霞双牙が、怪獣の装甲を裂く。
だが――
止まらない。
怪獣の巨体が、なお前へ出る。
あなたの下の名前は踏ん張るが、地面が抉れ、後退する。
押されている。
確実に。
背後には、校舎。
その上空には、防衛隊ヘリ。
逃げ場が、ない。
通信越しの鳴海の声。
でも、下がれない。
止める場所がない。
あなたの下の名前は歯を食いしばり、
怪獣の腕を受け止める。
膝が、沈む。
---
上空。
防衛隊ヘリの中で、
鳴海弦は、その映像を見ていた。
モニターに映るのは、
怪獣に押し潰されそうになっている娘。
ヘリが揺れる。
保科宗四郎の声。
鳴海は、返事をしなかった。
ハーネスを外す。
保科が腕を掴む。
鳴海は、初めて保科を見る。
その目には、
指揮官の冷静さはなかった。
低い声。
一拍。
鳴海は、扉に手をかける。
保科の手が、わずかに緩む。
次の瞬間。
鳴海弦は、
何も言わずに飛び出した。
---
風が、全身を叩く。
高度。
速度。
危険。
全部、分かっている。
それでも、鳴海は落ちる。
視線の先には、
必死に耐えている小さな背中。
初めて、
戦場で娘の名前を叫んだ。
---
地上。
怪獣の圧が、限界に近づく。
あなたの下の名前の足が、滑る。
その瞬間。
聞き慣れた声。
空から、影が落ちる。
次の瞬間、
強烈な衝撃。
鳴海が、
あなたの下の名前の前に、着地した。
地面が砕け、砂塵が舞う。
思わず、名前がこぼれた。
鳴海は、振り返らない。
怪獣を真正面から見据える。
短い言葉。
命令じゃない。
あなたの下の名前は、一瞬だけ迷い――
それでも、下がらなかった。
鳴海の口元が、わずかに歪む。
怪獣が、咆哮を上げる。
父と娘。
並び立つ。
霞双牙が、鳴海の視界に入る。
鳴海は、初めて言った。
あなたの下の名前の目が、見開かれる。
一瞬の間。
鳴海は、怪獣へ踏み出す。
---
怪獣が、動く。
次の瞬間――
二人の剣筋が、完全に重なった。
---
第五話・了















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!