ショッピが人間姿を見られてから数日。
基地の空気は、少しだけ変わっていた。
もちろん良い意味で、だ。
「ショッピくーん、おはよー」
「……ぉはよう、ございます」
食堂の隅。
眠そうに目を擦りながら現れたショッピに、幹部達の視線が一斉に集まる。
その瞬間。
「「「かわい……」」」
「聞こえてます」
ショッピがじとっと睨む。
だがその声に以前ほどの怯えはない。
相変わらず距離はあるし、急に触れられるのは苦手だ。
けれど、少なくとも“同じ空間にいること”は少しずつ受け入れ始めていた。
「ほらショッピ、座れ」
トントンが隣の席を軽く引く。
ショッピは一瞬迷ってから、そろそろと座った。
以前なら絶対にできなかった行動だ。
そのだけで幹部達は内心大騒ぎだった。
(座った……)
(自分から……)
(進歩がすごい……)
だが騒げば逃げられるので全員必死に我慢している。
「……なんでそんな静かなんですか」
「いや別に?」
「絶対なんか考えてるやろ」
ショッピの鋭いツッコミに、何人かが吹き出した。
そんなやり取りを見て、トントンがふっと笑う。
穏やかな朝だった。
――その時までは。
「……っ」
突然、ショッピの肩が跳ねた。
カシャン、と食器が鳴る。
「ショッピ?」
トントンが声を掛ける。
ショッピは俯いたまま固まっていた。
その視線の先。
食堂のテレビに、ニュース映像が流れていた。
『特殊能力者の危険性について――』
その単語を見た瞬間、ショッピの顔色が真っ白になる。
息が浅い。
指先が震える。
「……ぁ、」
フラッシュバック。
拘束具。
冷たい部屋。
笑い声。
『化け物』
『役立たず』
『逃げんな』
「っ、ぅ……」
椅子が倒れる。
ショッピはそのまま食堂を飛び出した。
「ショッピ!!」
トントンがすぐ追いかける。
廊下の奥。
資料室の前で、ショッピは蹲っていた。
「はっ……は、ぁ……」
呼吸が乱れている。
過呼吸だった。
「……ショッピ、大丈夫や」
トントンは距離を取りながら、ゆっくり声を掛ける。
急に近づけば逆効果だと知っているから。
「誰もお前傷つけへん」
「……む、り……っ」
ショッピは震える声で呟く。
「また……嫌われる……」
「嫌わへん」
即答だった。
迷いもなく、トントンは言い切る。
「でも……!」
「ショッピ」
優しく名前を呼ばれる。
その声に、ショッピの呼吸が少しだけ止まった。
「ここには、お前を化け物扱いする奴なんかおらん」
静かな声。
押し付けるわけでもなく。
ただ真っ直ぐだった。
後ろから、他の幹部達もゆっくり来る。
誰も無理に近づかない。
「ニュース消しといたから安心し」
シャオロンが気まずそうに頭を掻く。
「あんなもん流れてたん気づかんかった……ごめんな」
「……っ」
謝られた。
ショッピのために。
その事実に胸が苦しくなる。
「ショッピさん」
エーミールが穏やかに微笑む。
「怖かったですね」
その一言で、ショッピの瞳が揺れた。
怖かった。
本当はずっと。
でも、怖いと言ったら迷惑だと思っていた。
嫌われると思っていた。
「……こわ、かった……」
ぽろり、と涙が落ちる。
ショッピ自身が一番驚いた。
泣いた。
人前で。
すると次の瞬間。
「うわぁぁぁ泣いたぁぁぁ!!」
「シャオロン声でかい!!」
「お前ら静かにせぇ!!」
大騒ぎになる幹部達。
ショッピはびくっとした後――。
「……ふ、」
小さく吹き出した。
「あっ」
ロボロが固まる。
ショッピは慌てて口を押さえた。
笑った。
今、自分。
「……笑ったやん」
ゾムが目を丸くする。
「めっちゃ貴重やぞ今の」
「録画したかった」
「やめぇや怖いわ」
わちゃわちゃ騒ぐ幹部達。
その光景を見ていると、不思議と呼吸が落ち着いていく。
怖いのに。
まだ不安なのに。
それでも。
ここは、温かかった。
「……ショッピ」
トントンがそっと声を掛ける。
「おかえり」
その言葉に、ショッピは目を見開いた。
帰る場所。
そんなもの、自分には無いと思っていた。
でも。
胸の奥がじんわり熱くなる。
ショッピは泣きそうな顔のまま、小さく呟いた。
「……ただいま」












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。