第9話

過去
25
2026/05/21 11:44 更新
山姥切国広視点

出陣先 2072年11月24日 東京都練馬区
『今見てきた人たちを、殺して』
確かに、主はそう言った。
山姥切国広
…は?
山姥切長義
どう、いう……
あなた
『だからそのまんまの意味。まんばちゃん達が見てきた人たち、全員殺して?』
山姥切国広
主、それが何を意味しているのか、分かっているのか?
あなた
『当然。歴史改変でしょ。』
山姥切長義
分かっているのなら、何故そんな……!
あなた
『幸せな歴史に変えたいから』
あなた
『これのどこが悪いのかな?』
山姥切国広
…あるがままの歴史を護るのが、俺たちの仕事だ。
審神者と、刀剣男士の、宿命だ。
山姥切国広
それを、侵してはならない
あなた
『……』
山姥切長義
……
山姥切国広
……
雨が降ってきた。 
冷たい雫が、俺や本科に容赦なく降り注ぐ。
受け入れたくない現実のように。

主は、『幸せな歴史に変えたい』と言った。
それが歴史改変に値するものでなかったなら、俺はどうしていたのだろう?

多分、加担していたに違いない。



許されることならば。
俺だって、前世あの時を変えたい。









幸せだった、あの時の本丸に戻したいよ。
主の気持ちは、良くわかってる。
良く解っているからこそ、俺が止めなければいけないんだ。
あなた
『あなたの一人称ね、審神者になるのが夢だったんだ。

…知ってるかな?謀反を起こした審神者の話。
第一次世界大戦を止めようと、その中心核にあたる人物を殺害しようとした本丸の話。

それ聞いてさ、すっごい複雑な気持ちになったんだ。
だってさ、戦争止めたら、色んな人が幸せになれるんだよ?あの人は、歴史をいい方向に向けたかっただけなんだよ?
なのにさ、なんでそれがダメな事なのかな?』
その話は、俺も聞いたことがある。
 確か、ことの発端はサラエボ事件にあった。
第一次世界大戦が始まった、原因だ。
確かに、この事件がなければ人々は幸せになれたのだろう。

1914年6月28日、オーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ=フェルディナント大公とその妻ソフィーは、当時オーストリアに併合されていたボスニアの州都サラエボで軍隊の閲兵を行うこととなり、オープンカーに並んで会堂に到着した。
大公は妻のもてなしがないがしろであることに腹を立て、すぐ町から出ていこうと決心したが、運転手が向きを変えるのを間違い、車を止めてバックした。
その時、ガブリロ=プリンツィプ(セルビア人)は、自分の前で自動車が止まったのに驚いた。彼は自動車の踏板にのり、一発で大公を殺し、二発目で前方座席の護衛を狙ったが、それて大公夫人に命中した。夫人もほとんど即死であった。
 プリンツィプ(20歳)は、ボスニアがハプスブルク家に隷属させられていることに憤慨して、仲間の6人の高校生と大公を撃とうと決心し、秘密結社(「統一か死か」通称黒手組。首領のアピスは大公を殺すよりセルビア政府を困らせること考えていた)から粗末な武器を受け取っていた。彼の仲間が行進中の大公を狙撃しようとしたがいずれも失敗し、偶然彼の前で車が止まり、彼が実行者となった。


その審神者は、第一次世界大戦の発端となったサラエボ事件について調査し、このような事情を知った。
だから、先回りしてフランツ=フェルディナント及びソフィー=フェルディナント、ガブリロ=プリンツィプを己の手で殺害しようとした。
また、彼の刀剣男士達も黒手組を殲滅しようとしていたらしい。




時の政府はこの事態を重く見て、審神者を処刑、刀剣男士達も刀解処分とした。
あなた
『処分、だってよ。
人々を幸せにしようとするのがダメなんだ?

……あなたの一人称ね、その審神者が可哀想で羨ましかったよ。あなたの一人称その人に憧れててね、いつかこの腐った歴史を変えてやろうって思ったんだよ。』
沈黙の空白を、雨の音が埋める。
普通の雨が、嫌に大きく騒がしく聞こえた。
あなた
『…時の政府が動き出したんだよ』
山姥切国広
…は?
あなた
『あなたの一人称の過去を知って、時の政府が動き出した。
…虐待やいじめを受けたことがある人は、歴史を破壊する可能性があるから、審神者になることが可能なのは少ないって、聞いたことあるでしょ?』
山姥切長義
なるほどね。
君のその穴はそれの痕跡だったんだ。
不意に本科が自信ある声で話した。
余裕そうな笑顔を浮かべている。

…なにか、算段があるのか?
あなた
『…気づいてたの』
山姥切長義
まあね。
山姥切長義
……主、残念ながら今回はその命に従うこと、不可だ。
あなた
『……なんで』
山姥切長義
本来俺たちがやるべき事ではない、し……
そら、追手が来たよ。
山姥切国広
……はぁ!?
見ると、時の政府の特殊部隊がバラバラと迫ってきている。

……え、いやなぜだ?
あなた
『追手?そんな、まだ気づかれてないはず……』
山姥切長義
政府が動き出したのを知ることができた……盗聴器でも仕掛けていたんじゃないか?
それが、バレたとしたら…マークされているのは当然だよ。
あなた
『確かに、盗聴器は破壊された…
でもまだ、誰も殺してない!
お父さんもお母さんも、同級生も、

あなたの一人称の事も!』
山姥切長義
時間遡行軍の気配が察知できないこの時代に来たことが、異常なんだよ
あなた
『……くそっ』
山姥切国広
長義!撤退するぞ!
山姥切長義
言われなくても、ね!
懐中時計型時空転移装置に手をかける。
時は、2205年。場所は───俺たちの本丸。
あなた
『…ちょっと!帰るつもり?
まぁいいけど………えっ』
あなた
『なんで、もう───』
この時代で最後に聞いた言葉は、それだった。

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