第19話

名前を知った日、失った日。
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2026/03/30 12:05 更新
——150年前。


まだアークが「上位精霊」ではなく、
ただの「龍精霊」として生きていた頃。


空を、優雅に飛んでいた。


風を切る感覚も、炎の熱も、

すべてが自分の支配下にあった。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
(人間は弱い)
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
(だから、興味ないし近寄りたくない)
そう思って生きて来た。

その日までは。
テオ
ねぇ!!
下から声がした。

見下ろすと——小さな人間の子供。

まだ10歳ほど。
テオ
君、精霊龍ってやつ??
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
は?……
テオ
すげぇーー!!!
テオ
絵本の中にしかいないと思ってた!

普通のヒューマンなら、逃げる。


戦う力がないから、

自分達以外の種族を見れば、恐れる。


それが当たり前だった。



なのに、その子は——

逃げない。

むしろ、近づいてくる。
テオ
ねぇ、名前は?どこから来たの?
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
うるさい
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
着いてくるな
冷たく言い放つ。

それでも——
テオ
良いじゃん!遊ぼうよ!!
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
無理
それでも、着いてくる。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……なんなんだお前は
テオ
僕はテオ!!
テオ
君は??
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
教えねぇ
テオ
えー!なんでー!
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
教えたくねぇんだよ
テオ
じゃあ龍ちゃんって呼ぶね!!
テオ
名前は教えたくなったら教えて!
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……好きにしろ
次の日も。
テオ
ねぇー!名前まだー?
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
一生言わねぇよ
テオ
ケチー!
その次の日も。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
お前また来たのか
テオ
うん!!
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……暇人か
テオ
うん!!
テオ
だって龍ちゃんと遊びたいから!
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……はぁ……
気づけば——

アークは追い払うことも、しなくなっていた。


テオと一緒に森を歩き、
アークはどうでもいい話を聞かされる。


意味のない時間。


でも——アークは
なぜか、悪い気はしなかった。
テオ
ねぇ!龍ちゃん!
テオ
僕たちの村に行く??
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
無理
テオ
えー!なんで!
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
お前の村人達は
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
オレを見た瞬間パニックになる
テオ
パニックってなに?
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……怖がるってことだ
テオ
僕は怖くないもん!
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
バカだからな
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
とにかく、絶対お前の村には行かん
テオ
ええーー!ちょっとぐらい良いじゃん!
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
ダメなもんはダメだ
夕暮れ。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
ほら、もう日が暮れる
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
さっさと帰れ
テオ
うん!
テオ
また来るね!
当たり前のように笑う。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
(……また来る、か)
その時、アークは初めて思った。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
(……悪くねぇな)
テオは弱くて。

明るくて。

どうしようもなくて。

でも、まっすぐで。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
(……こいつは、消えてほしくない)
——そして、その日。
テオ
今日ね、家族とごちそうを食べたいんだ!
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……は?
テオ
お魚とか!猪のお肉とか!
テオ
僕たちで取りに行こうよ!
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
ダメだ
テオ
え……
悲しそうな顔。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……オレが取りに行く
テオ
わーーーい!!ありがとう龍ちゃん!!
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
っ……礼など要らん
その日。

森の奥へ狩りに出た。


“あいつのために”


ただ、それだけで。
——戻った時。


村は、燃えていた。


黒い煙。

焦げた匂い。


そして——

静寂。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……は?
取ってきた食材を床に落とす。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……誰の仕業だ
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……この匂い……獣人か
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
悪趣味なことしやがって……
翼を羽ばたかせる。

止まらない。


探す。

探す。

探す。



そして——


見つけた。


テオの体。

血にまみれ、動かない。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……おい
近づく。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
起きろ……
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
なぁ、、
その時。
テオ
……龍ちゃん……
微かな声。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
(その名前……)
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……テオ
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
オレは、アークだ
テオ
……アーク……
テオは、笑った。

痛いはずなのに。
テオ
やっと聞けた……
テオ
かっこいい名前だね……
テオ
アーク……
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
もう喋るな…
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
血が……
テオ
アーク
テオ
僕のそばに居てくれて、
テオ
僕と遊んでくれて……
テオ
ありがとう

テオ
大好きだよ

その言葉を最後に——

呼吸が止まる。



アークはテオの手に触れる。



冷たい。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……テオ?

アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
嘘だよな……
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……寝てるだけだよな

アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
なぁ…テオ…起きろよ
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
いつもみたいに元気にくだらない話しろよ

アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
ふざけんなよ……
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
こんなの、認めねぇぞ……

返事は、ない。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
なんで……
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
なんで人間は……こんなに簡単に死ぬんだ
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
なんでオレは……その時いなかった

守れる力があった。

守りたいと思った。


それなのに——


“守れなかった”
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……オレが……弱いからだ

アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
傷を治せる力があれば……
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
守れたかもしれないのに……
ぽた、と涙が落ちる。

初めてだった。



その瞬間——

アークの体が、燃えるように光る。


感情に呼応するように。


進化が始まる。


龍精霊から——

上位龍精霊へ。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……今さら強くなっても
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
意味ねぇだろ……
拳を握りしめる。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
守れなかったんだから……
炎だけが、静かに揺れていた。
※この物語はフィクションです。

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