第3話

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2026/05/16 11:23 更新
ショッピが基地へ来てから、数日が経った。

だが、彼は未だに誰にも懐いていなかった。

唯一例外なのが、トントンだけ。

それも「近くにいることを許している」程度で、完全に警戒を解いたわけではない。

「……ほんまにトントン以外には近寄らんな」

ソファに座ったロボロが、小声で呟く。

視線の先では、黒猫姿のショッピが棚の上に丸くなっていた。

だが他の幹部が近づけば、すぐ耳を伏せて距離を取る。

「昨日なんかゾム見ただけで天井近くまで飛び上がっとったで」

「俺なんもしてへんやろ!?」

「顔ちゃう?」

「はぁ!?」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を見て、ショッピがびくっと震える。

その瞬間。

「お前ら、声量」

トントンの低い声が飛んだ。

「「すんません……」」

途端に静かになる幹部達。

ショッピはその様子を見つめ、小さく目を瞬かせた。

自分のために、怒ってくれた。

その事実が不思議だった。

「……にゃ」

「ん?」

トントンが顔を上げる。

ショッピは少しだけ迷ってから、棚から飛び降りた。

そして。

ぺたり、とトントンの足元へ座る。

一同が固まった。

「「「えっ」」」

「うぉ……」

ショッピ自身も驚いていた。

無意識だった。

でも、トントンの近くは少し安心する。

そう感じてしまったのだ。

「……ふはっ、なんやお前」

トントンが苦笑しながらしゃがみ込む。

ショッピはびくっとするが、逃げなかった。

そっと差し出された手。

ショッピは警戒しながら匂いを嗅ぐ。

大丈夫。

この手は痛くない。

そう分かっていても、身体は強張る。

過去の記憶が離れない。

――『化け物のくせに』

――『気持ち悪ぃ』

――『その姿に戻ってみろよ』

乱暴に引っ張られた腕。

閉じ込められた暗い部屋。

無理やり人間の姿に戻された恐怖。

フラッシュバックした瞬間、ショッピの身体が震えた。

「っ……!」

呼吸が乱れる。

視界が歪む。

「ショッピ?」

トントンの声が遠い。

怖い怖い怖い怖い。

触られる。

また。

「……っ、シャアァッ!!」

突然、ショッピが激しく威嚇した。

そのまま勢いよく後退し、棚の裏へ隠れる。

「!?」

場の空気が凍った。

「お、おい大丈夫か……?」

シャオロンが心配そうに覗き込もうとして――。

「待て」

トントンが止める。

低く、慎重な声だった。

「今近づいたら余計怖がる」

ショッピは隅で震えていた。

呼吸が上手くできない。

耳を塞ぎたい。

消えてしまいたい。

すると、少ししてから。

コト、と何かが近くへ置かれた。

ショッピが恐る恐る見ると、小皿に乗った温かいミルクだった。

離れた場所で、トントンが静かに座っている。

「……無理せんでええ」

「……」

「怖いなら、怖いままでええよ」

責める声じゃない。

呆れた声でもない。

ただ優しかった。

ショッピの瞳が揺れる。

「俺らは待つから」

その一言が、胸に刺さる。

待ってくれる人なんて、今までいなかった。

できない自分は切り捨てられてきた。

なのに、この人達は急かさない。

ショッピは少しずつ呼吸を整える。

震える足で、そっとミルクへ近づいた。

「……飲んだ」

チーノが小さく呟く。

誰も騒がない。

褒めちぎらない。

ただ静かに見守ってくれる。

その空気が、ショッピにはありがたかった。

ミルクを飲み終えると、ショッピはちらりとトントンを見る。

目が合う。

トントンは少し笑った。

「ええ子」

その瞬間。

ショッピの胸がきゅっと締め付けられた。

まただ。

その言葉が、どうしようもなく嬉しい。

嬉しくなってしまう。

信じたくなってしまう。

でも。

――もし裏切られたら?

その恐怖が消えない。

ショッピは逃げるように顔を背け、再び小さく丸くなった。

けれど今回は。

ほんの少しだけ、身体の震えが小さくなっていた。

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