興味なさげな視線とほくそ笑む気配を横目に、私は立ち上がる。
市河の耳は、小笠原の目よりも厄介な代物だ。
嘘をついていると心音でバレてしまえば、時行はどうなるだろうか。
心音は嘘をつけない。
どうにか音で気を引かねばならない。
私は一人の男に声をかけた。
考え出した案の中で導き出した最適解は、手合わせで場を盛り上げることだった。
男を取り巻く給仕や使いの者も、やってしまえと血が滾るのが分かる。
踏み込みは重く速い。
甲冑の軋む音とともに振り下ろされる太刀は、年季の入った腕前を物語っていた。
だがその刃を紙一重で躱すと、返す刀で男の懐へと飛び込む。
軽やかな足運び。
細身の体ゆえの俊敏さが、重い太刀を振るう男を翻弄する。
火花が散り、刃が何度も交錯するうちに、男の呼吸が荒くなり、動きに鈍りが見え始めた。
鋭い一閃が男の太刀を弾き飛ばし、彼の首筋にぴたりと刃を添えた。
動けぬままの男の頬を一筋の汗が流れる。
静まり返った空気を先に破ったのは、囲む武士たちのざわめきだった。
やがてざわめきの中から、ひときわ大きな声が響く。
驚愕と畏敬が入り交じった眼差しが私に注がれる。
奥の部屋から赤沢が駆けて来るのが見えた。
どうやら邪魔は成功したようだ。
市河が怒鳴る。
小笠原の顔が少しだけ青くなり、悔しげに顔を歪める。
そのまままた、廊下の奥へと消えていった。
___殺気を感じた。
それは一瞬のことで、頭で考えている暇など無かった。
時行を庇い、馬から引き摺り下ろす。
襲ってきたのは、薙刀を構えた赤沢だった。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!