最終日の朝は、昨日までの喧騒が嘘のように穏やかに始まった。ホテル コレクティブの高層階。遮光カーテンの隙間から差し込む一筋の光が部屋の暗闇を静かに切り裂いていた。
ラテはスマートフォンのアラームが鳴るよりわずかに早く、ふっと目を覚ました。昨日祭りの熱狂の中で酷使した体はまだ少し重い。しかしそれ以上に心地よい疲労感と心の奥底から満たされていくような充実感が全身を包んでいた。
今日で終わりか。
その事実が、ずしりと重い実感となって胸に広がる。
ベッドからそっと抜け出し、音を立てないようにカーテンを少しだけ開ける。眼下にはまだ眠りから覚めやらぬ那覇の街並みが広がっていた。遠くの空は朝焼けの淡いピンク色に染まり始めている。国際通りのネオンは消え、代わりにオフィスビルの窓に少しずつ明かりが灯り始めていた。街が新しい一日を始めようとしている。
昨日のカヌチャリゾートから見た自然が作り出す雄大な夜明けとは違う、人々が暮らし働き生きる街の力強い夜明けの風景。そのどちらもがどうしようもなく美しかった。
部屋に戻るともう一つのベッドではめめんともりが静かな寝息を立てていた。その穏やかな寝顔を見ていると今回の旅のきっかけとなった水曜日の夜の自分の無茶な提案を思い出す。
結果オーライか。ラテは小さく笑いルームサービスのコーヒーを注文するために静かに受話器を取った。
やがてコーヒーの香ばしい香りでめめんともりが目を覚ます。
その時コネクティングドアが勢いよく開きぜんこぱすが満面の笑みで顔を覗かせた。
やはりすでにお風呂を済ませてきたらしい。その髪からはまだシャンプーの香りがしていた。
ラテが呆れたように言う。
ぜんこぱすはもうすっかり今日の冒険に胸を躍らせていた。その純粋な期待に満ちた姿に二人の心も自然と軽くなっていく。
めめんともりが茶化すように言うとぜんこぱすは「ぽれそんなに食いしん坊じゃないですよ!」と笑って返した。
三人は身支度を整えホテルのレストランへと向かった。レストランは朝食を楽しむ宿泊客で賑わっていたが広々とした空間は少しも窮屈さを感じさせない。
ぜんこぱすがビュッフェ台の前で歓声を上げる。
三人はそれぞれお皿いっぱいに好きなものを盛り付け窓際の席に着いた。
「「「いただきます!」」」
旅の最後の朝食。会話も弾む。
美味しい料理は人を幸せにする。昨日までの疲れも旅の終わりの寂しさもこの幸せな朝食の時間の中ではどこか遠くに感じられた。
食事を終え部屋に戻って最後の荷造りをする。スーツケースにお土産や着替えを詰め込んでいく作業は旅の始まりのそれとは全く違う。あの時は期待感だけだったけれど今はこの数日間で得たたくさんの思い出が荷物の一つ一つに詰まっているようだった。
めめんともりがぽつりと呟いた。
ぜんこぱすも、しゅんとした顔で服を畳んでいる。
ラテがあえて明るい声で二人の背中を叩いた。その言葉に二人は顔を見合わせそして頷いた。
チェックアウトを済ませ三人は再び青いヤリスクロスに乗り込んだ。名残惜しそうにホテルを振り返るぜんこぱす。その横顔は楽しかった時間の終わりを惜しんでいるようだった。
めめんともりが励ますようにそして自分にも言い聞かせるように言った。その言葉にぜんこぱすは「はい!」と力強く頷いた。
車は那覇の市街地を抜け首里城へと向かう坂道を上り始めた。旅の最終日が最高の形で幕を開けた。
午前10時 琉球王国の面影
ホテル コレクティブを後にしたヤリスクロスは、那覇市内の喧騒を抜け、ゆっくりと高台へと続く坂道を上り始めた。目的地は、琉球王国最大のグスク、「首里城公園」だ。
ハンドルを握るめめんともりが、期待に満ちた声で言った。
公園の地下駐車場に車を停め、一行は地上へと出た。その瞬間空気が変わるのを感じた。国際通りの賑わいとは違う、どこか厳かで歴史の重みを感じさせる静かな空気が漂っている。
三人はまず、首里城の象徴ともいえる「守礼門」の前に立った。鮮やかな朱色に塗られ、「守禮之邦」の扁額が掲げられたその門は、青い空を背景に堂々とそびえ立っていた。
ラテが、感心したように呟く。
ぜんこぱすも、興味深そうに門の細やかな装飾を見上げている。
めめんともりに促され、三人は期待に胸を膨らませながら門をくぐった。
石畳の緩やかな坂道を進み、世界遺産にも登録されている「園比屋武御嶽石門」を横目に、一行はいくつもの門をくぐり抜けていく。歓会門、瑞泉門、漏刻門。門を一つ越えるごとに、俗世から王国の中心へと近づいていくような、不思議な感覚があった。
そして、広福門を抜けた先、正殿へと続く最後の広場「 御庭」に出た。
目の前に広がっていたのは、想像していた光景とは全く違う、しかし忘れられない光景だった。
広場の向こう側には、青い空の下、再建されたばかりの正殿が、鮮やかな朱色を誇るように凛として建っている。竜の彫刻が施された屋根、黄金に輝く装飾。それは紛れもなく琉球王国の象徴としての威厳と美しさを取り戻していた。
しかし、その手前に広がるはずの優美な広場「御庭」は、存在しなかった。
正殿の前は、巨大な建設現場そのものだったのだ。地面は掘り返され、砂利や土がむき出しになっている。脇には、緑色のクレーン車やショベルカーが何台も翼を休めていた。積み上げられた資材、張り巡らされた仮設のフェンス。そして、ウェットな地面には、夕日に染まる雲が鏡のように映り込んでいる。
完成された美しい城と、まだ生々しい工事現場。過去の栄光と、未来へ向かう現在の営み。そのあまりにも対照的な光景が、一つのフレームの中に混在していた。
ラテが呆然と呟いた。その声には、寂しさよりもむしろ畏敬の念がこもっていた。
ぜんこぱすも、静かにその光景を見つめている。
めめんともりも言葉を失っていた。初めて訪れた首里城。目の前にあるのは、力強く、心を揺さぶる「生きた」光景だった。
三人は、復興の過程を見せるために設けられた見学通路へと進んだ。ガラス張りの通路からは、職人たちが使う道具や、これから取り付けられるであろう木材のパーツが間近に見える。壁には、全国から寄せられた寄付者の名前がびっしりと並んでいた。
失われたものの大きさと、それでも未来へ向かって進もうとする人々の強い意志と祈り。その両方を肌で感じ、三人は再建への祈りを込めて、静かにその場を後にした。
彼らは、火災を免れた西のアザナ(展望台)へと向かった。石段を上りきると、そこからは那覇の街並みと、その向こうに広がる東シナ海が一望できた。
ぜんこぱすが歓声を上げる。
ラテも、自分たちが辿ってきた道を指差しながらその絶景に見入っていた。
心地よい風が三人の頬を撫でていく。かつて、琉球の王たちも、この場所から同じように自分の国を眺め、何を思ったのだろうか。そんな悠久の時に思いを馳せる。
首里城公園を後にし、三人は少しだけ感傷的な、しかし確かな感動を胸にヤリスクロスへと戻った。旅の最後に、その影と再生への力強さに触れることができた。それは、ただ楽しいだけではない、深く心に残る体験となったのだった。
午前11時 作戦会議と、北へ
首里城公園を後にし、駐車場に戻ったヤリスクロスの中で3人は小さな作戦会議を開いていた。
めめんともりが、運転席でスマホの地図を見ながら切り出した。
ぜんこぱすが、目を輝かせながら言う。
ラテも同意する。
めめんともりは、そこでニヤリと笑った。
ぜんこぱすが身を乗り出す。
ラテの即決に、ぜんこぱすも「行きたいです!」と続く。
こうして、旅の最後の食事は、単なる昼食ではなく、「タコライスの聖地巡礼」という名の、新たな目的地となった。
午後12時半 タコライスの聖地、金武町
車は再び沖縄自動車道を北上する。昨日、美ら海水族館へ向かう時に通った道を、今度は違う目的で走るのが、なんだか不思議な気分だった。
金武インターチェンジで高速を降り、米軍基地キャンプ・ハンセンへと続くゲート前の通りに入ると、風景は一変した。通りの両側には、アルファベットの看板を掲げたお店がずらりと並び、ドル表記のメニューや、ミリタリーグッズを売る店が目立つ。まるで、日本であって日本でないような、独特の空気が流れていた。
ぜんこぱすが、興奮した様子で車窓からの景色を眺めている。
めめんともりが言うと、ぜんこぱすがある店の前で声を上げた。
三人が向かったのは、「キングタコス 金武本店」。地元の人々からは親しみを込めて「キンタコ」と呼ばれる、まさにタコライスの王様のような存在の店だった。
店構えは、気取らない大衆食堂といった雰囲気。メニューはタコライスとタコス、そしてハンバーガーくらいしかない。三人は迷わず、名物の「タコライスチーズヤサイ」を注文した。
券売機で食券を買い、番号を呼ばれるのを待つ。店内は、米軍基地関係者と思われる外国人や、地元の家族連れ、そして彼らのような観光客でごった返していた。飛び交う言語も、日本語、英語、そしてうちなーぐちが混じり合っている。
やがて番号が呼ばれ、カウンターに現れたのは、透明なプラスチックのパックに、これでもかと詰め込まれたタコライスだった。パックの蓋が閉まりきらないほど、山盛りのタコミート、チーズ、そして千切りレタスが詰め込まれ、赤い輪ゴムでかろうじて蓋が留められている。
ラテが、そのワイルドな見た目とボリュームに驚きの声を上げる。
三人は、店の外にある簡素なテーブル席に陣取り、パックに添えられた白いプラスプーンを手に取った。
「「「いただきます!」」」
サルサソースをたっぷりとかけ、山を崩すようにスプーンを入れる。
ラテが目を見開く。
ぜんこぱすも、夢中で頬張っている。
発祥の地で食べる、本場のタコライス。それは、レストランで食べるおしゃれなタコライスとは全く違う、力強く、ジャンキーで、そして最高に美味しいソウルフードだった。
ぜんこぱすが、満足げにお腹をさする。
めめんともりはスマホの地図を見せながら言った。時刻は午後2時過ぎ。目的のバス停で夕日を見るには、まだ3時間以上ある。
ラテの言葉に全員が頷き、旅の終わりを惜しむ最後のドライブが始まった。
ヤリスクロスは再び沖縄自動車道に乗り、北を目指す。金武インターチェンジを過ぎると、車窓の風景は、昨日見た時よりもさらに緑の深みを増していく。右手に見えるのは、やんばるの森へと続く、亜熱帯の木々が生い茂る丘陵地帯。その深い緑は、まるで巨大な生き物の背中のように、どこまでも連なっていた。
後部座席で、ラテは窓に額をつけ、流れていく景色をぼんやりと眺めていた。時折、木々の切れ間から見える集落の赤瓦の屋根が、鮮やかなアクセントとなっている。その全てが、本土では決して見ることのできない、力強い生命力に満ちた風景だった。
助手席のぜんこぱすは、時折「うわぁ…」と小さな感嘆の声を漏らしながら、スマホで写真を撮っている。彼の目には、この沖縄の全てが、新鮮な驚きとして映っているのだろう。
許田インターチェンジで高速を降り、車は名護市の市街地を抜けて、本部半島を巡る海沿いの国道449号線へと入った。
瞬間、視界が拓けた。
左手には、どこまでも続くコバルトブルーの海が、太陽の光を浴びてきらきらと輝いていた。そのあまりの美しさに、車内からため息が漏れる。
ぜんこぱすが感動したように言った。
昨日走った時よりも、太陽の位置が西に傾いているせいか、海の色はより深く、そして空の色はより淡く感じられる。白い砂浜と、サンゴ礁が作り出す淡いエメラルドグリーンのグラデーション。その上を、漁船であろう小さな白い船がゆっくりと滑っていく。
めめんともりは、車の窓を全開にした。潮の香りを乗せた、温かい風が車内に勢いよく流れ込んでくる。ラジオから流れる沖縄のポップスと、風の音、そして遠くで聞こえる波の音。その全てが混じり合い、最高のBGMとなって、最後のドライブを彩っていた。
やがて、屋我地島(やがじしま)へと渡る橋を越え、目の前に信じられないような光景が広がった。
古宇利島(こうりじま)へとまっすぐに伸びる、全長約2kmの古宇利大橋。それは、まるでエメラルドグリーンの海の上を滑るように、優美な曲線を描いて伸びていた。
ラテが、思わず身を乗り出した。
めめんともりは対向車に注意しながらゆっくりと橋の上を走り始めた。橋の両側には、息を呑むほど透明な「古宇利ブルー」の海が広がっていた。あまりの美しさに、車を停めて景色を眺めたい衝動に駆られたが、橋の上は駐停車禁止だ。
その言葉通り、橋を渡りきった先にある「古宇利オーシャンタワー」の駐車場に車を停める。三人は塔には登らず、橋のたもとにある古宇利ビーチへと駆け出した。
真っ白な砂浜は、太陽の熱を吸ってほんのりと温かい。その砂は、星の砂が混じっているのか、きらきらと細かく輝いていた。
ラテは靴を脱ぎ捨て、裸足で砂浜へと駆け出していく。寄せ来る波が、彼女の足跡を優しく消していく。
ぜんこぱすも、カメラを片手に波打ち際まではしゃいでいく。
三人は、子供のようにはしゃぎ、波と戯れた。旅の終わりが近づいていることなど、この完璧な青の世界の中では忘れてしまうほど、穏やかで幸せな時間だった。
やがて、ビーチに隣接するカフェで冷たいマンゴースムージーを飲みながら一息つく。テラス席からは、先ほど渡ってきた古宇利大橋が、美しいアーチを描いて海の上にかかっているのが見えた。
時刻は午後4時半を回っていた。空の色は、昼間の突き抜けるような青から少しずつ柔らかい色合いへと変化し始めている。
めめんともりの言葉に、二人は頷いた。
午後5時 約束の場所へ
古宇利島を後にし、車は再び本部半島の海岸線を通り、今泊で左折し山の中を突き進む。今帰仁城跡などを通り抜け、再び海岸へ。そして太陽はさらに西へと傾き、海の色は深い青色から、少しずつ金色を帯び始めていた。
めめんともりは多くを語らない。そのことが、かえって二人の期待を煽った。やがて、彼女は速度を少し落とし、注意深く道路の左側を眺め始めた。そして、視界が開け、海沿いの直線道路に出てすこし、それを見つけた。
彼女が指差す先には、青いポールと時刻表だけの簡素なバス停があった。
めめんともりは、バスが停車するために少しだけ道路がへこんだスペースに、ヤリスクロスを静かに停めた。真後ろを、ひっきりなしに車が通り過ぎていく。
三人は車を降り、砂浜へと続くコンクリートの段差に腰を下ろした。目の前にはどこまでも広がる東シナ海。そしてその水平線の少し上には、伊江島と特徴的な城山のシルエットが浮かんでいる。
ぜんこぱすが感嘆の声を漏らす。
めめんともりが誇らしげに言った。
太陽はゆっくりとしかし確実に伊江島の向こう側へと傾き始めている。少しずつ黄色みがかった優しい色へと変わり始めていた。
しばらく三人は言葉もなくただ静かにその光景を眺めていた。すると一台の軽トラックが彼らの車の後ろにゆっくりと停まった。降りてきたのは日に焼けた人の良さそうなおじさんだった。彼はめめんともりの顔を見るなり驚いたように目を丸くしそしてすぐに満面の笑みになった。
「あんた、前のねーねーじゃないか!久しぶりだな!」
その声にめめんともりがハッと顔を上げた。見覚えのある笑顔。数ヶ月前この場所で出会ったユウキさんだった。
「ははは俺は仕事が終わったらだいたいここにいるからな。今日は…前の旦那さんはどうしたんだ?」
めめんともりが慌ててラテとぜんこぱすを紹介する。
「そうかそうか!まあ座んなさい。いちゃりばちょーでーさ」
その言葉を皮切りに、まるで奇跡のように見覚えのある顔が次々と集まり始めた。部活帰りらしい制服姿の高校生タカシくんとミキさん。あっという間にただのバス停の護岸は賑やかで温かいコミュニティスペースへと変わっていた。
ラテが目の前の光景に圧倒されて呟く。
ぜんこぱすも、穏やかな笑顔でその光景を見つめている。
「おおありがとう!じゃあ俺からはこれさー。サーターアンダギー」
お土産交換が始まり笑い声が響く。ぜんこぱすは高校生たちとスマホゲームの話で盛り上がりラテはユウキさんと地元のおすすめの店の話をしている。
そしてその瞬間は訪れた。午後6時ちょうど。
太陽がちょうど伊江島の城山のてっぺんに触れゆっくりとその輪郭を水平線の向こう側へと隠していく。空全体が燃えるようなオレンジ色と深い紫色に染め上げられ海面には黄金色の光の道がまっすぐにこちらへと伸びていた。
さっきまでの喧騒が嘘のように誰もが言葉を失いその荘厳な光景に見入っていた。
ラテがぽつりと呟いた。その声には、心の底からの感動が滲んでいた。
ぜんこぱすも、その目に美しい景色を焼き付けるように、じっと空を見上げていた。
めめんともりはそんな二人を見て心の底から嬉しくなった。大切な思い出の場所が新しい仲間との再会によってさらに特別でかけがえのない場所になった瞬間だった。
午後6時5分 タイムアタックの始まり
感動的な夕景の余韻に浸る間もなく、めめんともりがハッとしたようにスマホの時間を確認した。画面には「18:05」という数字が冷たく光っていた。
ぜんこぱすの顔からサッと血の気が引く。ここから那覇空港までは地図アプリ上では通常でも1時間半近くかかる表示だ。
めめんともりは、ユウキさんたちに大声で別れを告げると、ラテとぜんこぱすを促した。
「えー!もう帰るのかー!」
「気をつけてなー!」
名残惜しそうな声を背に、三人はヤリスクロスに飛び乗った。
めめんともりの的確な指示が飛ぶ。彼女はシートベルトを締めると、迷いなくアクセルを深く踏み込んだ。タイヤがアスファルトを軽く蹴り、車は急発進するように国道へと躍り出る。ここから那覇空港までの約80km、時間との戦いが始まった。
幸いだったのは、連休最終日の夜、北へ向かう上り車線とは反対に、那覇方面へ向かう下り車線が嘘のように空いていたことだった。
許田インターチェンジから沖縄自動車道に入る。めめんともりは、普段の穏やかな運転が嘘のように、追い越し車線を疾走し始めた。
ラテが悲鳴に近い声を上げる。
車内は緊迫した空気と、どこか文化祭の準備のような不思議な高揚感に包まれていた。
車は、西海岸の夜景を横目に、法定速度びた付けの105km/hという驚くべきスピードで南下していく。
午後7時28分 那覇空港、最後の連携プレー
那覇インターチェンジを降り、空港への道を急ぐ。奇跡的に大きな渋滞にはまることなく、ヤリスクロスは那覇空港のレンタカー会社営業所に滑り込んだ。時刻は午後7時28分。ぜんこぱすの保安検査締め切りまで、あと7分。
めめんともりは二人にそう叫ぶと、一人車に残り、返却手続きを始めた。ラテとぜんこぱすは、スーツケースのキャスターを悲鳴のように鳴らしながら、空港の出発ロビーへと全力で走った。
幸いにも、JALのカウンターは空いていた。ラテはぜんこぱすからスマホを受け取ると、息を切らしながら自分のスーツケースとぜんこぱすのスーツケースを預ける。
「お客様、羽田行きの920便ですね。保安検査場の締め切り時刻が迫っておりますので、お急ぎください」
グランドスタッフの冷静な声が、逆に焦りを煽る。
荷物を預け終えた瞬間、レンタカーの手続きを終えためめんともりが汗だくで合流した。
ぜんこぱすは何度も頭を下げると、保安検査場へと駆け込んでいった。その姿は、締め切りギリギリの乗客たちに混じってあっという間に見えなくなった。
残された二人は、自分たちの搭乗便までまだ時間があることを確認し、その場にへたり込むようにして、ほっと一息ついた。
数分後、ぜんこぱすからメッセージが届いた。
『無事、搭乗口に着きました!本当にありがとうございました!最高の旅でした!』
そのメッセージを見て、ラテとめめんともりは、顔を見合わせて笑い合った。そして、同時に、どっと疲れが押し寄せてきた。
旅の本当のフィナーレは、ドタバタで、スリリングで、そして最高のチームプレーで締めくくられたのだった。
午後8時5分 帰路、それぞれの空へ
那覇空港の喧騒を後に、JTA46便は静かに夜の空へと舞い上がった。窓の外には、宝石を散りばめたような那覇の夜景が広がり、あっという間に遠ざかっていく。
隣り合った普通席に身を沈め、ラテとめめんともりは、どちらからともなく深いため息をついた。クラスJだった行きとは違う、少しだけコンパクトな空間が、旅の終わりと日常への回帰を実感させた。
二人の声が重なり、思わず笑みがこぼれる。最後の最後に見せた、ドタバタのチームプレー。その余韻が、心地よい疲労感と共に体を満たしていた。
ラテがぽつりと呟いた。その声には、もういつものような素っ気なさはなかった。
めめんともりも、心から同意する。
飛行機は、本土へ向かう漆黒の闇の中を、順調に飛行していく。
ラテは、スマホを取り出し、ぜんこぱすも加わっているグループメッセージを開いた。そこには、先ほど撮ったばかりの浜元バス停での夕日の写真と、ぜんこぱすからのメッセージが届いていた。
『本当にありがとうございました!一生の思い出です!次は、ぽれの地元、埼玉にも来てくださいね!』
そのメッセージを見て、ラテは小さく吹き出した。
旅は終わる。でも、それは決して別れではない。この旅で生まれた新しい繋がり。また会う日を約束できる、温かい関係。
窓の外に目を向けると、雲の上には満天の星が輝いていた。
沖縄の空も、これから帰る空も、同じように繋がっている。
(…まあ、たまにはこういうのも悪くないか)
ラテは心の中で静かに呟き、そっと目を閉じた。最高の旅の思い出を胸に、二人は穏やかな眠りへと落ちていった。
Chapter5 mm×lt×kps 琉球の波風に吹かれて 完
お詫び
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あけましておめでとうございます⛩
そして12/31に上げるようにしてたつもりがたったさっき設定ミスしていたことに気がつきました
本当に申し訳ない限りである
今年度もよろしくお願いします!













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。