第6話

嵐の前の
42
2026/06/28 13:00 更新
◆◇◆◇◆◇
雲一つない青空。小鳥たちの囀り。軽快な音楽。さっと吹き抜ける風。そして何より、オレ達のショーを楽しみに待ち客席に腰掛ける人々の笑顔。
ネネロボ
『す…………すごい。まさか、
 こんなステージでここまでお客さんが
 集まるなんて』
神代類
ショーの呼び込みは、
自分に任せてほしいと言っていたけれど。
司くん。想像以上の働きだね
神代類
一体、どんな手を使ったんだい?
天馬司
おい、誤解を招くような言い方をするな
天馬司
ただ普通に呼びかけ回っただけだ。
咲希にも協力してもらったしな
前から2列目真ん中のベンチに、咲希達は腰掛けている。と言っても隣に座っているのは一歌達ではなく、知らない顔ばかりだ。少し意外ではある。
そして後方のベンチの端の方に遠慮がちに座っているのは、こはねだ。と言ってもいつもとは違い、髪は前髪共に長く、何よりメガネを掛けている。だが、こはねに間違いないだろう。
天馬司
(知った顔もそれなりにいる。
 より気を引き締めなければ)
神代類
………そろそろ、時間だね
神代類
みんな、準備はいいかい?
天馬司
あぁ
ネネロボ
『う、うん…………』
神代類
…………えむくんは、どうかな
鳳えむ
………ほえ?
天馬司
えむ……………?
えむは、どこか上の空だった。
もちろん、その丸く光り輝くその瞳は舞台裏の隙間から見える観客達を映している。だが、えむはそれよりもっと何処か遠くを見ているように感じた。
オレ達の心配をえむは察したのか、すぐにぱっと普段の笑顔になった。けれどその笑顔の奥に、少しの不安が宿っている。
鳳えむ
あ…………。ううん、なんでもないよ。
心配かけちゃってごめんね
天馬司
どう見ても何もないわけ____
鳳えむ
司くん。もうちょっとで、
ショーが始まるよ!
鳳えむ
………ぜったいに、
このショーを最高のショーに
鳳えむ
してくれるんだよね?
天馬司
…………あぁ。約束する
天馬司
だが、一つだけ。
お前に言わなければならないな
赤いカーテンが開かれる。まぶしい外の光が一気に差し込み、まるでオレ達を照らすスポットライトのように輝く。
えむの手を引き、類の目を見て、ネネロボの頭にぽんっと手を置く。
天馬司
オレが最高のショーを作るわけではない
天馬司
オレ達で、作るんだ
鳳えむ
っ………………
鳳えむ
うんっ…………!!
引いた手がぎゅっと握り返される。もう迷いも憂いもない。その顔はとても綺麗で、でもそれは、嵐の前の静けさとも言えるような、そんな。_____そんな顔だった。
◆◇◆◇◆◇
天馬司
本日は我々『ワンダーランズ✕ショウタイム』のショーを観に来てくださり、誠にありがとうございましたっ!!!
ネネロボ
『あ、ありがとうございました』
神代類
お気をつけてお帰りください
ステージは拍手の音で包まれる。拍手喝采という言葉が似つかわしい、晴れ舞台だ。
昨日寧々にしっかり休むよう伝えたおかげで、ネネロボの充電切れは免れ、無事トラブルなくショーを終えることができた。観客の反応もよく、皆顔が明るい。何より、笑顔で溢れている。
だが________
鳳えむ
………………………
天馬司
(なぜ、えむはそんな顔をしているんだ)
楽しい時間が終わる。そういう、顔をしている。夕焼けを見るときの、切ない気持ちと諦めを合わせた何とも言えない悲しげな顔を。
鳳えむ
司くん
舞台裏に移った途端、不意にえむが名を呼んだ。
その声は、いつもの明るくお気楽なえむの声ではなく。真剣で、冷酷で、悲痛で、そして安堵の声だった。その聞き慣れない声に、この場にいる全員が息を呑むのが分かった。
鳳えむ
寧々ちゃん
鳳えむ
類くん
鳳えむ
みんなに…………大切な話があります
えむの目は、顔は、声は、
穏やかさを努めていた。

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