第40話

置かれた距離
1,585
2024/10/14 21:22 更新
イエナ
イエナ
社長!
ビニ
ビニ
あ、はいっ。
振り向くとイエナが駆け寄ってくる。
社長、なんて呼ばれなれないから、一瞬反応が遅れてしまった。
イエナ
イエナ
今、頼まれてた曲、ミックス終わって送ったんですけれど。
少し確認してもらいたい箇所がありまして。
ビニ
ビニ
わかりました。
行きますね。
そう言ってイエナの作業デスクに向かう。
手渡されたヘッドフォンをつけて、再生ボタンを押すと、イエナが横に立った。
イエナ
イエナ
ここ、2分36秒のところ。
言われてたコンセプトから、外れてないか確認していただきたくて。
ビニ
ビニ
…。
いや、かなりカッコ良くなっている。
確かにコンセプトを伝えはしたが、想像を超えての出来上がりで、久しぶりに鳥肌が立った。
ビニ
ビニ
いや、これ、…めっちゃカッコいいです!
率直に伝えるとイエナは少し目を丸くしたが、すぐにいつもの表情に戻した。
今までの仕事も、さすが大手で揉まれてきたこともあって、十分なクオリティだったが、
まだ入りしたてで遠慮している、というか探ってるところもあったんだろうな。
イエナ
イエナ
…じゃあ、良かったです。
念の為、当初のコンセプトに沿ったものも作ったんで、もしクライアントが気に入らなかったら、こっちを使ってください。
ビニ
ビニ
ありがとう!
…でもそれは勿体無いな。
今度クライアントとミーティングで話しますよね?
まずこっち提示したら、絶対気に入ると思うんだけど。
イエナ
イエナ
そう、…ですかね?
ビニ
ビニ
もし都合合えば、会議出ませんか?
実際コミュニケーションとった方が、クライアントのニーズがわかると思うし!
イエナ
イエナ
社長がそうおっしゃるなら。
連れないなぁ。
こんないいミックスをするんだったら、きっと音楽にも情熱があるはずなのに。
イエナは入社してから、クールなそぶりではあるが、懸命に仕事をこなして、かなり高いクオリティのものを作り上げてくれているから、不満があるわけではないのだが、
人間関係、特に俺との関係は一線を引いているような気がする。
ビニ
ビニ
あの…、できれば、その、“社長”って呼び方やめませんか…?
なんかくすぐったくて。
元々俺がやった個人事務所に、気が合った仲間を呼んで作った会社だから、
社長なんて呼ばれるとやりづらい。
クリエイターの寄せ集めだから、個人事業主の集まりみたいなものだし、社長だから敬えというつもりはない。

他の社員も俺を社長、なんて呼ばず、ビニヒョンだったり、下手すると年の近いものはチャンビナなどと呼び捨てしている。
イエナ
イエナ
社長は社長なんで。
会議についてはわかりました。
時間、あとで教えてください。
ビニ
ビニ
あっ、ちょっ…。
少しでも距離を縮めたくて率直な気持ちを伝えたはずなのに、
より距離が広がった気がする。
つれなく背中を向けたイエナにこれ以上お願いするのもしつこいような気がして、
背を向けると、後ろでニヤニヤしてるジソンと目が合った。
ビニ
ビニ
はぁ…。
ジソン
ジソン
ビニヒョン、振られちゃったねー。
クライアントの事務所に来訪した帰り道、チャニとジソナと少し遅い昼ごはんをとったレストランで、ため息をつくと、
ニヤニヤしたジソナに揶揄われた。
ビニ
ビニ
うるせぇな。
…にしてもイエナ、俺にはつれなくない?!
チャニ
チャニ
確かに、俺たちとは随分打ち解けたよね。
ジソン
ジソン
うん、結構曲にもアドバイスくれるし、優しいよね。
聞けばジソナだけでなく、チャニまで悩んだ時の相談相手としてイエナに頼っているらしい。
ジソン
ジソン
チャニなんて、曲だけじゃなくて、彼女とのデートスポットとか、プレゼントまで相談してるもん。
チャニ
チャニ
ちょっ、ジソナ、バラさないでよ!
突然のジソンの暴露にチャニが顔を真っ赤にする。
この弟は、高校の卒業式に、俺も良く知ってる幼馴染に告白されて、そこから順調に交際を進めているらしい。
ビニ
ビニ
そんなプライベートな相談までしてるのに、なんで俺には打ち解けてくれないのかなぁ…。
ジソン
ジソン
うーん、下心が見えてるとか?
チャニ
チャニ
ぶっ…。
ジソナのあまりにも率直な意見に、チャニが思わず吹き出す。
そんな風に思われてたのか。
ジソン
ジソン
悲しいなー、
尊敬するビニヒョンが、社長の権力を使って部下を手篭めにしようとしてるなんて。
ビニ
ビニ
…お前、それ以上好き勝手なこと言うと、社長権限で経費否認するからな。
横暴だっ、パワハラッ!と騒いでるジソナは一旦無視して、俺は食事を進めた。

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