第15話

15.人生初の失恋
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2019/12/07 09:09

飛行船から配られたビラだというなら、恐らくテオドールもこのことを知っているだろう。


ニーナたち同様、テオドールもイザークとアレクシスが同一人物だと思うに違いない。
ヴォルフガング
ヴォルフガング
イザークはどこだ? 早く、皇宮に引き渡すべきだろう!
ニーナ
ニーナ
でも、それが……
ヴォルフガング
ヴォルフガング
今日は病院には来てないはずだから、ここにいないなら、乗船場にいるんじゃないのか?

ニーナは放心しながらも、なんとか首を横に振った。
ニーナ
ニーナ
イザークは、昨日の朝、暗いうちに出て行ったの
ヴォルフガング
ヴォルフガング
えっ、出て行った? 自分からか?
ニーナ
ニーナ
……うん

行き先は、ニーナもテオドールも知らない。


もしかすると記憶が戻ったのかもしれないが、それも定かではなかった。


ヴォルフガングは、しばらくして落ち着きを取り戻し、ほっと息を吐いた。
ヴォルフガング
ヴォルフガング
偽名まで使ってここにいたってことは、ニーナに何かしようと企んでるんじゃないかって、心配だったんだ。
でも、出ていったなら、もういいか……
ニーナ
ニーナ
企むなんて……そういうことをする人じゃないって、ヴォルフも分かってるでしょう?
ヴォルフガング
ヴォルフガング
まあ、そうだな。
病院でも患者には好かれていたし……。
正体が分かって、身代金目的の変なやからに捕まってないといいけどな

ニーナは、複雑な心境を抱えながら、迷っていた。


ニーナがヴォルフガングとの結婚を望んでいないと知ったイザーク――いや、アレクシスは、何らかの行動を起こすはずである。


手紙にも、〝会いに来る〟と書いてあった。


だが、自分を心配して駆けつけてくれたヴォルフガングに、それを言うことはあまりにもむごいと感じ、ニーナはできなかった。
ニーナ
ニーナ
(それに……皇子と平民って、結ばれることなんかないんだから)

アレクシスが皇族である以上、平民のニーナには手の届かない存在だ。


皇族と平民が結婚した前例があるのかは分からないが、聞いたことはない。


町の娘たちが憧れていた気持ちを、ニーナはここで理解することになった。


ニーナの胸がぎゅっと締めつけられる。
ヴォルフガング
ヴォルフガング
じゃあ、もしもイザーク……じゃなくて、アレクシスが戻ってきたら、知らせるんだぞ?
ニーナ
ニーナ
うん

ヴォルフガングが帰った後、ニーナはひとり、イザークの使っていたローブを握りしめて泣いた。
ニーナ
ニーナ
(苦しい……)

心が砕かれるような感覚――それは、ニーナがイザークを好きだった証だ。


ニーナの人生で、初めての失恋だった。



***



日が落ちる頃に、テオドールが急いで帰ってきた。


ビラの件が、やはり気にかかっていたようだ。
テオドール
テオドール
目が赤いようだけど……大丈夫か?
ニーナ
ニーナ
……うん
テオドール
テオドール
こういうのは、時間が経つのが薬になるから。
じきに楽になるよ
ニーナ
ニーナ
ありがとう……

テオドールは、ニーナに元気がないことを分かっていて、そう言葉をかける。


ニーナの両親が亡くなった時と同様に、頭を撫で、温かい愛情でなぐさめてくれた。


【第16話につづく】

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