第5話

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2026/05/19 05:47 更新
ショッピが人間姿を見られてから数日。

基地の空気は、少しだけ変わっていた。

もちろん良い意味で、だ。

「ショッピくーん、おはよー」

「……ぉはよう、ございます」

食堂の隅。

眠そうに目を擦りながら現れたショッピに、幹部達の視線が一斉に集まる。

その瞬間。

「「「かわい……」」」

「聞こえてます」

ショッピがじとっと睨む。

だがその声に以前ほどの怯えはない。

相変わらず距離はあるし、急に触れられるのは苦手だ。

けれど、少なくとも“同じ空間にいること”は少しずつ受け入れ始めていた。

「ほらショッピ、座れ」

トントンが隣の席を軽く引く。

ショッピは一瞬迷ってから、そろそろと座った。

以前なら絶対にできなかった行動だ。

そのだけで幹部達は内心大騒ぎだった。

(座った……)

(自分から……)

(進歩がすごい……)

だが騒げば逃げられるので全員必死に我慢している。

「……なんでそんな静かなんですか」

「いや別に?」

「絶対なんか考えてるやろ」

ショッピの鋭いツッコミに、何人かが吹き出した。

そんなやり取りを見て、トントンがふっと笑う。

穏やかな朝だった。

――その時までは。

「……っ」

突然、ショッピの肩が跳ねた。

カシャン、と食器が鳴る。

「ショッピ?」

トントンが声を掛ける。

ショッピは俯いたまま固まっていた。

その視線の先。

食堂のテレビに、ニュース映像が流れていた。

『特殊能力者の危険性について――』

その単語を見た瞬間、ショッピの顔色が真っ白になる。

息が浅い。

指先が震える。

「……ぁ、」

フラッシュバック。

拘束具。

冷たい部屋。

笑い声。

『化け物』

『役立たず』

『逃げんな』

「っ、ぅ……」

椅子が倒れる。

ショッピはそのまま食堂を飛び出した。

「ショッピ!!」

トントンがすぐ追いかける。

廊下の奥。

資料室の前で、ショッピは蹲っていた。

「はっ……は、ぁ……」

呼吸が乱れている。

過呼吸だった。

「……ショッピ、大丈夫や」

トントンは距離を取りながら、ゆっくり声を掛ける。

急に近づけば逆効果だと知っているから。

「誰もお前傷つけへん」

「……む、り……っ」

ショッピは震える声で呟く。

「また……嫌われる……」

「嫌わへん」

即答だった。

迷いもなく、トントンは言い切る。

「でも……!」

「ショッピ」

優しく名前を呼ばれる。

その声に、ショッピの呼吸が少しだけ止まった。

「ここには、お前を化け物扱いする奴なんかおらん」

静かな声。

押し付けるわけでもなく。

ただ真っ直ぐだった。

後ろから、他の幹部達もゆっくり来る。

誰も無理に近づかない。

「ニュース消しといたから安心し」

シャオロンが気まずそうに頭を掻く。

「あんなもん流れてたん気づかんかった……ごめんな」

「……っ」

謝られた。

ショッピのために。

その事実に胸が苦しくなる。

「ショッピさん」

エーミールが穏やかに微笑む。

「怖かったですね」

その一言で、ショッピの瞳が揺れた。

怖かった。

本当はずっと。

でも、怖いと言ったら迷惑だと思っていた。

嫌われると思っていた。

「……こわ、かった……」

ぽろり、と涙が落ちる。

ショッピ自身が一番驚いた。

泣いた。

人前で。

すると次の瞬間。

「うわぁぁぁ泣いたぁぁぁ!!」

「シャオロン声でかい!!」

「お前ら静かにせぇ!!」

大騒ぎになる幹部達。

ショッピはびくっとした後――。

「……ふ、」

小さく吹き出した。

「あっ」

ロボロが固まる。

ショッピは慌てて口を押さえた。

笑った。

今、自分。

「……笑ったやん」

ゾムが目を丸くする。

「めっちゃ貴重やぞ今の」

「録画したかった」

「やめぇや怖いわ」

わちゃわちゃ騒ぐ幹部達。

その光景を見ていると、不思議と呼吸が落ち着いていく。

怖いのに。

まだ不安なのに。

それでも。

ここは、温かかった。

「……ショッピ」

トントンがそっと声を掛ける。

「おかえり」

その言葉に、ショッピは目を見開いた。

帰る場所。

そんなもの、自分には無いと思っていた。

でも。

胸の奥がじんわり熱くなる。

ショッピは泣きそうな顔のまま、小さく呟いた。

「……ただいま」

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