第46話

#44「優しい嘘つき」
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2026/07/26 13:10 更新


あなた
うーん、


お箸を置いて、少し考えるように黙る。
「顔が好きか」と聞かれれば無論答えはYESである。
彼の顔は整っていて、
嫌いな人なんていなんじゃないかとすら思う。けど、

あなた
私狛枝くんがハエとかになっても
好きな自信あるからなぁ。
あなた
あ、顔は好きだよ?
狛枝くんって配置もパーツも整ってるし、
スタイルもいいもんね。足長いし。


彼は飲んでいたどす黒い液体を置いて、
飲み込んでから少しむせた。

狛枝 凪斗
…………物好きの範疇超えてるよ。
あなた
狛枝くん、よく私の事物好きって言うけど
別に私物好きじゃないからね。
あなた
狛枝くんのことみんな好きだから、
私なんてその内の有象無象の一人だよ。
狛枝 凪斗
キミの見てる世界とボクが見てる世界
違う気がするんだけど。


だって狛枝くんは人気投票一位の人だしなぁ。と
思うけれども、そんなこと口には出せないし
私は笑って誤魔化した。

あなた
じゃあ私占いできるんだけどさ。
狛枝 凪斗
「じゃあ」ってほんとに何?
あなた
狛枝くんはこの先無二の友達ができて、
たくさんの人に愛されます。
あなた
あとすごい悪いことする。
狛枝 凪斗
キミ適当言ってるだろ。
あなた
エスパーだからね。


狛枝くんの砕けた口調がなんだか嬉しくて、
私はコップに入れたレモネードを飲み干した。

狛枝 凪斗
………あなたの名字さんもさ、
狛枝 凪斗
ああいう、ナンパされてた時。
彼女とか言うのかと思った。
あなた
え? ああ、いや確かに
ちょっと考えたけど……
あなた
そういうこと言って
激昂されたら怖いでしょ。
結局狛枝くんに迷惑かけちゃうし……
あなた
狛枝くんが言ってたみたいに
怖い人出てきたら大変だしね。
妹の方が都合いいかと思って。
狛枝 凪斗
………あなたの名字さん、
意外とよく考えてるよね。
あなた
照れちゃうからやめてね。


こうして話していると、
なんだか普通の高校生みたいだ。
彼にとっては嫌かもしれないけれど、
平凡で、どこにでもある、平穏な会話。
クーラーが寒いのにどこか暖かくて、私は笑った。

彼も。自分の不運のことを、
少しでも忘れられたらいいんだけど―――、

そう思った瞬間だった。



_
―――きゃあっ、すみません!


冷たい。そう思って横を見ると、
小さな子どもが立っている。
どうやら五、六歳くらいのこの女の子に
ジュースをかけられたようだった。

あなた
………


どうしようかな。と思ったけれど、
女の子は泣きそうな目をしている。
わざとではなさそうだ。
なら、と私はできるだけ優しく微笑む。

あなた
ごめんね。
ジュースなくなっちゃって悲しかったね。
_
本当にすみません、すみません、
く、クリーニング代、すぐ払いますから。
あなた
大丈夫ですよ!暑かったし。
ね。気をつけようね。
お嬢さんは怪我してないですか?
_
すみません、もう本当、
ありがとうございます。
ほら、ちゃんと謝って。
_
ご、ごめんなさい、お姉さん、
あなた
いいよ。転ばないようにね。


そういうと、お母さんらしい女の人は
クリーニング代を私に無理やり持たせるようにして、
何度も頭を下げてから奥の席へと座っていった。

―――ああ、優しいお母さんだなぁ。と思う。


狛枝 凪斗
……………


前を見ると、私より傷ついた顔をした彼がいて、
つい笑ってしまった。

あなた
見て。
あなた
あの子のおかげで、
可愛い模様できちゃった。


ジュースをこぼされたのはスカートだ。
なんのジュースを飲んでいたか知らないが、
白いスカートの一部が明るい色に変色していた。

狛枝 凪斗
―――………あなたの名字さんは、
狛枝 凪斗
損するタイプだろうね。
あなた
え? 悪口? いいけど……


別に、本当は私はそこまでポジティブじゃないし、
優しい人間でもないと思う。

でも、きっとこれが彼の不運だと
狛枝くんは思ってしまうとわかっていたから、
彼に少しでも傷ついて欲しくないから、
ポジティブな性格の女の子になれてしまうだけだ。

あなた
( 私が傷付いたら、
あなたの方が傷付いちゃうでしょ )


嘘つきでごめんね。





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