第35話

ふわりと届く、風に乗って。
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2025/06/06 11:00 更新
与謝野
こら、どうして逃げたんだい!
    完璧なルートで逃げたはずだったのに、私はなぜか袋小路で見つかった。雨が振っていたので、雨宿りと休息も兼ねていたらこのザマだ。
あなた
なんでわかって…!
江戸川
事情は分からないが、彼処は安全だ。戻って話を聞かせてくれないか
あなた
…はい
    連れ戻されて2日前のように清潔にしてもらい、応接室に通された。広いし、眼の前にいる乱歩という人が神妙な面持ちで此方を見てくるため落ち着く暇がない。
江戸川
キミ、ポートマフィアでしょ。そして、10年前のヨコハマ屋敷殺人事件の被害者の子供。ね?風和あなたさん。
あなた
っえ、なんで……
江戸川
ボクの異能力!でも、キミの口から教えて欲しい。今までのこと説明できる?大丈夫。ポートマフィアに送り返そうなんて思ってない。
   この人の言葉を、どれだけ信用していいかわからない。…でも、助けてくれた。お風呂に入れてくれた。ここで何も言わないのは、この人たちの思いを無下にするような行為だろうか。だとするなら私は、きちんの応えなければいけない。
江戸川
あの事件の犯人は未だ見つかっていないんだ。不可解なことが多い。それも含めて教えて。
   きっと前のままだったら、私はまた逃げるだろう。それじゃあいけない。自分を変えるのはいつだって環境じゃなく自分だ。…あの生き方も、私が望んだからやったことだ。
 私は質問されたことを丁寧に、ひとつひとつ言葉を紡ぐように、この人たちにうまく伝わるように話した。
あなた
私は、両親が殺された日は…自分の部屋で遊んでいたので、運良く助かりました。……その後、首領……いや、森鴎外という人に拾われて、半年前までポートマフィアにいました。
   一瞬、蝶の金細工をつけた女の人が大きく目を見開いた…ような気がした。
あなた
えっと……それで、私の両親を殺した犯人が殺されて…ポートマフィアにいる意味が分からなくなってしまって……う、裏切って…きました。
江戸川
それで逃げてるんだね?
あなた
裏切り者は殺されます。裏切り者を見つけたら、顎を砕いて胸を撃つんです。……それが規則なので。でも私は生きて、人を助ける仕事がしたいんです。だから死ぬ訳にはいかなくて……街中の防犯カメラの死角を縫って生きていました。
与謝野
人を助ける仕事?
   嗚呼、嗤われてしまうだろうか。この人たちは、私の言葉をどれだけ信じてくれるだろうか。他人に信用されるというのは、こんなにも恐ろしい。
あなた
私の異能力は人助けとかできる能力では無いし、人を幸せにできるものじゃありません。経歴も……今まで何人もの人を殺してきました。何年かかってもいいから、人を助ける仕事がしたい。
あなた
これから、異能特務課の種田さんという方を訪ねます。……だからもう行かないと。
   ぎゅっと、膝小僧の上で両手を握って、親に怒られる子供のよう。なんて惨めで、恥ずかしい。
江戸川
種田長官とはまだ取り合っていないんだろう?
あなた
え?はい…
江戸川
じゃあここで働こう。キミ今何歳?































   それからなぜかトントン拍子に話が進んで、入社試験なるものを行い、現在晴れて武装探偵社の社員をしている。外の世界にまだ恐怖心があるのと、バレたら危ないことから事務仕事が主だが、時々任務に混ぜてもらっている。長いものに巻かれるとはまさにこういうことであろうか。

 入社試験なるものは任務同行だった。社長の秘書から、乱歩さんの探偵助手(尤も、ほぼ何もしていない)、与謝野さんの治療に同行、などで、詳細はよく知らないが根気を買われたらしい。

7月中旬のことであった。
与謝野
どうだい?あなた、慣れてきたかい?
   2年後、普通の任務も増えてきて、だいぶ武装探偵社の雰囲気にも慣れてきたように思う。
あなた
はい!まだ慣れないこともあるけど、慣れてきたと思います
与謝野
今日は新人が面接に来るらしい。妾と買い物したあと面接場所に行こうか。
   なんと、新人二人目である。先日国木田独歩という背の高い男が入ってきて、「これからよろしくね」と会話したばかりであるのに。

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