飛行船から配られたビラだというなら、恐らくテオドールもこのことを知っているだろう。
ニーナたち同様、テオドールもイザークとアレクシスが同一人物だと思うに違いない。
ニーナは放心しながらも、なんとか首を横に振った。
行き先は、ニーナもテオドールも知らない。
もしかすると記憶が戻ったのかもしれないが、それも定かではなかった。
ヴォルフガングは、しばらくして落ち着きを取り戻し、ほっと息を吐いた。
ニーナは、複雑な心境を抱えながら、迷っていた。
ニーナがヴォルフガングとの結婚を望んでいないと知ったイザーク――いや、アレクシスは、何らかの行動を起こすはずである。
手紙にも、〝会いに来る〟と書いてあった。
だが、自分を心配して駆けつけてくれたヴォルフガングに、それを言うことはあまりにもむごいと感じ、ニーナはできなかった。
アレクシスが皇族である以上、平民のニーナには手の届かない存在だ。
皇族と平民が結婚した前例があるのかは分からないが、聞いたことはない。
町の娘たちが憧れていた気持ちを、ニーナはここで理解することになった。
ニーナの胸がぎゅっと締めつけられる。
ヴォルフガングが帰った後、ニーナはひとり、イザークの使っていたローブを握りしめて泣いた。
心が砕かれるような感覚――それは、ニーナがイザークを好きだった証だ。
ニーナの人生で、初めての失恋だった。
***
日が落ちる頃に、テオドールが急いで帰ってきた。
ビラの件が、やはり気にかかっていたようだ。
テオドールは、ニーナに元気がないことを分かっていて、そう言葉をかける。
ニーナの両親が亡くなった時と同様に、頭を撫で、温かい愛情で慰めてくれた。
【第16話につづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。