考えないようにしていた。
クラスのみんなを見殺しにするということを。
だって、手一杯なの。私はもうこれ以上、
あの家に、あの人たちに耐えきれなくて、
大好きな彼に幸せになってもらいたくて、
それに。江ノ島盾子が起こす絶望を、
たかだか私なんかに止められるなんて思わなかった。
傘を差しながら歩く。小さい日傘じゃ肩が濡れた。
でもそんなのどうだってよかった。
苦しかった。
江ノ島盾子の絶望を、私に止められない。
そう思って何もしないことはただの思考放棄だ。
救おうともしないことの、
何が「私のせいじゃない」の?
私のせいだ。私は、みんなを、見殺しにする。
でも、それでも、私は言えない。
江ノ島盾子が何をするか分からないから。
私がもしみんなにこのことを伝えて行動した時、
彼女がどんなことをするか分からないから。
それで彼が死んだりでもしたら、
私はきっと、耐えられない。
きっと地獄に落ちるから。許されるなんて思わない。
彼を見送ってから、私はあの人を殺して、
ちゃんと自分も死ぬ。
たくさん汚いことをして生き延びた罪も、
みんなを殺した罪も、全部罰を受けるから。
だから、それまでは。彼と、もう少しだけ、
そんなこと考えていた矢先、道の先に彼が見える。
彼は傘を差していなかった。雨に濡れて、
ずぶ濡れになった髪を鬱陶しそうにかきあげている。
私は彼に駆け寄った。
彼は私に振り返って、なんてことなさそうに言う。
………彼は、誰かを傷付けないように、
あんな風に怖がられても無視して、それに安心して、
こうして一人で生きてきたんだろうか。
私は、それを、否定したくない。できない。でも、
誰かを傷つけないようにしてきた彼が、
その為に一番傷付くのが私は嫌だ。
私は傘を彼に差し出す。
私は雨の中を軽く走って、彼から離れる。
彼がそう大きく口を開くのを見て、笑う。
◇
―――あなたの名字あなたは、ずっと、罰を欲している。
#44「地獄の切符は既に手に」











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。