彼女が宣言通り、トレイニーになってから一年半ほどの短期間でデビューしたことは、もちろん俺も知っていた。
デビューにあたってのオーディション番組ではその様が放映されてたし、
チャニやリクスは1話も逃さず追ってたらしい。
ジナはその美貌と、粗削りだが長身と長い手脚を活かしたパフォーマンスで視聴者を圧倒した。
対してパフォーマンス外の姿ではぼーっとした天然のキャラクターが受けて、
グループの中でも人気メンバーに、オーディション時から位置していたようだ。
らしい、とかようだ、という言葉が多いのは、俺自身が直接見ていたわけではなく、
チャニやリクスから人伝に聞いてただけだから。
気にならなかったというか、それを聞いてもアイツなら当然だと思ったから。
アイツのビジュアルとか、スペックじゃなくて、一緒に過ごした数ヶ月の時みたいに、
練習の鬼で、人一倍努力してるだろう負けず嫌いのアイツがデビューできないわけがないと思ってた。
リクスなんかは、オーディション結果放映の最終話の時なんて、テレビの前で号泣しながら観てたらしいとチャニヒョンから聞いた。
渡された資料をめくると、さらに美に磨きがかかったジナの写真がデカデカと印刷されている。
デビューからの経歴も華々しい。
数々の新人賞の受賞もさながら、ジナ個人でも一流メゾンのアンバサダーになったり、まさに一流芸能人だ。
そんなジナが、打ち合わせをしたいとのことで、俺個人に会えないかというメールが、
事務所通じた個人メールに入っていて、俺はまた頭を抱えた。
どうやら海外ファッションショーからの帰国直後だったら、半日時間が取れるとのことで、曲に関する打ち合わせをしたいと本人が言ってると。
きっと、ジナ特有の強引さとわがままに、事務所も手を焼いてると思うと、ジナと駆け抜けた高校3年生のあの時が思い出されて、クスッと笑ってしまった。
自宅兼事務所?作業所の扉を開けると、ジナが立っていた。
もちろん今話題の女性アイドル様を一人、事務所も兼てるとはいえ、自宅に招き入れるわけにはいかない。
チャニとリクスにも同席してくれ、とお願いしたが、まだ着かないようだ。
リクスが久しぶりにジナに会えるって喜んでる、とは聞いているが、予想外にジナが早く到着してしまった。
久しぶりでお互い人見知りもあって気まずい。
ジナは何だか知らないが、ハンドバッグの他、大きなトートバッグも肩にかけてる。
きっと車で来ただろうに置いてくればいいのに、と思いつつ、荷物を置くよう促した。
と言ってハンドバッグから取り出したのがGPS付き防犯ブザーとスタンガン。
何かされたらブザー鳴らして、スタンガンで相手の動きを封じろ、ということらしい。
まぁ、事務所やマネージャーからすると何の繋がりもない俺だからしょうがないけど、そんな信用ないのね、と脱力した。
ヘッドフォンを渡すと、目をキラキラさせて、再生ボタンを押す。
ここにいること自体が違和感あるくらい、綺麗なくせに、そういうとこは変わってない。
にしても、写真でもだが、実物はマジやばい。
元々恵まれたスタイルだったが、デビューしてさらに引き締まって、フェイスライン、ウエストライン、全てが美しい。
学校ではステージ以外はすっぴんで、それはそれであどけなさを残していたのが可愛かったが、今はナチュラルメイクで、切れ長の目と黒く長い睫毛が美を際立たせる。
ぽってりとした唇は薄くグロスが塗られて、艶めかしい。
思わず見惚れてたら不意にヘッドフォンを外して振り向かれたから、心臓が跳ねる。
いや、チャニとリクス遅くね?!
まじ俺もたないんだけど…。
事務所から送られてきた音源を聴いて、歌唱力についてかなりの上達を遂げてたジナを想像して、思った以上に作曲活動が捗ってしまった。
アイツだったらこういう感じも好きじゃねーかな、といつかお気に入りのアーティストを語り合った日を思い出して、寝る間も惜しんで作業に没頭した。
うっとりしてヘッドフォンを長い指で撫でるジナにぞくっとして、思わず目を逸らす。
3年経ってもヘタレな俺は、逃げるように作業部屋を後にした。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。