第9話

現実
14
2026/01/03 09:00 更新
 目の前で、女性が何か唱えている。その姿を俺たちは這いつくばって見ていて、みんな女性に手を伸ばしていた。「やめろ」「待て」「連れていくな」みな、口々にそう言った。女性はこちらを振り返り、悲しそうな視線でこちらを見ている。女性が、何か言った。声は聞こえなかったが、あの口の形は────「神よ、お救い下さい」

「ッ 」

 なん、な、なんなんや、い、いま、今の、なん、なんや……
 起きて忘れていく夢の中で、1つ強烈に頭に残っているものがある。あの女性は、あの女は、シスターあなた……だった。
 夢の中の俺は、あいつを見ただけで心が愛で埋め尽くされて、その瞳が俺以外に向いているので嫉妬で狂いそうで、それで、こっちを見てくれた瞬間、その全てを許してしまう程の、心地良さが俺を包み込んだ。
 最初であった時とは、真逆の気持ち。もはや別人なのかと思いもするが、あの目は……十字架模様の目は、あいつ以外ありえない。あんな、気持ち悪い目……

コンコン

「お昼ご飯を持ってきたのですが……」
「え、あ、うん、あ、いや、ちょ、ちょっと待って」

 ドアの向こうにいるのは、声的にシスターだろう。流石に冷や汗でびっしょりなこの状況を、女のシスターには見せられない。サッと寝巻きから着替えて、扉を開ける。そこにはちょうど、シスターの大きな乳房が──

「あれ〜?トントンこんなんで照れるなんてもしかしてDTか〜???」
「何言うとんねんアホ。子供にDTもクソもあるかいな」

 シスターの横にいるゾムに、そう言われるとつい否定の言葉を口にしてしまう。こんなんじゃ有耶無耶にしただけでその通りやって言ってるようなもんやん……
 扉前でいつも通りの困った顔をするシスターを部屋に招き入れ、元から置いてあった机に持っているご飯を置いてもらう。
 あのグルッペンの言葉の後、俺たちは本当に孤児院で暮らすことになり、ある程度歳をとっている者たちには個人部屋が与えられた。みんな混乱しながらも、何故かシスターの言葉には従い、文句も言わず部屋分けされた場所に向かい、まだ幼い者たちは目覚めたあの寝室に押し込まれ、疲れていたのか、またすぐ俺たちは眠ってしまったのだ。
 あんな変な夢を見たのは、みんなが傍におうへんかったからなんやろか……それに、現実で見るとより思う。やはり、あの夢に出てきた女性は──

「どうかされましたか?」

 この、シスターあなたに違いない。気色悪い十字架模様の目も、困ったまゆも、目が合ったら安心するのも、全て同じだ。あの夢は、なんだったのだろうか。今はもう、このシスターが出てきた事しか覚えていない。夢とは本当に儚く、すぐ消えてしまう。

「んや、なんもない」
「そうですか」

プリ小説オーディオドラマ