——150年前。
まだアークが「上位精霊」ではなく、
ただの「龍精霊」として生きていた頃。
空を、優雅に飛んでいた。
風を切る感覚も、炎の熱も、
すべてが自分の支配下にあった。
そう思って生きて来た。
その日までは。
下から声がした。
見下ろすと——小さな人間の子供。
まだ10歳ほど。
普通のヒューマンなら、逃げる。
戦う力がないから、
自分達以外の種族を見れば、恐れる。
それが当たり前だった。
なのに、その子は——
逃げない。
むしろ、近づいてくる。
冷たく言い放つ。
それでも——
それでも、着いてくる。
次の日も。
その次の日も。
気づけば——
アークは追い払うことも、しなくなっていた。
テオと一緒に森を歩き、
アークはどうでもいい話を聞かされる。
意味のない時間。
でも——アークは
なぜか、悪い気はしなかった。
夕暮れ。
当たり前のように笑う。
その時、アークは初めて思った。
テオは弱くて。
明るくて。
どうしようもなくて。
でも、まっすぐで。
——そして、その日。
悲しそうな顔。
その日。
森の奥へ狩りに出た。
“あいつのために”
ただ、それだけで。
——戻った時。
村は、燃えていた。
黒い煙。
焦げた匂い。
そして——
静寂。
取ってきた食材を床に落とす。
翼を羽ばたかせる。
止まらない。
探す。
探す。
探す。
そして——
見つけた。
テオの体。
血にまみれ、動かない。
近づく。
その時。
微かな声。
テオは、笑った。
痛いはずなのに。
その言葉を最後に——
呼吸が止まる。
アークはテオの手に触れる。
冷たい。
返事は、ない。
守れる力があった。
守りたいと思った。
それなのに——
“守れなかった”
ぽた、と涙が落ちる。
初めてだった。
その瞬間——
アークの体が、燃えるように光る。
感情に呼応するように。
進化が始まる。
龍精霊から——
上位龍精霊へ。
拳を握りしめる。
炎だけが、静かに揺れていた。
※この物語はフィクションです。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。