以前LAにいた時に買ったワンピースは膝より丈が少し上で、背中が大胆に空いてる。
さすがに街中をそれで歩くのはいたたまれなくて、
カーディガンを羽織っているが、普段出さない脚がスースーする。
待ち合わせの前に寄った美容室では、私の普段とは違う格好に気付いた美容師に、
この後外で食事をすることを伝えると、サービスと言われ、毛先を巻いてもらった。
普段と違うこんな格好で、気合い入れすぎと引かれないだろうか。
落ち着かない気持ちで、指定された場所で待ってると、目の前を車が停まり、助手席の窓が開く。
待ち合わせの時間よりだいぶ早い。
ビナに促されるまま助手席に乗り込むと、
ビナはブラックスーツにブルーグレーのシャツを合わせて、黒タイを結んでいる。
黒縁眼鏡までして、お互い様ではあるが、事務所で会う姿とは違って、なんだか落ち着かない。
ガサツに見えて結構マメなビニ。
それは仕事にもよく表れていて、細部にもこだわったり、丁寧な仕上げをする。
そんな彼だから、女性に対してもよく気付くな、と思って横を見ると、
少し彼の耳が色付いてるのがわかる。
言葉の意味が分からなくて、首を傾げてると、ビナが少し笑って『いいよ、わからなくて』と言う。
案内された先はさほど遠くないこじんまりしたレストランで、ビナは駐車場に着くと、手慣れた様子で助手席の扉を開けてくれる。
そんなエスコートされることに慣れなくて、何だかむず痒い。
もたもたとカーディガンを脱いで、店員さんに預ける。
ビナはそんな姿を少し目を見開いた後、私に片手を差し出した。
自然に取った手が少し熱くて、その体温に安心した。
運転席に乗り込んだ彼が嬉しそうに笑う。
鉄板焼きのお店で、デートということも忘れて、たくさん食べてしまった。
少し余裕があったはずのワンピースのウエスト周りがきつい。
振り向くと、ビナが真剣な面持ちで、一輪の花を差し出す。
戸惑いながらそれを受け取る。
赤い薔薇。
花束だと気が引けそうな真っ赤なそれを、一輪だけ渡される。
まさか結婚というワードが出ると思わず、色気のない声を出す。
ビナはそんな私に慌てて、言葉を続ける。
私が叶えられるようなものだろうか、と考えてると、ビナが私の左手を取る。
ビナが私の左手の薬指の根元をなぞる。
その顔は真剣だが、真っ赤だ。
ビナに顔周りにかかっていた私の長い髪を丁寧にはらう。
ビナの視線は私を捉えて離さないのに、私に触れるときは、拒絶されるのを怖がるように、
恐る恐る触るのがおかしい。
正直そんなにビナが慎重になるのがわからない。
スキンシップやベタベタされるのは苦手だけど、不安そうな顔で見つめられると、
もっと近付いてもいいよ、と言いたくなる。
ここは勢いで抱きついてくるところなんじゃ?と思ったが、
ビナははぁっ、と大きなため息をついて、運転席のハンドルに突っ伏す。
そう言うと、ビナはびっくりしたように目を見開いて、私の顎に手を添わせる。
ゆっくり近付いてくる彼の顔に、私も目を閉じると、唇がそっと触れる感触がした。
お互いいい歳なのに、何してるんだろう。
くすぐったくなるくらいもどかしい関係だけど、優しい彼に心があたたかくなった。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。