あなたの下の名前に私の体が透けたと言われ、それがロスサントスに関係あると理解した時。
私の胸を締め付けるこの想いの名を、なんと呼ぶのだろうか。
──ああ思い出した、これが『 』。
その名はこの世界では言わない。私は元々、根から黒に染った身だ。
たとえ世界が違おうと、彼女を想おうと、それは全て実らない。黒と白が交わることはない。
だが私が消える前に、この世界ではまだ血に染まらずにいるこの手で、お前を抱きしめさせてくれ。
──私が帰るまで、必ずあなたの下の名前の隣を離れないと誓おう。
彼女が抱きしめる力を強くする。まるで離れないと言っているかのように。
──この温かみがある限り。
私は最後までこの世界を見守ろう。
朝起きて、ハッとしてカーテンを開ける。
ガラスの向こうにはダーマーさんがいて、風で揺れる景色を眺めていた。
ガラス扉を開ければ、風と一緒に煙草の香りが吹き込んできた。この匂いにもすっかり慣れてしまった。
前にも言った通り、私は喫煙しないし煙草の煙も毛嫌いしていたはずなのだが、ダーマーさんの煙草の香りは不思議と不快ではない。
眠たい目を擦りながらベランダに出た。
眠気を覚ますのにちょうどいい風の冷たさだった。
グッと背をのばし、欠伸をして玄関に向かう。
玄関にあるゴミ袋を外の収納スペースまで歩き、そこへ置いていく。
へにゃりと笑う私に、ベランダから出てきたダーマーさんが軽く握られた拳をぽかりと頭のてっぺんに落とされた。
朝食を食べながら今日も欠勤の連絡をした。
隣にいるダーマーさんの様子を見れば自責の雰囲気はあるものの、そんなに休んでいいのかと、少し呆れられている気がする。
あ、そうだ。
トーストを齧るダーマーさんに聞いてみる。
そう答えた。
ダーマーさんは見切りをつけているのか。
そっか、私も気持ち切り替えないとな。
ダーマーさんの言った通りそろそろあっちに戻るのは時間の問題だ。外に出て人目のあるところで透明になってしまえば怪奇現象として騒がれてしまうか。
じゃあ、今日はお家でのんびりする日にしよう。
昨日や一昨日にかけてずっと外出が続いていたから。
とりあえず、ベットにいそいそと乗り上げ、枕や布団で居心地のいい空間を作りながらテレビのスイッチを入れた。
動画サイトに接続して、私が考え抜いた感動系の映画のタイトルを検索する。
我が家にはソファーがないので、ダーマーさんにちょいちょいと手で誘いベットの上に招き入れた。
何故かため息をついて渋々という感じで乗り上げてきたが、気のせいにしよう。
タブレットを操作し再生ボタンを押せば、ようやく映画が始まった。
やっぱり何度観ても面白い映画だ。
話の大筋は知っているものの、先の展開が楽しみでしょうがない。
途中でそっとベットから降りて飲みのもを用意しに台所へ。
映画館ならポップコーンを食べてコーラやメロンソーダが良いのだけれど、生憎、流石にどちらも用意していない。何を飲もうか悩んで、結局コーヒーになってしまった。ダーマーさんの分も用意しておく。
コーヒーを持ってテレビの前に戻れば、ダーマーさんはじっと静かに画面を見つめていた。
囁けば小さくありがとう、返ってきた。
私ももう一度ベットの上で落ち着く。
映画はちょうどサビをすぎた場面だった。
追手に追われるヒロインの手を掴み逃げた先で、マフィアボスの主人公がヒロインに危険がまわらないよう、自身との距離を置き手放すシーンだ。
系統は感動系なので、ここのシーンを初見で見た時は涙が出た。号泣まではいかないが、涙脆い私には十分感動できる場面だった。
その後もアクションシーンも度々でながら、進歩し続ける主人公とヒロインを心の中で応援した。
覗いた表情も悪い印象ではなく、どこか満足気のような気もする。
本当は色んな映画を観て欲しいところだけれど、流石にお腹が空いた。
休憩なしで二時間ほどの映画を見ていたから、結構いい時間なのだ。
満場一致で、私たちは昼食を食べることにした。
唐揚げや、焼きおにぎりなどをお腹いっぱい食べたあと、また映画を観た。今度はダーマーさんから言ってくれて、昼食を食べる時には予定は決まっていたらしい。
ミステリー系の映画を見終わって、最後はハッピーエンドだから後味がいい。これも久しぶりに観たけど、続編が作られているだけあってシンプルに面白かった。
聞いてみたが、返事がないので隣を見た。
──嗚呼、また透けてる。
ベットの背にもたれて座っていたダーマーさんが、少し俯いた角度で目を閉じていた。
その体がこの前と同じように透けていた。
二度目だから前回ほど驚きはしなかった。けれど、まったく動揺しなかったわけじゃない。とりあえず隣で見守りつつ、眠った横顔を眺める。
透明度が強くなったり、弱くなったりしていた。ダーマーさんのいるところだけバグが起きているみたい。
前回より長く、一分ほどだった。しばらくして、ダーマーさんゆっくり瞼を開く。
ダーマーさんは、頭を抑えて眠そうに言った。
ダーマーさんはぼんやりと独り言のように言葉を呟いた。
その名前に聞き覚えはないが、ダーマーさんの知り合いなのだろうか。
ギャーギャー騒いでいた気もするがな。そう言い終えて、コーヒーを手に取りひと口すすった。
いよいよ、本当にあとちょっとで帰ってしまいそうだ。
でも、とりあえず今はまだ、目の前にいてくれるているから。
私は毛布の中で拳をぎゅっと握った。
炒飯を平らげて、酎ハイを飲み干して。久しぶりのアルコールにふわふわしながらも寝支度を整えた。
あの後ダーマーさんがもう少しで帰れるってことで、最後に復帰のお祝いをした。コンビニで酎ハイを買って、家にあるもので混ぜご飯やらをして食卓に並べた。
さあ寝るぞと部屋の電気を消して布団に潜り込んだ。
もちろん最初は普通に寝ようと思ったのだが、昼間に透けたダーマーさんを思い出すとつい名前を呼んでしまった。
既に寝る体制に入っていたダーマーさんに、うじうじしながらも聞いてみた。
少し無言の時間が過ぎて。
同時にため息も聞こえた気がするが、構わず毛布をベットから引っ張り床で一緒に温まった。
でもちょっと照れくさくて、布団の中で縮こまる。
ダーマーさんは私が隣にいてもいつもと変わらず、平然と横になっていた。
頼りになって、時には助けてくれて、時には一緒に笑いあって、微笑みあって。
見知らぬ世界から来た貴方との共同生活は、思っていたより居心地のいいものだった。
──ここで会えたのが、ダーマーさんで本当によかった。
なにか話そうとしたが、眠気でうまく口が回らなくなってきた。
頭の中で意味の無い同じ言葉を繰り返す。意識が遠くなりそうなところで、ふと、暖かい何かが私の頭を撫でた。
私の頭を優しく撫でる。
この声だ…やっぱり安心して、落ち着く声…
手が離れていく。
引き留めたかったがもう既に意識は暗くなっていて、私はそのまま夢に落ちていった。
帰宅したら白髪の男に遭遇しました【van】
Episode.6【5日目】完
こんにちは、さささ塔です。
今回は特に語ることもなく、まあ内容もクライマックスというところですね。
今日中に上げ切るか、明日で完結しますのでこのまま最後までよろしくお願いいたします。
ではまた次回お会いしましょう。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!