山姥切国広視点
出陣先 2072年11月24日 東京都練馬区
『今見てきた人たちを、殺して』
確かに、主はそう言った。
雨が降ってきた。
冷たい雫が、俺や本科に容赦なく降り注ぐ。
受け入れたくない現実のように。
主は、『幸せな歴史に変えたい』と言った。
それが歴史改変に値するものでなかったなら、俺はどうしていたのだろう?
多分、加担していたに違いない。
許されることならば。
俺だって、前世を変えたい。
幸せだった、あの時の本丸に戻したいよ。
主の気持ちは、良くわかってる。
良く解っているからこそ、俺が止めなければいけないんだ。
その話は、俺も聞いたことがある。
確か、ことの発端はサラエボ事件にあった。
第一次世界大戦が始まった、原因だ。
確かに、この事件がなければ人々は幸せになれたのだろう。
1914年6月28日、オーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ=フェルディナント大公とその妻ソフィーは、当時オーストリアに併合されていたボスニアの州都サラエボで軍隊の閲兵を行うこととなり、オープンカーに並んで会堂に到着した。
大公は妻のもてなしがないがしろであることに腹を立て、すぐ町から出ていこうと決心したが、運転手が向きを変えるのを間違い、車を止めてバックした。
その時、ガブリロ=プリンツィプ(セルビア人)は、自分の前で自動車が止まったのに驚いた。彼は自動車の踏板にのり、一発で大公を殺し、二発目で前方座席の護衛を狙ったが、それて大公夫人に命中した。夫人もほとんど即死であった。
プリンツィプ(20歳)は、ボスニアがハプスブルク家に隷属させられていることに憤慨して、仲間の6人の高校生と大公を撃とうと決心し、秘密結社(「統一か死か」通称黒手組。首領のアピスは大公を殺すよりセルビア政府を困らせること考えていた)から粗末な武器を受け取っていた。彼の仲間が行進中の大公を狙撃しようとしたがいずれも失敗し、偶然彼の前で車が止まり、彼が実行者となった。
その審神者は、第一次世界大戦の発端となったサラエボ事件について調査し、このような事情を知った。
だから、先回りしてフランツ=フェルディナント及びソフィー=フェルディナント、ガブリロ=プリンツィプを己の手で殺害しようとした。
また、彼の刀剣男士達も黒手組を殲滅しようとしていたらしい。
時の政府はこの事態を重く見て、審神者を処刑、刀剣男士達も刀解処分とした。
沈黙の空白を、雨の音が埋める。
普通の雨が、嫌に大きく騒がしく聞こえた。
不意に本科が自信ある声で話した。
余裕そうな笑顔を浮かべている。
…なにか、算段があるのか?
見ると、時の政府の特殊部隊がバラバラと迫ってきている。
……え、いやなぜだ?
懐中時計型時空転移装置に手をかける。
時は、2205年。場所は───俺たちの本丸。
この時代で最後に聞いた言葉は、それだった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。