第2話

第2話:唯の入れ物
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2024/02/12 10:10 更新
「代わってやれたらいいのに」
何度そう思ったことか。
土埃を払うように手の甲でそれをなぞる

実際、僕の顔がうつるほどに、それは綺麗だった。
触れた石の塊は、加工されて平らな輝きを持って僕の指に吸い付いた。

ここに、命が息だえているのだ。

まだまだ未来を生きるはずだった、これからもきらきらと輝いただろうモノが眠っている。
本当は、そこには僕がいるべきだった。
代わってやりたい。代わってほしい。

願わくば、その冷たい土の中で、とろけるような甘い眠りに浸っていたい。

その方が、随と楽だろうに。

僕は、生きるしかないのだ。
せめてもの償いと称して、生を全うしなければならない。彼の為に。自分のために。
地が裂け、天が降ろうとも、苦しみながら生き続けなければいけない。

零れた雫を飲み込むように、石はきらりと光った
幾度となく言葉を紡いでも、是も非も、もう何も返ってこない。
花を添え、春の風が吹き込む中、この土の中に眠る彼の名前を呼んだ
まひと
てると、

お前は、今の僕を見たらなんと声をかけるだろうか
縋るように手を握る

普段は好ましいはずの静寂が、頭に響いて酷く痛かった
まひと
……なんだコイツ
てると
マスター、ただ今帰りました
ばぁう
ただ今送り届けました〜
まひと
ああ、おかえり
……で?コイツは?
てると
ゆきむらさんのところの新しい従業員さんで…
ばぁう
ばぁうっていいます!あんたがてるとのマスターか!よろしく!
まひと
………
マスターは眉を顰める
てると
ばぁうさん、送っていただいて、ありがとうございます
ばぁう
いやいやそんなあ〜
まひと
……痒い…
てると
すみませんマスター。部屋にお戻りになられた方が……
まひと
そうするか……
彼が閉じた扉が、ぱたんと音を立てる
後で謝らなければとドアを見つめた
ばぁう
……なんかのアレルギー?
てると
いえ、ばぁうさんの感情が痒かったのだと思います
ばぁう
俺の…感情?
てると
マスターの体質です。感情受信体質。
ばぁう
……?
てると
云わば、自分に向けられた感情を身体で受ける、といったものです。
ばぁう
?!なんだそれ!
てると
だから、お世話係として僕を造られました。僕は、感情を持たないので。
ばぁう
へえ……
ばぁう
それってさ、さっきみたいな「痒い」とかじゃなくて、「痛い」とかもあんの?
てると
あると思われます。というか、痛いのが大半かと。
ばぁう
大変じゃねえか…
てると
だから僕がいます
ばぁう
なるほどね!
ばぁう
じゃあさ、街まで来る時は、俺に会いに来てよ。俺てるちゃんのこともっと知りたいなあ!
てると
……てるちゃん
ばぁう
そう。てるとだからてるちゃん!
てると
渾名、ですか
ばぁう
いいでしょ〜
てると
………

てると
ええ、とても

ばぁう
……え、
てると
では、お気をつけて。今日はありがとうございました。
ばぁう
今、笑…っ、
きぃ、とドアを引いた
立ち止まっているばぁうさんに会釈をして、ダイニングに荷物を置きに行く
てると
………
無意識に、頭に手を置いた
窓際に座って外を眺める
チカチカと光る星はまるで夢の中のような感覚にさせてくれた
てると
……マスター
まひと
………
まひと
どうした
枕元で書き物をしていたマスターがそれを閉じて僕に返事をする
てると
マスターは、僕と他の人間が、違うものだと、思いますか
まひと
……なんだ、いきなり
てると
いえ、ただ、少し…
握った手によって寝巻きのズボンに皺が寄る
まひと
何か言われたのか
てると
……いえ、そのようなことは。
一切ない、と言うように首を振った
そうまさんに渡されたクッキーを思い出す
てると
…クッキー、どうでしたか
まひと
なんだ、まだ僕はさっきの質問にこたえていないぞ
てると
………
まひと
……別に、変わらないよ
てると
……え、
まひと
お前も、僕も、他の人間も。
まひと
どうせ皆、魂をいれる為の、 唯の入れ物 に過ぎないんだから。
てると
…………
穏やかに流れる風が、僕の髪を靡かせた。

まるで、僕を生けるものとして扱うように。
てると
随分と、無愛想なことを言うのですね
まひと
……お前に言われたくは無い
てると
………
まひと
ちなみに、クッキーは美味しかったよ。大分甘かったけれど。貰い物か?
てると
はい。そうまさんの貰い物を、僕も頂きました。ゆきむらさんにも分けましたが
まひと
………そうか
てると
………
てると
おやすみなさい、マスター
まひと
ああ、おやすみ
てると
………
てると
(ただの、いれもの……)
「愛されてんね」
ばぁうさんの言葉が頭の中で反復する
てると
(「愛」なんて……)


愛なんて


独占欲や嫉妬等のどす黒い感情を

詩的表現しただけの

入れ物に、不要なものじゃないのだろうか
てると
………


夜風の音が



薄暗い部屋の、空気を響かせた

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