遠くで鐘のなる音が聞こえた……青白い満月が闇夜のきりを照らす。本来なら見晴らしがよく、ヨコハマのきれいな夜景が見られるはずの高さにいるにもかかわらず、その美しい輝きを隠すように霧に覆われていて、そんなヨコハマを太宰さんと並んで見下ろしていた……
コツコツと足音が聞こえ、私たちを呼ぶ澁澤龍彦の声後聞こえて振り返れば、そんなものを見ていて退屈では?と聞いてくる。
何を考えているのか分からない無表情の太宰さんが部屋の中央にぽつりと置かれている丸いテーブルと4つある椅子に歩みより座る。この空間に来る前に私の“ アルバムの写真 ”は澁澤龍彦の手により燃やされ手の中に収まっているのはファイルのみ。
丸いテーブルにはリンゴが積まれた果物籠が置かれ、リンゴの上には髑髏が飾られている。そのリンゴの3つにはナイフが刺さっている。さっきまでは1つだったというのに……太宰さんを追うようにそのテーブルに歩み寄る。
現に、私が知り得る人物に数名が候補に出ている。それが今なお退屈そうにリンゴを眺める太宰さんとか、まだここには現れていない生き別れの兄だというフョードルさんとか、虎に変化する敦くんとか、お菓子をあげれば可愛らしく照れ隠しするもそれもまた可愛い龍之介くんだとか、夜叉白雪を実は本人が思っているほど嫌いだとは思えない少し正直になれない可愛らしい鏡花ちゃんとか、私がポートマフィアから消える前日に取っておきのお酒を誰かに取られ嘆き悲しんでいるであろう中也だとか……
なんて、考えていればリンゴを眺めたままの太宰さんが口を開いた。
リンゴから視線を外し澁澤龍彦を見る太宰さんは見つめたまま何も言わず……澁澤龍彦は何かを読み取ろうとしていたが……何も読めないのか困惑している。
それを見て太宰さんはフッと笑う。
協力しているのか……それとも裏切るつもりなのか……ってね?と呟いた太宰さんは再びリンゴに視線を向けた……
何を思ったのか太宰さんはリンゴの上に乗った髑髏を手に取った。髑髏の頬には斜めに引っかき傷ができていてそれを見て小さく微笑んだ。
ナイフが刺さったリンゴが一つ増え、コツコツと足音が聞こえて来たと思ったら、僕から云わせれば、おふたり共真意は筒抜けですよ。と言いながらこちらに歩いてきたフョードルさん。太宰さんの近くに止まったかと思えば太宰さんのてから髑髏をとる。
そう言った2人に警戒しているのが馬鹿らしくなり私はため息をついて椅子に座る。
いやいや君が、と言い合う2人にため息を着くことしか出来ず、先が読めていたとしても2人とも少しは警戒という言葉を覚えて欲しいなんてずっと心の中で思った。
背筋が凍るような笑みを浮かべフョードルは窓の外を見る。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。