第6話

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2026/05/21 01:25 更新
基地に「ただいま」と言ってから。

ショッピは少しずつ、幹部達と過ごす時間が増えていた。

食堂で一緒にご飯を食べたり。

会議室の隅で丸くなっていたり。

任務帰りの幹部達を出迎えたり。

まだ完全に心を開いたわけではない。

急に大きな音がすると震えるし、知らない兵士を見れば隠れる。

それでも、確実に変わっていた。

「ショッピくーん」

「……なんですか」

ソファで本を読んでいたショッピが顔を上げる。

そこには、にこにこ笑顔の鬱先生。

嫌な予感しかしない。

「猫姿なってみぃひん?」

「嫌です」

即答だった。

「なんでや!!」

「絶対撫で回されるからです」

「バレとる」

「当たり前やろ」

呆れたように言うショッピに、周囲が笑う。

そんな穏やかな空気。

けれど、その日の夜。

ショッピは一人、ベッドの上で目を開けていた。

眠れない。

静かな夜は嫌いだ。

静かすぎると、昔の記憶が蘇る。

暗い部屋。

鍵の音。

誰かの笑い声。

逃げ場のない恐怖。

「……っ」

呼吸が浅くなる。

大丈夫。

ここは安全。

そう分かっていても、身体が勝手に怯えてしまう。

その時。

――ガタン。

廊下で物音がした。

ショッピの身体が硬直する。

心臓が跳ねる。

誰か来る。

怖い。

怖い怖い怖い。

気づけば、ショッピは無意識に猫姿へ変わっていた。

黒猫になったまま、震える足で部屋を飛び出す。

向かった先は――。

コンコン。

深夜の静かな廊下に、小さな音が響く。

数秒後。

「……ん?」

扉が開いた。

眠そうな顔のトントンが現れる。

そして足元を見て、目を丸くした。

「ショッピ?」

黒猫姿のショッピは、何も言わず震えていた。

いや、猫だから喋れないのだが。

明らかに様子がおかしい。

トントンはすぐ察した。

「……入るか?」

ショッピは少し迷ってから、小さく「にゃ」と鳴いた。

トントンは何も聞かず、そっと部屋へ入れてくれる。

暖かな空気。

薄暗い照明。

安心する匂い。

ショッピはようやく少しだけ息を吐いた。

「怖い夢でも見たんか?」

トントンがベッドに腰掛けながら聞く。

ショッピは答えられない代わりに、小さく丸くなった。

その姿を見て、トントンは眉を下げる。

「……無理に話さんでええ」

優しい声だった。

トントンは少し離れた位置に座り、本を開く。

“無理に構わない”。

それがショッピにはありがたかった。

静かな時間が流れる。

ページをめくる音だけが響く。

不思議と落ち着いた。

ショッピはそろそろと顔を上げる。

トントンは何も言わない。

ただそこにいてくれる。

その存在が温かかった。

気づけば、ショッピはふらふらと立ち上がっていた。

そして。

ぴょん、とトントンの隣へ飛び乗る。

「……!」

トントンが目を瞬かせる。

ショッピ自身も驚いていた。

だが逃げなかった。

むしろ、そっとトントンの腕に額を押し付ける。

甘えるように。

助けを求めるように。

「……しんどかったな」

トントンが静かに呟く。

優しく背中を撫でる手。

痛くない。

怖くない。

ショッピの喉が、くるる、と小さく鳴った。

「ふは、猫やなぁ」

トントンが少し笑う。

その声が心地よくて、ショッピは目を細めた。

「今日はここおるか?」

ショッピは小さく鳴く。

肯定だった。

「ん。好きにし」

トントンはベッドの端を空ける。

ショッピはしばらく迷ってから、その隣へ丸くなった。

人の近くで眠るなんて、昔なら考えられなかった。

でも今は。

怖さより、安心が勝っていた。

トントンが電気を消す。

暗闇。

けれど、もう怖くなかった。

「……おやすみ、ショッピ」

優しい声。

ショッピは目を閉じる。

そして小さく、小さく鳴いた。

「……にゃ」

――おやすみ。

その夜。

ショッピは久しぶりに、悪夢を見ずに眠れた。

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