平日の図書館は静かなものだった。
夕方になれば学生や子供もいるのだろうが、今は地元のおじ様方がちらほらいるだけだ。
入口ですれ違ったおじいさんが、ダーマーさんの姿を驚いたように二度見していた。
確かに日本人の平均身長より数十センチ高く、顔付きも強面の外国人の男性など滅多に会わないだろう。
ここの図書館を使うのは初めてだ。
とはいえ図書館の作りというのはどこもそれほど変わりないようで、小さい頃に行ったことのある図書館も似たような配置だったな、と懐かしくなった。
一階が雑誌や子供向け書籍、二階は専門分野に特化していて、閲覧用のテーブルが並んでいるらしい。
周りの様子を見伺いながらダーマーさんに話しかける。
小声でそう促す。
一階にかけて二階も人の姿が少なく、私たちを含めて4人しかいなかった。
とはいえ、読書の邪魔をするにはいかないので、なるべく小声で会話する。
地理コーナーを探して、比較的分かりやすそうな本を数冊手に取ってみる。
抱えた本を渡せば、表紙を眺めた後に受け取ってくれた。
そういえばダーマーさんの国は地球のどこら辺にあったのだろう。ダーマーさんに問いかければ確かここだ、と指さす方に目を向けた。
指先には海が広がっており、やはり別の世界のことなのだと不思議な気持ちになった。
ダーマーさんが住んでいた国がない世界か…
やっぱり腑に落ちないというか、すっと頭に入ってこない。
少しして、ちらりと窺った横顔は真剣な面持ちで本を読んでいた。
小さく訪ねてみる。
ダーマーさんは本から顔を上げて、少し考えてから言った。
と呟いた。
軍、か。自衛隊とかでもいいのだろうか。分かりやすい本があればいいが。
声を掛けた時には既に、ダーマーさんの視線は本に戻っていた。
なるべく分かりやすそうな自衛隊の本と、世界の軍艦の載った本を確保しておいた。
ダーマーさんの元に戻り、進捗を聞こうとしたその時だった。
──透けていた。
俯いて本を読むダーマーさんの背中越しに、向こうの景色が透けていたのだ。
駆け寄り、肩に手を伸ばす。透けていたはずの肩は、私が手を置いた瞬間にはもう元に戻っていた。
手の平が筋肉質な感触を伝える。
振り返ったダーマーさんは、何事も無い様子で私を見つめた。
ダーマーさんの疑問には答えられず、ただ「分かりません」とだけしか言えなかった。
ダーマーさんは静かに唸りながら考え込んだ。
そう言うと、ダーマーさんの表情が曇った。
心配になりもう一度、体に触れたい衝動に駆られたが寸前でやめた。
このまま居なくなってしまうのかと思った。
もちろん、元の世界に帰れるとするならば、それが大前提ではある。
ただ、あまりにも唐突すぎたから。
ダーマーさんは席を立ち、別のコーナーへ行ってしまった。
──この間に消えたらどうしよう。
心のどこかで孤独感を感じ、追いかけようとしたが足がくすんだ。
私が歩みをゆるめているうちに、ダーマーさんとの距離が離れていく。
行かないで──手を伸ばそうとした。
両手に積み重なる本の重みが、手によく伝わった。
図書館の扉をくぐり、来た道を戻る。
何冊か借りた本が入った袋を引き受けてくれたダーマーさんは消えずに隣にいて、家に着く頃には私の気持ちは少しづつ元通りになっていた。
肩にぶら下げていた小型のバッグから、白い箱を取りだした。
ダーマーさんの口元が微笑んだ。
その笑む表情を見て、静かに安堵する。
その言葉に、少なからずとも信頼を覚えた。
頼ってくれている。それは誰でも務まるわけではない。
彼が一人で抱え込まないように、傍に居れる私が力にならなければ。
箱から取りだしたプリンを持ち上げる。
頭を使うとよく甘いものが欲しくなるとは、よくいったものだ。
一口食べた瞬間からその甘味に、口に運ぶ手が止まらなくなった。
すぐに無くなったプリンは、ダーマーさんも同じのようで空になったプリンは一緒に片付けた。
一息ついたところで、ゆっくりとダーマーさんが口を開いた。
パッとしない言葉に、同じ言葉を繰り返した。
ダーマーさんは一呼吸おき、私を見つめて言った。
あの鋭い瞳が俯き、細くなる。
そうか、ダーマーさんは前の世界では生きる気持ちさえなくなって…
考えた瞬間、あの出来事を思い出した。
そっか、ダーマーさんもう少しで帰れるんだ。
そう納得しながらも、なぜかすぐには喜べなかった。
今にでも良かったですねって言ってあげたいのに、私の気持ちが心が素直になれない。
だんだんとダーマーさんを映す視界が滲み、涙が頬をつたる。気づかないうちに涙が溜まっていたようだ。
その瞬間ダーマーさんの手が私を引き寄せ、体が胸元に納まった。
低音の声が耳に響く。
不思議とダーマーさんの声は心を落ち着かせる。
──ダーマーさんが帰るまで、私はダーマーさんの隣にいる。
ダーマーさんのためにも、私のためにも。
抱きしめる彼の体を、私も強く返した。
──この温もりがある限り…
私はダーマーさんの世話をする。
帰宅したら白髪の男に遭遇しました【van】
Episode.5【4日目】
こんばんは、さささ塔です。
完結まで半分を切りました。この回でだいぶ全貌が見えてきたと思います。
今回続きを出すのが遅くなりましたが、終盤に差しかかりましたので続々と出てくると思います。
もしかすると、今日、明日で完結するかもしれません。
最後に、誤字脱字ありましたらすみません。度々読み直して修正しております。
では次回お会いしましょう。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!