
木葉秋成
……!
木葉秋紀
木葉秋紀
兄ちゃん!
木葉父
動くな!
父の声。
木葉父
お前たちがどれほど互いを大切にしているかは分かった
木葉秋紀
木葉秋紀
……
木葉父
だからこそ――
父の瞳が赤く輝く。
木葉父
次の継承儀式を行う
木葉秋紀
木葉秋紀
……何?
秋紀が顔を上げる。
木葉秋紀
木葉秋紀
今から?
木葉父
ああ
木葉秋紀
木葉秋紀
嫌だって言ってんだろ!
木葉父
拒否権はない
父の背後。

巨大な扉が開く。

その奥には。

無数の古い魔導具。

そして。

中央に置かれた――

**巨大な黒い樹。**

その幹には。

無数の名前が刻まれている。

秋紀は息を呑んだ。
木葉秋紀
木葉秋紀
……何だよ、これ
父が答える。
木葉父
我が一族が代々守ってきた《名樹》だ
木葉秋紀
木葉秋紀
……
木葉父
そして
父が秋紀を見る。

木葉父「お前の《永名》は、この樹の最上位に接続される」

秋紀の胸元が。

強く輝き始める。
木葉秋紀
木葉秋紀
……っ!
木葉秋成
木葉秋成
秋紀!
兄が叫ぶ。
木葉秋成
木葉秋成
逃げろ!
木葉秋紀
木葉秋紀
え?
兄の顔は。

今まで見たことがないほど青ざめていた。
木葉秋成
木葉秋成
それは……
兄が震える。
木葉秋成
木葉秋成
《継承》じゃない
父を睨む。
木葉秋成
木葉秋成
**《吸収》だろ!**
木葉秋紀
木葉秋紀
……!
秋紀が父を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
どういうことだよ
父は。

初めて笑った。
木葉父
よく気づいたな
木葉秋紀
木葉秋紀
……
木葉父
その通りだ
秋紀の身体から。

光が引き出され始める。
木葉父
《永名》は、お前のものではない
木葉秋紀
木葉秋紀
……!
木葉父
一族全体のものだ
兄が叫ぶ。
木葉秋成
木葉秋成
やめろ!
木葉父
黙れ
父の力が。

兄を壁へ押し付ける。
木葉秋紀
木葉秋紀
兄ちゃん!
木葉秋成
木葉秋成
秋紀!
秋紀は必死に手を伸ばす。

しかし。

身体が動かない。
木葉秋紀
木葉秋紀
……っ!
父が告げる。
木葉父
これで、お前の《永名》は完成する
木葉秋紀
木葉秋紀
嫌だ……
木葉父
そして――
木葉の胸元。

三つの名前が激しく輝く。


《Auctor Folia》


《Folia Cadentia》


《Folia Aeterna》
木葉父
お前自身の意思も
父が言う。
木葉父
継承の一部となる
木葉秋紀
木葉秋紀
……ふざけんな
秋紀の目に。

怒りが宿る。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺の名前を
光が強くなる。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺の記憶を
兄が叫ぶ。
木葉秋成
木葉秋成
秋紀!
木葉秋紀
木葉秋紀
俺の人生を――
秋紀の周囲に。

無数の緑の葉が舞う。
木葉秋紀
木葉秋紀
勝手に決めんなァッ!!
**――轟ッ!!**

《永名》が爆発する。

名樹の枝が。

一斉に揺れた。

そして。

刻まれていた無数の名前が。

次々と光り始める。

父が驚く。
木葉父
……何だ?
秋紀の真名。

《Auctor Folia》。

その本来の力が。

初めて完全に目覚める。
木葉秋紀
木葉秋紀
失われた名を――
秋紀の目が輝く。
木葉秋紀
木葉秋紀
取り戻す!
名樹に刻まれていた名前が。

一本。

また一本。

黒い鎖から解放されていく。

父の表情が変わる。
木葉父
やめろ!
木葉秋紀
木葉秋紀
ヤだね!
秋紀が笑う。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺はもう――
兄へ手を伸ばす。
木葉秋紀
木葉秋紀
誰かのために自分を消したりしない!
兄の《禍名》が輝く。

秋紀の《永名》と共鳴する。
木葉秋紀
木葉秋紀
兄ちゃん!
木葉秋成
木葉秋成
秋紀!
二人の名前が。

重なる。
そして。

名樹の最上部。

まだ誰にも見えなかった場所に。

新しい名前が浮かび上がった。

父が息を呑む。
木葉父
……そんな
赤葦も。

木兎も。

その文字を見つめる。

秋紀は。

自分でも読めないその名前を見上げた。

そこに刻まれていたのは――


**《Folia Familia》**
木葉秋紀
木葉秋紀
……家族?
秋紀が呟く。

兄の目から。

一筋の涙が落ちた。
木葉秋成
木葉秋成
秋紀……
父は。

初めて動揺した。
木葉父
その名は……
秋紀が振り返る。
木葉秋紀
木葉秋紀
父さん
父を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺は《永名》を継ぐ
父が目を見開く。
木葉秋紀
木葉秋紀
だが
秋紀は笑った。
木葉秋紀
木葉秋紀
**俺のやり方でな。**
その瞬間。

本家全体が。

大きく揺れた。

遠くで。

無数の鐘が鳴り始める。

そして。

どこかから声が響いた。

『――継承者が、目覚めた』

 『――《家族の名》が発現した』

  『――禁忌が破られた』

秋紀の顔から。

笑みが消える。
木葉秋紀
木葉秋紀
……何だ?
兄が。

静かに呟いた。
木葉秋成
木葉秋成
秋紀
木葉秋紀
木葉秋紀
ん?
木葉秋成:「俺たちは今――」
窓の外。

空いっぱいに。

巨大な紋章が浮かび上がる。
木葉秋成
木葉秋成
**一族の歴史そのものを敵に回した。**
秋紀は。

その空を見上げた。

そして。

拳を握った。
木葉秋紀
木葉秋紀
……だったら
その隣に。

兄が立つ。
木葉秋成
木葉秋成
二人でやるか
木葉秋紀
木葉秋紀
ああ
秋紀は笑う。
木葉秋紀
木葉秋紀
今度こそな
山本文(木兎文)
山本文(木兎文)
「ヤだね」のシーンを書きたかっただけ

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