振り向くとイエナが駆け寄ってくる。
社長、なんて呼ばれなれないから、一瞬反応が遅れてしまった。
そう言ってイエナの作業デスクに向かう。
手渡されたヘッドフォンをつけて、再生ボタンを押すと、イエナが横に立った。
いや、かなりカッコ良くなっている。
確かにコンセプトを伝えはしたが、想像を超えての出来上がりで、久しぶりに鳥肌が立った。
率直に伝えるとイエナは少し目を丸くしたが、すぐにいつもの表情に戻した。
今までの仕事も、さすが大手で揉まれてきたこともあって、十分なクオリティだったが、
まだ入りしたてで遠慮している、というか探ってるところもあったんだろうな。
連れないなぁ。
こんないいミックスをするんだったら、きっと音楽にも情熱があるはずなのに。
イエナは入社してから、クールなそぶりではあるが、懸命に仕事をこなして、かなり高いクオリティのものを作り上げてくれているから、不満があるわけではないのだが、
人間関係、特に俺との関係は一線を引いているような気がする。
元々俺がやった個人事務所に、気が合った仲間を呼んで作った会社だから、
社長なんて呼ばれるとやりづらい。
クリエイターの寄せ集めだから、個人事業主の集まりみたいなものだし、社長だから敬えというつもりはない。
他の社員も俺を社長、なんて呼ばず、ビニヒョンだったり、下手すると年の近いものはチャンビナなどと呼び捨てしている。
少しでも距離を縮めたくて率直な気持ちを伝えたはずなのに、
より距離が広がった気がする。
つれなく背中を向けたイエナにこれ以上お願いするのもしつこいような気がして、
背を向けると、後ろでニヤニヤしてるジソンと目が合った。
クライアントの事務所に来訪した帰り道、チャニとジソナと少し遅い昼ごはんをとったレストランで、ため息をつくと、
ニヤニヤしたジソナに揶揄われた。
聞けばジソナだけでなく、チャニまで悩んだ時の相談相手としてイエナに頼っているらしい。
突然のジソンの暴露にチャニが顔を真っ赤にする。
この弟は、高校の卒業式に、俺も良く知ってる幼馴染に告白されて、そこから順調に交際を進めているらしい。
ジソナのあまりにも率直な意見に、チャニが思わず吹き出す。
そんな風に思われてたのか。
横暴だっ、パワハラッ!と騒いでるジソナは一旦無視して、俺は食事を進めた。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。