第3話

*お試しstory ②*
4,695
2023/07/18 12:34
すのあべを書こうとしたのに、どーしてこーなった?

『promise』【mmab】







fk.






うちの姫。
不器用で、おっちょこ。

『好きなものは?』

って聞かれると、少し考えて控えめに答える。

『勉強?』なんて。

メンバーは全員、固唾を飲んで待ってるのに。
いつか、いつかその唇から自分の名前が溢れ落ちる日が来るんじゃないかって………




「あべちゃ!今日こそ俺とご飯行くんだかんなっ!?」

「ふふふ。小さいのが何か言っているねぇ?

姫、今日はうちにおいで?
ゆり組と一緒に食べよう?何かお前の好物を作ろう、ね?」

「そーだぞ!お前っ、痩せすぎなんだわ!

今日は、りょーたのご飯食べて、俺と一緒に寝んの!いーな?」

「それならぁ、俺だってできんでー?

あべちゃんの食べたいもの、なーんでも作ったる!
三人が良かったらな?ラウだって呼んだんで!えーやろ?あべちゃん!」

「え?そんなの聞いてない。

あべちゃん、俺に勉強教えてくれるって言ったよ?
今週中に提出しなきゃいけないレポート、もうやっばいの!ご飯はぁ、うちのママの!どう?」




よくもまぁ、顔を合わせれば毎日のように、同じことの繰り返しができるよねー?

佐久間は何度『No』を貰ってもへこたれず、隙あらばと狙ってるんだけど。
姫からしたら、それこそ『いつでも行けるでしょ?』ってことみたいだし。

ゆり組に至っては、成功率80%を誇るから。今日も成功を疑ってないよね。

康二のは周りが誘うなら俺も!って乗っかってる感じだから。
『成功したら儲けもの!』って顔に書いてある。

ラウも実は成功率が高いけど、ちよっと今日は時間が遅いから帰らせようとするかなー?なんて思って見てたんだけと。

ラウには切り札があるんだな………




「もーうっ!めめ!助けてよっ!」




ラウがその名前を呼ぶと、姫の瞬きが多くなる。
今のところ姫争奪戦のポールポジションに居るのはこいつ。
めっちゃ忙しいが故に、こいつが誘うと大体頷いちゃう。

ほら、口角がきゅっと上がって。
微笑む5秒前の顔。

悔しいけど、可愛いから見ちゃう。
そうなの。この顔見たいから、みんな我先にと誘うんだよ。

だって、先にちゃんと誘わないと知らない間に居なくなっちゃうの。
なんて気紛れなお姫様。




「あべちゃん、こいつを助けるついでに………俺のことも構ってくれない?

今日はやっと、この後オフなの………ダメ?」




はい。堕ちたー………

全く、忙しい色男は得だなぁっ!おいっ!




「え?ひかる?」




「あべ、今日は俺とふっかに付き合え。

ちょっと相談があるんだよ」




珍しくひかるが前に出た。
え?聞いてないよ?なんのこと?

だけど、ひかるからアイコンタクト。
ははぁー?なんか注意しときたいことがあるのね?りょーかい。




「そうなんだー。ごめんね?あべちゃん」




「ん!ふっかとひかるが言うなら、そっち行くー。

みんな、誘ってくれたのにごめんね?」




残る面々は、口々に不満を漏らしながら。
けれど、姫の意思なら仕方ないと引き下がる。

まぁ、リーダー夫婦の申し出は、なかなかないからこそ強いってことよね。




「あいつ、ふらついてる。

できるだけ休ませてやらないと倒れんぞ。
俺、なんか作るから一緒に食ってやって?

俺だけだと食った気しねーって、いつも頬っぺた膨らますからな」




「ふふっ、分かってるよ。

それじゃなくても忙しくしてるのに、まーた隠れて資格取ってるの。

どーなってるのかね?あの小っさい頭の中身はさ?」




ひかると少し打合せしてると、"とことこ"と音立てて、上にひょろ長いのが走ってくるから。

思わず笑顔にされちゃうのは、何故かねぇ?




「ふっかぁ、ひかぅー!」




「んー?どした?あべちゃん」

「ほら、走ると転ぶから。ゆっくり来い?」




「だぁーいじょぶだってぇ………ひゃっ」




言わんこっちゃない、何もないのに躓いた。

お前、そういうとこよ?




「ほら!言わんこっちゃない、怪我してない?ん?」




「んぅ、なんか引っ掛かったぁ!」




足元を気にして見てるから、何だろ?って見てみると。

あー、こりゃあべちゃんは悪くないわ。

足元にはさっき、ふざけて走り回ってたさくこじの落とし物。




「後で叱っとくから。
それで、どした?ん?」




ついつい、姫の傍にいるとママか執事になっちゃう。

そんな俺に、嬉しそうに腕を絡めてくるから。ついつい髪なんて撫でちゃう。




「今日ね、りょーたに習ったご飯、作ってもい?」




「お?マジか?

ひかるが作るって言ってくれてたけど、あべちゃんがいいんなら、嬉しいよ?」

「舘さんの仕込みなら間違いないしな?」




「んふふ、じゃあお仕事終わったら一緒に行こ?

ひかぅ、連れてってくれるの?」




「おう。三人でふっかん家で飯食いながら話しよ」




頷き合う俺たちを、遠目に見てる残るメンバーたち。

中でも、なんとなく諦められないんだろうラウが、そろーりとこちらにやって来る。

はいはい。言いたいことは分かるけどね?
休ませてやりたいから連れて帰るの。
お前が居たら、勉強会になるだろ?
そしたら、責任感の塊なんだから休まないだろーが?

だけど。
末っ子はすっかり大人になってた。




「ふっかさん、めめだけ連れてって?

『最近一緒に居られないから、誘いたい』

って言ってたのに、なかなか言い出せないみたいだからー」




「ひかる、いい?」




「あべがいいんなら、どうぞ?」




それ、俺の責任重大ってこと?
仕方ない。言うだけ言ってみるか………




「あべちゃん、めめにも話があるんだけど、一緒でいいかな?

四人分は大変?」




「え?ううん?いいよー。変わらないから………

だけど、めめ。疲れてるんじゃない?
ラウと二人の方が休まるんじゃないの?」




気付いちゃった。

だから、ラウの方に確認の意味で視線を送ると。

『そーなの。やっかいなの』

と、口パク。

なるほど。お前らんとこもなんか入り組んでんのね?

オッケー。ここはママに任せなさい。




「めめー!」




音量を上げて、見るとはなしにこちらを気にしてた色男を呼ぶと。
顔を上げて、笑顔で手を振る。

うーん………こういうとこ、未々子供っぽくて可愛いんだよね。
だから、なんとかしてあげたくなる。

昔から、姫の相手は王子って決まってるしね?

あー、もしかしたらゆり組も。これ、狙ってた?

だって、二人ともにこにこっていうより、にやにやしてるし。




「めめも、この後予定がなかったら一緒においで?

内緒だけど、姫がご飯作るからさ?」




王子、いや。大型犬が優しい目をして姫を見つめるから。
姫の方もその視線に気付いて見つめ返して。

なんだかなぁ………俺らが手伝わなくても纏まってるんじゃないの?




「ラウは?」




「俺、残念だけど今日は諦めてレポート頑張るよー。

どうしても詰まったらあべちゃんに助けを求めるね?」




穏やかに微笑う姫が、ラウの髪を撫でようとして。届かなくて頬を撫でる。

あー、かわよ!何だそれ?





「ん。いいよー。メッセージでも、電話でもいいからね?」




ふわり、ふわり。
ふわふわり………
姫の周りに大輪の花が咲く。

あー、今日のはなんか見慣れない奴だなー?
白い曼珠沙華?みたいの。
うん。花嫁さんみたい。

『黒の王子様のことが大好きなお姫様は、自分の気持ちを伝えることすら諦めて。

白の王子様との幸せを祈ってる。

二人の気持ちを確かめる、そんな初歩的なことを忘れたままで』

お前が伝えれば、その後ろに咲いてる花はお前の"花嫁衣裳"を飾るだろうにね?




「ラウ、めめに言っといてくれる?」




「そうねぇ………それくらいは手伝っても罰、当たらないよね?」




天使の容貌に悪魔の微笑み。
うちの末っ子は、見た目通りの天使の癖に。笑い方だけは癖が強い。

ただし、頭脳明晰なのは姫が昔から育ててきたから。
二人きりの勉強会は伊達じゃない。

めめを連れてく末っ子を、寂しげに見てる姫。

お前は気付いてるの?
どっちのせいで、今寂しいのか………




「よし、じゃあ残りの仕事片付けよ?
あべちゃんはインタビューの方は終わったの?」




帰ったら、全部綺麗に纏めてあげるよ?
忙しい二人の、心の重荷を貰ってあげる。

パパとママがね?








────────────────────






うちのリビング。
元々一人住まいのこの部屋に、毎日のように居るひかると。

時々やってきては『帰りたくない』と愚図る姫。

殆んど来ることはないから、珍しげにキョロキョロしてるめめ。

三人三様の様子を、家主たる俺は眺めてるだけで。

"安心させて寝かし付けたい"ひかる。

"舘さんから習ったご飯を、美味しく作って食べさせたい"姫。

多分、"抱えてる気持ちを少し吐き出したい"めめ。

"全てが上手くいく秘策を持ってる"俺。

さて、動こうかね………




「じゃあ、あべちゃんはご飯をよろしくね?ヘルプは要る?」




「あー、ううん。だいじょぶ」




一先ず姫は、キッチンへと消えてった。

よーし。それでは始めましょーか?




「めめ、スケジュールキツかったから疲れてるよね?
ここ、座って?」




「あ、ありがとうございます………あっ」




うん。その位置からキッチン、よく見えるよね?
包丁を使う姫のこと、心配してるなー?

大丈夫だよ。姫、伊達に舘さんから習ってないよ?
俺、偶にだけど作って貰ってるもん。




「姫、一生懸命で可愛いよね?めめ?」




「………何処まで、バレてんすか?」




「くっくっく………俺らさ、"Snow Manのパパとママって言われてんだよなー。

知ってんだろ?
それから、あいつにとってはタメと同期。

何とかして助けてやりてーのは、当たり前ってこと………
あいつ、このまま放っとくと"めめラウ、幸せになってね?"とか言い出すからな?

てか、思ってんぞ?いいの?」




俳優業が板につきすぎためめは、こういう時素直になりきれない。
奥の方にある本心を引きずり出すのには苦労する。
表情なんて、能面みたいになっちゃうんだよね。

だけど………これだけは譲れないってこと?




「俺、みんなみたいに前に出て………"スキ"の気持ちを上手く表現できなくて。

親友のラウになら、素直っつーか素のまんまで居られて………

いつか………いつか、こんな風に表現できたら。そのときは伝えたいって思ってて………

その、ラウが手伝おうとしてくれたみたいなんですけど、それは絶対空回るから。

俺、覚悟決めたっす………『ご飯、美味しいね?また、作ってね』って伝えることから始めるっす」




あー、君が伝えようとしてる相手ね?

"超"の付く鈍感なんだよ?

もっと、直接的なので攻めないと全く気付かないって。保証するよ………




「『好きです。俺と、付き合って下さい』くらい言わないと絶対無理だから」




「あー、それでも未だ勘違いすっかもなー

『愛してます。できるだけ早く一緒に、暮らしたい。同棲、しよ?』くらい言え」




めめの、垂れてる目がしょぼん、ともっと垂れて。
唇が『マジかー』って動く。

俺たち、姫のことちゃんと幸せにして。しかも寝かせたいわけ。
のらりくらりしてる、暇なんかないのよ。

ほら、行け!わんこ!




「ほら、早く行っといで。

摘まみ食いとかして、可愛い顔見せて貰え?
そしたら、自然に言いたくなるって。

だって、あの子。Snow Manの姫よ?
ずーっと見てたろ?あの子のさ、かぁいーとこ!」




元々イケメン枠のわんこ。
ちゃんとすりゃ、ソッコー決まるの。

ギクシャクしながら行ったの、目で追ってると。

トン、トンって、ゆっくりながら一定の間隔でしてた、包丁がまな板の上で活躍してる音が途絶えた。




「あべちゃん………それ、食べたい」




「ん?んふふ。お腹空いてるの?

いいよー。どうぞ?」




姫が、"あーん"ってしてるのが見える。

ふふっ。セットで可愛いね?

ほら、ひかるの顔まで緩んでる。
もう、大丈夫かな?




「俺、これ毎日でも食べたい」




「ええー?毎日かぁ………ラウに教えとこうか?」




ほーら、勘違いしてるよ。




「ううん。あなたが作ってくれないと意味ない。

俺が好きなのはあなたで。

付き合いたいのも、一緒に住みたいのも。

毎日手料理食べたいのも、食べさせてあげたいのも。

全部、ぜーーーんぶ、あなたです。

この気持ちはもう、"恋"なんかじゃ収まらない。
あなたも参加して、"愛"に、変えてくれませんか?」




あ、姫が消えた………

めめもだ………

それから、しくしく泣いてる声と。

"よろしくお願いします"っていう、流石は姫!っていう声がして………

どうやらグループ内三組目の誕生みたい。

それから、姫を張り付けたイケメンの姿が目に入って。

泣きじゃくる姫の代わりに、これまた舘さんの弟子だったイケメンがご飯を作ってくれた。

美味しかったからなんでもいーけどね?




「ふふっ、寝たね」




「はい。疲れてるのに眠れなかったみたいで………」




「お前、これから大変だな?」




それには、溶けそうに綻んだ顔で姫の髪を撫でながら。
もう、わんこには見えないイケメンが、誓いの言葉を口にする。




「絶対、守っていきますから」




「だな………頼んだ」




「うちの姫をよろしくね?王子?」




めめのクエスチョンマークは、消えることはなかったけど。
姫の幸せだけは保証されたみたい。

これからは、元気な姫だけ見せてよね?







fin.

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