第9話

第7話「奪われた名前」 ――その記憶は、誰のものだったのか
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2026/09/05 16:22 更新
木葉秋紀
木葉秋紀
……俺から、奪った?
木葉秋紀は、目の前のヴァンピールを睨みつけた。

夜明け前の校門。

梟谷の仲間たちが背後にいる。

その前に立つ男の胸元には――

木葉と同じように、三つの名前が浮かんでいた。

**真名。**

**禍名。**

そして――

**永名。**

木葉の胸元に浮かぶものと、酷似している。
木葉秋紀
木葉秋紀
お前が……俺の名前を奪ったのか
?
いいえ
男は首を横に振った。
?
奪ったのは、名前ではありません
木葉秋紀
木葉秋紀
じゃあ何だよ
男は微笑んだ。
?
あなたが初めて、『自分はいらない』と思った記憶です
木葉秋紀
木葉秋紀
……!
木葉の心臓が、大きく跳ねた。
赤葦京治
赤葦京治
木葉さん!
赤葦が腕を掴む。
赤葦京治
赤葦京治
大丈夫ですか?
木葉秋紀
木葉秋紀
……ああ
木葉は答えた。
木葉秋紀
木葉秋紀
大丈夫……
しかし。

その声は震えていた。

男が続ける。
?
あなたは覚えていないでしょう
木葉秋紀
木葉秋紀
何を
?
自分が、初めてヴァンピールとして目覚めた日のことを
木葉は黙った。
?
その日は
男の赤い瞳が細くなる。
?
あなたが大切にしていたものを失った日でもある
木葉秋紀
木葉秋紀
……
?
そしてあなたは、その瞬間に思った
男が静かに告げる。
?
――『自分がいなければ、こんなことにはならなかった』と
木葉の視界が揺れた。
木葉秋紀
木葉秋紀
……違う
?
違いません
木葉秋紀
木葉秋紀
俺は……
?
思い出してください
木葉秋紀
木葉秋紀
……やめろ
赤葦京治
赤葦京治
木葉さん
赤葦が呼ぶ。
赤葦京治
赤葦京治
聞かなくていいです
木葉秋紀
木葉秋紀
いや……
木葉は首を振った。
木葉秋紀
木葉秋紀
聞く
赤葦京治
赤葦京治
木葉さん?!
木葉秋紀
木葉秋紀
ここまで来たんだ
木葉は男を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺の過去なんだろ
そして。
木葉秋紀
木葉秋紀
全部、知りたい
男は静かに頷いた。
?
では――
指先を鳴らす。

――パチン。

世界が。

一瞬で暗転した。
約 十年前

まだ幼い木葉がいた。

今よりずっと小さな身体。

その隣には――
?
秋紀
誰かが呼ぶ。
?
早くしなさい
木葉秋紀
木葉秋紀
待ってよ!
幼い木葉が笑って走る。

その隣には。

家族。

そして。

木葉が大切にしていた――

小さな黒猫。
木葉秋紀
木葉秋紀
こいつも連れてく!
?
秋紀、駄目よ
木葉秋紀
木葉秋紀
なんで?
?
その子は外に出せないの
木葉秋紀
木葉秋紀
でも!
木葉が猫を抱き上げる。
木葉秋紀
木葉秋紀
一緒に行きたいって!
場面が変わる。

夜。

雨。

幼い木葉が一人で走っている。
木葉秋紀
木葉秋紀
……どこ?
周囲には誰もいない。
木葉秋紀
木葉秋紀
ねぇ……
返事がない。
木葉秋紀
木葉秋紀
……どこにいるの?
雨音だけ。

木葉は必死に探す。
木葉秋紀
木葉秋紀
……俺のせい?
小さな声。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺が……
そのとき。

暗闇から。

赤い瞳が現れた。
?
――お前は、ヴァンピールの血を持っている
幼い木葉は怯えている。
木葉秋紀
木葉秋紀
……何、それ
?
お前の中に眠っている力だ
木葉秋紀
木葉秋紀
力……?
?
だが
男が手を伸ばす。
?
その力は、お前自身を傷つける
木葉秋紀
木葉秋紀
……
?
だから
木葉の胸元に触れる。
?
名前を封じる
木葉秋紀
木葉秋紀
……!
現在の木葉が息を呑んだ。
木葉秋紀
木葉秋紀
……これ
?
思い出しましたか?
木葉秋紀
木葉秋紀
……俺
木葉の手が震える。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺は……あのとき
映像の中の幼い木葉が泣いている。

そして。

男の言葉。
?
『今日から、お前は自分の真名を知らない』
木葉秋紀
木葉秋紀
……なんで?
?
『知らないほうがいい』
木葉秋紀
木葉秋紀
……
?
『お前は普通の人間として生きろ』
木葉秋紀
木葉秋紀
……
?
『そうすれば――』
男が告げる。
?
『誰も傷つかない』
木葉は目を閉じた。
木葉秋紀
木葉秋紀
……
記憶が繋がる。

今まで忘れていたもの。

自分が何故。

「必要ない」という言葉に、あれほど敏感だったのか。

何故。

誰かの役に立てないと、不安になったのか。

何故。

自分が誰かを傷つけることを、異常なほど恐れていたのか。

全部。

ここから始まっていた。
木葉秋紀
木葉秋紀
……俺
木葉が呟く。
木葉秋紀
木葉秋紀
自分がいると、誰かが傷つくって……
赤葦が黙って聞いている。
木葉秋紀
木葉秋紀
そう思ってたんだ
木兎光太郎
木兎光太郎
木葉……
木兎が心配そうに見る。

木葉は拳を握った。
木葉秋紀
木葉秋紀
だから
?
……
木葉秋紀
木葉秋紀
誰かに必要だって言われても、信じられなかった
胸元の《禍名》が僅かに揺れる。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺が必要とされたら
木葉の声が震える。
木葉秋紀
木葉秋紀
また誰かを傷つけるんじゃないかって
男が言う。
?
それが、あなたの禍名の根です
木葉秋紀
木葉秋紀
……
?
あなたは自分を嫌っていたわけではない
木葉秋紀
木葉秋紀
……え?
?
恐れていたのです
木葉が顔を上げる。
?
自分の力を
男は続ける。
?
そして、自分自身を
木葉秋紀
木葉秋紀
……じゃあ
木葉は自分の手を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺が『いらない』って思ってたのは
?
あなた自身を守るためです
木葉秋紀
木葉秋紀
……
?
自分を消してしまえば、誰も傷つかない
その言葉が。

木葉の胸を刺した。
木葉秋紀
木葉秋紀
……馬鹿みたいだな
?
そうでしょうか
木葉秋紀
木葉秋紀
だって
木葉は苦笑する。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺が消えたって、何も解決しないだろ
?
ええ
木葉秋紀
木葉秋紀
……
?
ですが、子供だったあなたには、それしか思いつかなかった
木葉はしばらく黙っていた。

そして。
木葉秋紀
木葉秋紀
……そうだったのか
小さく呟く。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺、ずっと逃げてたんだ
?
……
木葉秋紀
木葉秋紀
自分の力から
?
……
木葉秋紀
木葉秋紀
自分自身から
木葉は顔を上げる。
木葉秋紀
木葉秋紀
でも
木兎を見る。

赤葦を見る。

猿杙を見る。

鷲尾を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
今は違う
木葉の胸元。

《Folia Cadentia》が黒く輝く。

だが。

その隣に。

《Auctor Folia》が現れる。

さらに。

《Folia Aeterna》。

三つの名前が重なる。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺が怖いなら
木葉は黒い葉を手に取った。
木葉秋紀
木葉秋紀
怖いままでいい
葉は震えている。
木葉秋紀
木葉秋紀
迷うなら
緑の葉を重ねる。
木葉秋紀
木葉秋紀
迷ったままでいい
そして。

二つを合わせる。
木葉秋紀
木葉秋紀
それでも
光が生まれた。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺はここにいる
男が目を見開く。
?
……!
木葉秋紀
木葉秋紀
俺は木葉秋紀だ
木葉の声が響く。
木葉秋紀
木葉秋紀
ヴァンピールでも
?
……
木葉秋紀
木葉秋紀
人間でも
?
……
木葉秋紀
木葉秋紀
強くても
?
……
木葉秋紀
木葉秋紀
弱くても
?
……
木葉秋紀
木葉秋紀
全部、俺だ
**ドクン。**

《永名》が輝いた。
赤葦京治
赤葦京治
《Folia Aeterna》……!
赤葦が呟く。

木葉の周囲に。

緑と黒の葉が舞い始める。

しかし。

今度は暴走しない。

木葉の意思に従っている。
木葉秋紀
木葉秋紀
……これが
木葉は自分の手を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺の力
男が静かに言う。
?
そうです
木葉秋紀
木葉秋紀
じゃあ
木葉は男を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
お前は何で、俺の記憶を封じた?
?
……
初めて。

男が黙った。

木葉の目が鋭くなる。
木葉秋紀
木葉秋紀
答えろ
?
……
木葉秋紀
木葉秋紀
お前が俺を助けるためにやったなら
木葉は一歩進む。
木葉秋紀
木葉秋紀
何で今、俺の前に現れた?
男は目を伏せる。

そして。
?
……あなたを守るためでした
木葉秋紀
木葉秋紀
……だったら
木葉が言う。
木葉秋紀
木葉秋紀
何で今は敵みたいなことしてんだよ
?
……
男は答えない。

代わりに。

その胸元にある三つの名前が。

一つ。

また一つ。

**黒く染まっていく。**
赤葦京治
赤葦京治
……!
赤葦が気づく。
赤葦京治
赤葦京治
木葉さん、離れて!
木葉秋紀
木葉秋紀
え?
男の胸元。

《Auctor ――》

文字が崩れる。

《――Cadentia》

そして。

最後の名前。

《――Aeterna》

それすら。

黒く染まる。

男が苦しそうに顔を歪めた。
?
……もう
木葉秋紀
木葉秋紀
……?
?
時間がありません
木葉秋紀
木葉秋紀
何の?
男は木葉を見る。
?
私自身の《禍名》が――
黒い魔力が爆発する。
?
**完成してしまう前に。**
木兎光太郎
木兎光太郎
木葉!
木兎が叫ぶ。

木葉は走った。

逃げるのではない。

今度は。

**仲間のいる方向へ。**
木葉秋紀
木葉秋紀
赤葦!
赤葦京治
赤葦京治
はい!
木葉秋紀
木葉秋紀
俺の後ろ頼む!
赤葦京治
赤葦京治
分かりました!
木葉秋紀
木葉秋紀
木兎!
木兎光太郎
木兎光太郎
おう!
木葉秋紀
木葉秋紀
前、頼めるか!
木兎光太郎
木兎光太郎
任せろ!
木葉秋紀
木葉秋紀
猿杙、鷲尾!
猿杙大和
猿杙大和
分かってる!
鷲尾
了解
一瞬で。

梟谷の陣形ができる。

まるで。

いつものコートの中のように。
木葉は笑った。
木葉秋紀
木葉秋紀
……なんだ
黒い葉が舞う。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺、ちゃんと分かってんじゃん
自分がどこに立つべきか。

誰の隣にいるべきか。

誰を信じるべきか。

ずっと。

知っていた。

ただ。

自分だけを信じることができなかった。

でも。

今なら。
木葉秋紀
木葉秋紀
行くぞ!
木葉が駆ける。
全員
――梟谷!
仲間たちが続く。
そして。

夜明けの空の下。

木葉の《永名》が。

完全に輝いた。

《Folia Aeterna》

**――永遠に残る葉。**

その光を見た男が。

初めて。

悲しそうに笑った。
?
……やっと
木葉秋紀
木葉秋紀
……?
?
あなたは、自分の名前を取り戻した
木葉が振り返る。
木葉秋紀
木葉秋紀
お前……
男は静かに目を閉じる。
?
それだけで……私は十分です
木葉秋紀
木葉秋紀
待て!
男の身体が。

黒い霧へ変わっていく。
木葉秋紀
木葉秋紀
おい!
赤葦京治
赤葦京治
木葉さん!
木葉秋紀
木葉秋紀
待て!
木葉が手を伸ばす。

しかし。

届かない。

最後に。

男の声だけが残った。
?
――次に会うときは
木葉秋紀
木葉秋紀
……
?
私を、敵として見てください
木葉秋紀
木葉秋紀
……何?
?
そうでなければ
その声は。

悲しそうだった。
?
あなたが死ぬことになります
霧が消えた。

静寂。

木葉は伸ばした手を下ろす。
木葉秋紀
木葉秋紀
……何なんだよ
誰も答えない。

ただ。

朝日が昇り始めていた。

木葉は空を見る。

そして。

胸元に手を当てる。

真名。

禍名。

永名。

三つの名前が。

静かに輝いていた。
赤葦京治
赤葦京治
木葉さん
赤葦が呼ぶ。
木葉秋紀
木葉秋紀
ん?
赤葦京治
赤葦京治
帰りましょう
木葉秋紀
木葉秋紀
……ああ
木兎が木葉の肩に腕を回す。
木兎光太郎
木兎光太郎
朝飯!
木葉秋紀
木葉秋紀
お前、こんな状況でも飯かよ
木兎光太郎
木兎光太郎
だって腹減った!
木葉秋紀
木葉秋紀
……ったく
木葉は笑った。
木葉秋紀
木葉秋紀
じゃあ、帰るか
歩き出す。

一歩。

また一歩。

今までなら。

「自分がいなくてもいい」と思っていた道。

だけど。

今日は違う。
木葉は。

自分の足で。

自分の名前を抱えて。

仲間と一緒に。

**前へ進んだ。**
山本文(木兎文)
山本文(木兎文)
木兎強い
山本文(木兎文)
山本文(木兎文)
木兎だぁ

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