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第1話

第1話:アイ
996
2024/02/09 11:10 更新
むかしむかし、あるところに。
5人の少年がいました。
性格はバラバラでも、5人はとっても仲良しでした。
そして1人、その5人の他にもう1人。
他とは違う男の子がいました。
無表情で無口。怒りもしないし笑いもしない。

他の人たちはその子のことを「不気味」と言います。
ですが5人の少年たちは違いました。
花を添え、絵本を読み聞かせ、時にはくすぐり、時には一緒に川に飛び込んだ。
彼らは、1人の男の子に、「感情」を教えようとしたのです。
そしてその男の子は、
まひと
てると、
てると
……マスター。
手に広げていた絵本を閉じる。
表紙には6人の少年が載っていた。
まひと
…それ、好きだよな
てると
………
てると
好き、なのでしょうか。……よく、読んではいますが。
マスターからの、1番初めの贈り物なので。
そう綴れば、マスターは少しばかり目元を緩める
まひと
僕はもう寝るけど、お前はどうする?
てると
…御一緒します。
ドアから顔を出したマスターに声を掛け、席を立った
御一緒、と言っても、彼のベッドの脇にある木製の椅子に座って目を瞑るだけ。
マスターは、「睡眠は人間に最も必要な行為なんだ」と冗談か本気か分からない表情で豪語したことがある。
てると
……マスター。
まひと
……どうした
布団の中に潜り込むマスター。呼べば藤のような色の瞳が僕を覗き込んだ。
てると
マスターは、機械をつくるのがお得意なんですよね。
まひと
……ああ、
てると
……マスターの体質を、制御できるような装置、というのは、お造りできないのでしょうか
まひと
………
マスターは顎に手をあてる
まひと
考えてはみた、が……体質の仕組みが分からない以上、造るのは無理だろうな
てると
そう、ですか
まひと
……まあ、お前には関係ないことだよ
そう言うと彼は目を閉じる
まひと
おやすみ
つられて僕も視界を黒に染める
丸い月明かりだけが、瞼の裏側にこびりついていた
てると
はい、おやすみなさい
てると
買い物の為街に出ますが、なにか必要なものはありますか?
彼の部屋のドアを3回ノックして問う
このドアの向こうには、何が広がっているのか、僕はよく知らない。
彼が言うには「面白味は無い」らしいが、よくここに籠るのは何故なのだろうか。
まひと
……いや、なにもない。
てると
わかりました
まひと
気をつけて行っておいで
てると
………
てると
はい。
手提げを持って玄関のドアを開けた
まるで誰にも見られないよう隠されているように木々に囲まれたマスターの家。
山を下れば街に出る。
そうま
あ、てると!
てると
……そうまさん
山を下ったすぐそこ。街の誰かと話していた金髪で長身の男が僕に手を振った
そうま
そうそう、このクッキー。焼きすぎたっつって貰ったんだよ
お前もいるか?と大きな紙袋を渡される
てると
………
覗き込むと詰め込まれた沢山のクッキー。
てると
マスターは、余りこうゆうものは食べませんが……
そうま
お前が食べればいいじゃん
首を傾げるそうまさんにつられて僕も首を傾げる
てると
……僕は、機械なので
美味しいなどと、感じることはありませんが。
曇りのない緋色の瞳を覗き込むように眺める
そうま
でも、食べれるんだよな
てると
……はい。一応。
そうま
じゃあ、やるよ
てると
……ありがとう、ございます。
半ば押付けられるように渡された紙袋が音を立てる
そうまさんはまた誰かに呼ばれて行ってしまった。

振られた手をまた返して足を進める
果物と野菜を提げて帰路を歩く
ふと、ひとつの店の前で立ち止まった
扉を押し、鈴の音が聞こえる
てると
……ごめんください
ゆきむら。
あれ、てるとじゃん
てると
ゆきむらさん
仕立て屋に入ると、出迎えてくれたのは、僕の服も仕立ててくれたゆきむらさんだった
ゆきむら。
なになに、どしたん
てると
……これを
そうまさんに貰った紙袋を差し出す
ゆきむら。
クッキーじゃん
てると
そうまさんに頂いて…
マスターはあまり食べないと思うのでゆきむらさんに差し上げようかと
ゆきむら。
……へえ、
ゆきむら。
じゃ、一緒に食おうぜ。帰る時間決まってるか?
てると
いえ、暗くなる前に帰ってこいとだけ。
ゆきむら。
んじゃティータイムだな。午後まで予約ないし。裏来いよ
てると
………
「STAFF」と書かれた札が提げられる扉を押すゆきむらさんに着いていく
ゆきむら。
おら、ばぁう。客だ、どけ。
ばぁう
うぎゃっ!ちょ、椅子蹴ることねえじゃん!
ばぁう
てかここ従業員の部屋だろ!俺が自由できなくてどうすんだよ!
てると
…………
ゆきむら。
ほらてると、座んな
てると
はい、ありがとうございます
引いてくれた椅子に座り紙袋を机に置く
ばぁう
てるとぉ?
てると
……はい
ゆきむら。
てると、こいつの相手なんかしなくていいからな
ばぁう
はっ?!おい俺を隠すなおい俺にも喋らせろって!
ぎりぎりと赤髪の人の頭を抑えたゆきむらさんは器用にクッキーを咥えた
てると
……この方は
ゆきむら。
……まあ、一応従業員。最近入ってきたんだよ。礼儀を知らんガキだ。
ばぁう
酷い言われようだ!!
ゆきむら。
まず目上の人に敬語を使ってからだな
てると
…………
ばぁう
なあなあ、お前どこ住んでんの?
ゆきむら。
あ、ちょ、お前っ
てると
山を少し登ったところの家ですが…
ばぁう
へえ、知らねえな。親は?
てると
親……
ゆきむら。
こんのバカッ!
ばぁう
いっっっで!
ゆきむら。
お前はもっと気遣いってもんを…
てると
みなさんのような親は、いません
ばぁう
へ…?
ゆきむら。
てると、
てると
ですが、僕をつくってくださった人はいます。
てると
つくり、育ててくださった方を親と呼ぶのなら、僕に親はいるということなのでしょうか
空のように広く青い後ろ姿を思い浮かべる
ゆきむら。
………
ゆきむら。
たしかに。兄弟ってよりも、親子って感じだよな。まひととてるとは
てると
………
ばぁう
いたいいたいいたいいたい。絞まってる絞まってるってゆきむらっ
ゆきむら。
絞めてんだ
赤髪の人の首を抱えるゆきむらさん
ごめんな、ばぁうが。と謝った彼に、いえ。と返す
てると
ばぁうさん、ですか
ばぁう
そうそう!俺ばぁう!この間18歳になった!よろしくなてると!
差し出された手を握る
てると
てるとです。
マスターによって造られた機械人形です。14歳です。よろしくお願いします。
ばぁう
へえ、機械人形ってんだな!
握った手をぶんぶんと上下に振るばぁうさん
彼の頭にゆきむらさんが手刀を入れた
ゆきむら。
こいつを造ったのがまひとっていう……ゆきむらと同い歳の奴。
ゆきむら。
どんぐらいになるっけ、お前来てから
てると
もうすぐ1年になります。
ゆきむら。
へえ、じゃあ今度お祝いでもするかあ
ゆきむらさんが僕の頭をわしゃわしゃと撫ぜる
ばぁう
すげえな、そのまひとって奴。こんな立派なの造っちゃうなんて
ゆきむら。
……まあ、機械修理とかの方を仕事にしてるからな
機械いじり得意なんだよ、とクッキーをまた口にほおり投げる
ばぁう
ゆきむらはそいつと仲良いの?
ゆきむら。
仲…?良くは、ねえな……あいつと知り合ったのとか20になってからだし
てると
マスターはゆきむらさんのことを大分信頼してらっしゃるようです
ゆきむら。
はは、ありがたいね
「街のことはあいつに聞け」と言われたことを言うと、ゆきむらさんはそうか、と言った後にそう笑った
ばぁう
ええ?こんな厳つい奴があ?
ゆきむら。
………
ばぁう
なんでもありませェんッ!
ゆきむら。
なんだよばぁう〜。敬語使えんじゃ〜ん
ばぁう
あ、あはは……
ばぁう
ほらゆきむら!お茶!てるちゃんにお茶出さないとね!
ゆきむら。
そーゆーのは下っ端が……いや、お前茶なんて沸かせねえもんな
ばぁう
はいはい行ってらっしゃい〜
席を立つゆきむらさんを見送ると、ばぁうさんが顔を近づけてきた
てると
………
ばぁう
てるとのマスター、あんまり街に出ないの?
てると
はい。あまり、人と関わりたくないと言うような人なので
ばぁう
へえ、あんたはお世話係みたいな感じ?
てると
そう、なると思います。
ばぁうさんはふぅん、と言うと紙袋の中からクッキーを1枚取り出した
ばぁう
このクッキー、てるとが作ったの?
てると
いえ、そうまさんが貰ったものを、僕も頂きました。
ばぁう
へえ、あの人か
てると
ご存知ですか
ばぁう
有名人だからな、ここらでは。
俺でも知ってる。とクッキーを1口唅むと、甘ぇ、と口をもごもごさせた
てると
………
ゆきむら。
はい、ルイボスティー。
紙袋に手を伸ばした刹那、ゆきむらさんの声が掛かった
てると
ありがとうございます
ばぁう
なんだよちょっと小洒落てんじゃん!
ゆきむら。
うるせえよ
夕焼けが街を照らす
僕は帰路をばぁうさんと歩いていた
てると
お店、離れて大丈夫でしたか
「俺送ってくよ!」と勢いよく宣言し、僕を引っ張るように店を出たのが5分前
ばぁう
大丈夫大丈夫。あと予約1組だったし、俺足でまといだし
自信満々にそう言うばぁうさん
ばぁう
ちょっと残したクッキー。てるとのマスターにあげるの?
てると
はい。あまり甘いものは好まないと思いますが…一応お届けしようかと
ばぁう
ふぅん。てか、門限あるんだな、てるとんち。あんた機械だけど
てると
……いつも、暗くなる前に帰れ、とだけ言われています。
ばぁうさんはまた、ふぅん、とだけ言う

ばぁう
……愛されてんな
てると
そうでしょうか


ばぁうさんと僕の歩幅が重なる。



2つ並んだ影が、寂しげに揺れた

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